辻尾修歌集『海を見ながら』

十一時二分を知らする何もなき船旅にゐて両眼を(つむ)

月に一度島に教へに来てくれるピアノ教師を釣りでもてなす

人文字に分校の子ら足らざれば親もまじりて航空写真撮る

バナナ売らぬ土地日本になけれども越してゆきたる二歳に送る

シスターの運転で来しシスターは手土産持ちて眼科に入りぬ

一万六千人の冥福祈るサイレンが一万五千人のわが町に鳴る

 

 

 

事柄の大小を問はず、相手に近いところまですつと心を寄せることが出来る。このことは想像力と関係するのだらうが、辻󠄀尾さんが歌を作る上で、共感性の強さが大きな力になつてゐることは間違ひない。

馬場昭徳解説より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 


田土才恵歌集『風のことづて』

人から人へ、親から子へ、孫へ

風がささやきかけるように

伝えたい思いがある、伝えたい歌がある。

 

そっと耳をすませば言葉はいのちあふれる涌井の

ようだ。

 

 

なにがなし時計いくつもならべいていずこにあらんわれのみの時

湯たんぽに湯の音とぷとぷ階上る今日の終わりの足音立てて

もの書けばたちまちペンを貸せといい意志見せはじむ一歳の春

ケアハウスの窓ひそやかに開けられて春愁ひとつ今とき放つ

風となり水とはなりてめぐりつついのちのほむら若葉縫いゆく

 

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

田村広志著『岩田正の歌』

「文学は手作り」という岩田正の一貫した思想と生き方、そして歌ー。

あまたのカロンと歌集をひもとき、ともに歩んで来た長い道のりを顧みながら、その味わい深い歌の世界に分け入ってゆく。

 

 

私にとってこの本は立ち直るための大切な一冊である。

歌に関わり始めたときから先生と呼んできた。その岩田正のことをボチボチと書き継いだのがこの一冊である。

これは私自身のために私に書いた本なのである。書き継ぐことによって、私自身が療養の鬱陶しさから幾分立ち直れたのだった。   あとがきより

 

 

四六版並製カバー装 2500円・税別


高崎淳子歌集『難波津』

ゲーテ登り茂吉も登りまだらゆきリギの裏山眺めて過ぎる

生は死をそそりムリーニ渓谷にレモン輝き海は誘ふも

国語教師三十六年に魯迅ありヘッセもありて友のごとしも

夏木原松陰の詩にまむかへばさつきつつじがほのかに残る

難波津に百舌鳥の耳原尋ねたり松は緑のときはなる花

 

教師生活を終えた横浜への惜別。

文豪、画工に出会う海外への旅。

研ぎ澄まされた知性と感性の閃き。

 

咲くやこの花――

そう口ずさみつつ人を、歴史を、

風景を、そして世界を凝視する。

 

四六版上製カバー装 二五〇〇円・税別

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鳥山順子歌集『クロスロード』

「クロスロードみつぎ」起点の遊歩道あるけ歩けと私も歩く

 

みずからの住んでいる土地への深い愛情はよい作品を生み出す。土地の神も応援してくれるからに違いない。広島県の尾道市に住む鳥山順子さんは並々ならぬ愛情を街と自然に対して抱いている。それは本書のどのページを開いても明らかだ。「クロスロードみつぎ」とは町のバス停らしいが、一見ふしぎで何と魅力的な名前だろう。私たちを「クロス」する世界に誘ってくれる楽しい一冊である。                  伊藤一彦

 

愛といふ複雑 庭の冬薔薇のくれなゐの口ほそく()くのみ

並びゐて手をつなぐなき内裏雛こころ濃くなりゆく日におもふ

わが持てるものと気づかず寄りゆけりカーブミラーのなかのひとつ灯

()れし畦道低く咲き初めてなづなよなづな真つ(さら)の白

水雪の融けながら降り現世(うつしよ)と彼の世の境に文旦供ふ

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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田土才惠歌集『風のことづて』

なにがなし時計いくつもならべいていずこにあらんわれのみの時

湯たんぽに湯の音とぷとぷ階上る今日の終わりの足音立てて

もの書けばたちまちペンを貸せといい意志見せはじむ一歳の春

ケアハウスの窓ひそやかに開けられて春愁ひとつ今とき放つ

風となり水とはなりてめぐりつついのちのほむら若葉縫いゆく

 

人から人へ、親から子へ、孫へ

風がささやきかけるように

伝えたい思いがある、伝えたい歌がある。

 

 

そっと耳をすませば

言葉はいのちあふれる湧井のようだ。

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玉井綾子歌集『発酵』

ビニールの中の塩麹 発酵を促してもむもまれる母性

「地図読めぬ女性」の一人であるわれの方向音痴は父親譲り

エレベーター降りて歩める方向は確かなり母と二人の旅は

四十三年間眠れるDNAわれにもつけよそれからの筋

わが爪と同じく丸い吾子の爪明らかに茂樹の孫たる証 

出社してはずすショールにいつの間につぶれて乾いたごはん数粒

重そうに何度も揺する抱っこひも子を持つ母が示しいる旗

泣きわめく声にかぶせる大声は金切り声と戦争を生む 

 

 

 発酵をうながして塩麹を揉むように、母性もまた揉まれることで発酵していく――そのように捉える知性。変化や成長と言わずに、発酵と言うところにも、この人の柔軟性と賢明さがうかがえる。                      久我田鶴子・跋より

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恒成美代子『秋光記』

せくぐまりおぼつかなくも生きてゐる母とパンジー風にふるへて

そのやうにしか生きられぬ秋の虫 鳴くだけ鳴いて静かになつた

むつのはな耀ひ母を車椅子に乗せて詣づるうぶすな神に

背伸びして秋の光に手を伸ばすけふのわたしを(ねぎら)ふやうに

 大三角見しことメールに発信し、しんじつ遠し息子はとほい

 

悲しむために生まれたのではない。

目に映る風景はいつもやさしい。

筑紫博多、筑後八女、そこに暮らす人々。

透明な秋の光の中、すべてが穏やかにそよぐ。

 

 四六版上製カバー装 2500円・税別

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高山邦男歌集『インソムニア』

縁ありて品川駅まで客とゆく第一京浜の夜景となりて

温かい気持ち未来より感じたり今際のわれが過去思ひしか

わが仕事この酔ひし人を安全に送り届けて忘れられること

赤や青繰り返し点る夜の街のどこにもゐない点燈夫たち

赤信号ふと見れば泣いてゐる隣 同じ放送聞いてゐたのか

誰一人渡らぬ深夜の交差点ラジオに流れる「からたち日記」

 東京のタクシー運転手としての仕事の歌を中心に、斬新な着想、自在な用語で、東京という都市の現在をうたい、そこに生きる私たちの心の起伏をていねいにうたう。叙情詩としての短歌の可能性を果敢に追い求める作者の渾身の第一歌集。佐佐木幸綱・帯文より

四六版上製カバー装 2500円・税別

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田中徹尾歌集『芒種の地』

仲介の腕まだ錆びつかずあることを両者一歩も譲らざる場に

安全な立場にあればようやくに本音を語る空がおりくる 

腕時計して午睡するふたしかさ秋の気配が全身つつむ

心証はかぎりなくクロ 海の名の酒でも出して自白を待つか

遠つ人先ゆく雁は風をよみいのちをよみて翼ひろげる

帰省する若き部下ありいえづとに長もち持たせ背中をたたく

 

ゆくりなく有明海の舌ビラメくちぞこという幸をいただく

 

 

国家公務員である労働基準監督官として、個人の立場では発言できないシビアな場面、さらに公と私が交錯する微妙な空気を的確に表現、職場の歌に新しい領域を開いて、読者をスリリングな世界にさそってくれる。職場の歌、職業の短歌が激減している現在、果敢に職場をうたった歌集として注目される一冊である。            佐佐木幸綱

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

 

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寺尾登志子歌集『奥津磐座』

 

変哲のあらぬ五月の空ひろく原発一基も動いてをらぬ

アウシュヴィッツ後に抒情詩を書く野蛮ふと短歌こそ抒情詩なるを

も少しを君のかたへに見る海のなにも応へぬ波音を聞く

山頂はしるく注連立て深々と天に交はる奥津(おきつ)磐座(いはくら)

極東を極楽とわが読み違へ黒霞()る日本かここは

 

日常の些事を詠おうと社会の悲惨を直視しようと、あるいはドイツへ旅し、家族に思いを向けようとも。齢を重ねるにつれ、作者本来の清新にして鋭い批評性が、あたかも聖なる神の依代のように、この短詩型に強く籠る。

 

詠い継ぐことで垣間見せるもうひとつの精神世界の原色の明滅!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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高山美智子歌集『春を呼ぶ風』

わが庭の地下に地獄のあるならば今宵満月鬼よ出でこよ

春を呼ぶ風にちぎれし雲ひとつ天頂ちかき満月に輝る

満月を見上げてゐれば伸びて来る白うて細い一条の道

風のなき庭にちひさき風おこしるりしじみ飛ぶ菜の花の上

雷神はわれを見離し行きたらむ光りてしばし後をとどろく

一人居の心地する夜半隣室の夫はしづかに眠りてゐたる

仏桑華の花びらに雨のひとつぶが光りて朝の宇宙を映す

 

地獄の鬼たちよ満月の下に出てくるなら出ておいで。風にちぎれた雲だからこそ天頂で輝いている。満月が白い光の道を伸ばしてくる。髙山美智子さんはこの十年の間に夫が病気に倒れるという最大の悲痛を体験した。その夫を介護する日々のなかで深められた想いはたとえば満月のこの三首にはっきり読みとることが出来る。伊藤一彦

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

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冨岡悦子歌集『まぼろしに聴く』

黒豆をふっくらと煮て持ちゆかん天城を越せば父母ちちははの家

屋根にのりて助けを求むる校友も沈みてゆけり ああ濁流に

「えっちゃん」とだれもが呼んでくれる町 山百合の咲く盆に帰ろう

潮鳴りは春の鼓動かいつしらに心に満ちてくるものがある

弟のぶんまで生きると決めし日もおぼろとなりて冬牡丹咲く

冨岡さんの詠風は、あたかも弾むように明るい。純粋でひたむきな作品は、ふるさとである伊豆の煌めく光の中で、今後ともますますその輝きを増して行くことと私は確信している。            

林田恒浩・跋より

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

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高野しずえ歌集『花開く』

 

悲しみは短歌に詠みて打ち捨てよと言いたる人の今になつかし

金髪のジーパン姿の研修生名はマルガリータ女子大生なり

難産にて命落としし仔をさがす親牛の声は真夜に聞こゆる

両の手に落葉拾うやほろほろと秋逝く匂い胸に上りき

嬰児の髪にそよろと触れて行く微風は夢の仲間なるらし

 

影にさえつまずきそうになる我に駆け寄りくれる三歳の孫

 

本集の素材と内容は多彩であり、単なる酪農育牛でなく、如何に生くべきかを問いかけるルポルタージュ文学としての側面が強く、後世にリレーすべきものは何かを問いかけている。

                       内田紀満

  

 

A5版上製カバー装 2500円・税別

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高橋美香子歌集『ぶどうの杖』

金盃の月に寄り添うひとつ星光を放つ父の面影

マンションの自動ドアよりいっぱいの春光曳きて子の帰り来る

めくるめく光の中を散りゆかん新葉に譲る花いさぎよし

錦繍の衣着けたる魚たち五体全てで交わす言の葉

幾千の葉裏の輝き風に揺れふと秘めし思い人に告げたし

一本のぶどうの杖が支えたる父のからだは一枝でよし



この歌集には父を詠んだ歌が多く、どの歌にも娘としての愛情が溢れんばかりに出ている。注目されるのは、「被爆せし伯父」の一連である。人間を生き地獄に落とした現実を風化させてはならないという作者の願いによるものと言えよう。

佐田毅・序より


四六版上製カバー装 2500円・税別

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田中内子歌集『山桃と鳥』

すっきりと剪定したる山桃の無骨な枝ぶり惚れ惚れと見つ

たどりゆく空に続かん雪の道父の真白き骨片拾う

入院の間近き夫が汲み置きし山の清水の喉にやさしも

四角豆の花はむらさき花豆は赤く咲きたりそれぞれの夏

露はじく朝採りレタス両の手にすとんと重き浅緑を受く

群れて咲くラッパスイセン入学式を迎える児童のように明るし


人間と自然への関心が深く温厚な田中さんには、家族の歌と農に纏わる歌が多い。真摯に生き、歌うべきテーマを持ち、悲しいことに出会ってからもおおらかさを保って底力を発揮する。


中川佐和子・跋より


四六版上製カバー装 2500円・税別

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時田則雄歌集「みどりの卵」

今日もまだ生きてゐるらし長芋をかうして朝から掘り続けゐる

さうだよ昔 空にはなんでも棲んでゐた 魚の目玉のみどりの涙

野の馬の巨大の臀部輝きてゐるなり黒き太陽のごと

石をもて野地蔵の目を潰したる遠いあの日のあの青い空

百姓とはすなはち大らかに遊ぶ人雲を眺めてけむりになつて



響け!かなしい詩魂ゆえの、屈強にして繊細な北方の歌の磁場に。


北の広い大地に樹木のようにどっしりと根を張り、野男として在り続ける歌びとがいる。

トラクターで荒々しい土塊を耕し、石を砕く血と汗の労働も、どこか遠くの神話や伝承の世界へとすり替わっていく不思議さ、自在さ。


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谷口基歌集『春愁の塊』

垂れ下がる反旗映せる水に沈み眠たさうなり肥えた鯉たち

日没の慎み容れて教室はだれのものでもない刻に入る

言ひかけて言はず去る児は不平ではなくて母恋ふ瞳をよこす

影あらばわれは生き行く一本の葦なる比喩を疎んじながら

手のひらにつつむ湯呑に湯が六分そのぬくもりの一生と思ふ

 

 

他界の眼。生も死も一枚の研ぎ澄まされた刃物で切り刻まれた断片にすぎない。現実も夢も、家族も生徒も、変化する風景ですら、自らの心象を吹きすぎてゆく風の輪郭。

さらば歌よ!反世界を揺るがす木魂となれ!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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塚本靑史小論集『青一髪」

 

『青一髪』とは『青山一髪』とも表記され、大海原の水平線に、うっすら表れた陸地を意味する。 滄溟の群青に浮かぶ淡青は、正に期待と希望の光明に思えるだろう。たとえそれが蜃気楼であっても。 (本文中「青によし」より)

 

 

壮大でロマンに満ちた中国古代史をテーマとする歴史小説家の眼。 眼光炯々、現代文明を、そして社会の実相を射る。

博学の才と言葉への畏敬をもって綴る、尖鋭にして芳醇な110篇のエッセー。

 

四六版並製 2500円・税別

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釣美根子歌集『はぐれ鳩』

雨の日は耳から朝がやってきてびしょぬれバイクのせつなさを告ぐ

トンボにはトンボの航路 秋日和 ひと待つわれは雑踏の底

抜きんでて高くひとすじ豆粒の機影の尻が白雲をひく

山よりも海に惹かれる二人なり樹よりも水の不確かにして

老いし人のふぐりのような干し柿や かくなるものを見せず舅(ちち)逝く


身めぐりのさまざまな物象をそっと掬い取り、定型の器へと盛る。ほのかな艶をはらみ、ユニークにしてどこか謎めいた世界の空。その空は明るく、そして限りなくさびしい。

 

この世からはぐれていくものへ、

慈愛に満ちた歌のしらべ

 

四六版上製カバー装丁 2400円•税別

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竹内由枝歌集『桃の坂』

うらうらにくれなゐにほふ桃の坂たれかを送り誰かを待ちゐき
鷺草の花の白さよ飛ばざればジュラ紀にあてて手紙書きゐる
多摩川が今し産みたる大き卵水面にぬらり満月匂ふ
思ひ出は椿の森に落ちてゐむ木洩れ日の斑を一人踏みゆく
わが裡の曠野を駆ける白き馬銀河の果てまで駆け抜けて行け

桃の坂ーその坂はどこにあるのだろうか。移ろいの坂、無常の坂、どこにでもあるようで、どこにもない異界の坂。匂いたつ浪漫性が上質の言葉としらべとを獲得し、人の世の生死の意味をじっくりと問い続ける。



四六判上製カバー装 2500円•税別
 

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武富純一歌集『鯨の祖先』

「まぁええか」呟くほどにまたひとつ失うものが増えてゆきたり
わが手より三歩駆け出し待っている自動改札茶色い切符
他の星へ移り住まんとなる時は歌人はきっと最後のロケット
下を向き咲く花なれば下手より撮れば真直ぐに我を見つめる
捕まえたと我は思っているけれど「捕まってみた」この犬の眼は
たそがれの電車の響きは繰り返す「なに言うてんねん、なに言うてんねん」


読みながら私が感じたのは、面白いなあということだった。実は現代の短歌に最も欠けている一つは面白さではあるまいか。……言葉本来の意味の面白さをもつ歌集ははなはだ少ないように思われる。『鯨の祖先』を読むと、われわれは何かしら目の前が明るくなり、心はゆったりとして開放感を味わうのである。


伊藤一彦・跋より

四六判上製カバー装 2500円•税別

電子書籍版 1500円•税別

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定本 竹山広全歌集

まぶた閉ざしやりたる兄をかたはらに兄が残しし粥をすすりき
人に語ることならねども混葬の火中にひらきゆきしてのひら
おそろしきことぞ思ほゆ原爆ののちなほわれに戦意ありにき
妻は妻の灯に安らへよわが点す灯はみづからに降りゆかむため
死の前の水わが手より飲みしこと飲ましめしことひとつかがやく
あな欲しと思ふすべてを置きて去るとき近づけり眠つてよいか
崩れたる石塀の下五指ひらきゐし少年よ しやうがないことか
六十年むかし八月九日の時計の針はとどまりき いま
 
第一(処女)歌集『とこしへの川』
第二歌集『葉桜の丘』
第三歌集『残響』
第四歌集『一脚の椅子』
第五歌集『千日千夜』
『竹山広全歌集』
第六歌集『射禱』
第七歌集『遐年』
第八歌集『空の空』
第九歌集『眠つてよいか』
第十(遺)歌集『地の世』 (竹山妙子、馬場昭徳編)を収録。
 
A五版箱入 9000円•税別
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高村典子歌集『雲の輪郭』

ひとたびは滅びを言はず 烏座の星の砕ける絵はがき届く

真っ赤なる林檎を捥げばその後を空気ぽつこりくぼみてたり

オクターブ掴み熱もつ指先のたどりゆくなり雲の輪郭

張りつめる冬の硝子のこころゆ健やかな頃のあなたに帰る

大切なものから記憶失ゆくか欅に風の船がきて

 

高村典子さんの歌には、人間という存在の根を悲しませるような痛切なひびきがある。ひたすらな凝視や思考の中から生れる言葉には、いま対きあっているものの窮極のところをうたいあらわすほかないという、一種、崖っぷちに立つような澄んだ心がある。作者を取りまく身近な題材にも、その言葉の世界は広く作品は痩せていない。作者の独特の個性に期待するところは大きい。

馬場あき子帯文より

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

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寺田惠子歌集『集真藍』

君の住む街を通りて行く先はモネの「睡蓮」咲く美術館

一枚の板を彫り抜く職人芸「ほたるぶくろ」を吾は求めぬ

スプリング•エフェメラルと人の言ふ春の妖精しなやかに咲く

アンネの薔薇咲いてゐるとか二人して探しゆくなり初夏の教会

藍色の小花を集め咲く紫陽花 その花の名は集真藍(あづさあゐ)とか

 

集真藍という漢字に広がるイメージは、とても美しく、声に出して「あづさあゐ」とつぶやいてみると懐かしくなる。その言葉に惹かれ、こだわり続けた彼女の文学的な感性を私は信じたいと思います。

角宮悦子

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

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昭和9年生れ歌人叢書4『まほろばいづこ 戦中•戦後の狭間を生きて』

こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。

戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。

そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より

 

軍歌からラブソングへ         朝井恭子  

少年のころ              綾部剛   

灯火管制               綾部光芳

鶏の声                板橋登美

ニイタカヤマノボレ          江頭洋子

戦の後に               大芝貫

語り部                河村郁子

昭和二十年八月十五日         國府田婦志子

戦中•戦後の国民学校生         島田暉

空                  椙山良作

確かなるもの             竹内和世

村人                 中村キネ

太平洋戦争ー戦中•戦後         花田恒久

氷頭                 林宏匡

記憶たぐりて             東野典子

少年の日の断想            日野正美

宝の命                平山良明

空に海に               藤井治

戦中戦後               三浦てるよ

椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博

夏白昼夢               山野吾郎

生きた時代              結城文

ひまの実               四元仰

 
並製冊子版 2000円•税別
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滝下恵子歌集『葡萄むらさき』

このやうに一生(ひとよ)は畢(をは)りてゆくものか暮れ急ぐそら葡萄むらさき

もういいかい何度聞いてもこたへなく鬼となりたるままに日暮れぬ

はつ夏のさへぎるものなき須磨の海あをいちめんにすつぴんの海

風花は冬の蛍か触れむとし触れ得ぬままに消えてゆく日々

さびしさのきはみは秋の晴天の昏昏と日はふりそそぐなり

 

混沌とした身のまわり、心のまわりの風景。次々に来る病いとつきあいながら、限られた風景から珠玉のたましいを掬い取るように歌い継ぐ。加齢とはうらはら、変若水(おちみず)のように蘇生する豊かな感性としらべ。

四六判上製カバー装 2600円•税込

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土屋彰歌集『父は叫べり』

雑音の多いラジオに耳を寄せてゐた父は叫べり「日本は負けた」

煤竹で水鉄砲をつくりくれし種夫さん艦と共に沈みき

富士湧水の源泉といふ崖下の岩間の清水を手に掬ひ呑む

休耕田にもの燃す煙は夕茜を背にして立てる富士をかくせり

恒例の野焼きの跡の黒々と富士南麓の春三月は

 

敗戦。戦中を生きてきた作者の内耳深くに父の叫びは刻まれたままだ。敗戦後、富士の裾野で家業の汗を流す。豊かな自然との共生の日々ながら、悲傷のしらべは深くこころに沈み入ってくる。

A5版上製カバー装 2600円•税別

 

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富澤文子歌集『コンドルの飛ぶ国へ』

ボヘミア古城彫刻の壁を写真に撮るだまし絵の技と明かされながら

夕暮れのスカイスクレーバーに雲かかりその下を行く渡りの鳥は

チチカカ湖さざ浪のたつ湖畔には龍の舳先のトトラ舟勇む

 

たのしい旅行詠。

国内は奈良とフクシマ。海外はチェコ、ハンガリー、オーストリア、マチュピチュ。

欧米各地にわたる明るく、楽しい歌集である。 草柳繁一

 

A5判上製カバー装 2000円•税込

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冨尾捷二歌集『満州残影』

■平成25年度日本歌人クラブ東京ブロック優良歌集

 

引き揚げ船の仮設便所の暗き穴に玄界灘の荒波を見き

病み飢えし集団生活引揚げを待ちいし我等難民なりき

「生まれては見たけれど」職無き男らの渡りて孤児の生れし満州

「日本が負けた」噂が車内走り抜け列車は満州曠野を疾駆す

お国より渡されし父の形見なり開けて空しき白き骨壺

 

人生の原点と言うべき引揚意見が、モノクロームのドキュメントとして歌われており、切実な衝迫力に息をのむ。

本書は戦後日本、およびすべての日本人の魂の記憶であるとも言える。  谷岡亜紀解説より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

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高橋海洋歌集『糸を紡ぎて』

いかような願いをこめて名付けしかわれの名「海洋(なるみ)」海に向きつつ

無念そうに一声吠えて夕の五時終えたる犬をわれは抱きしむ

なに、なにと問う二歳児に娘も真顔育児と育自の試練始まる

シャンパンを庭の四隅に撒きて謝す離るる総(ふさ)のおぼろなる宵

石和は桜、五湖は銀雪、四月八日山ひとつ越え季節ふたつ愛ず

夭折のあなたの墓前白百合の香はわがシャツに移りておりぬ

 

やさしくそして柔靭な明治の甲州女の母の姿、

その世界が高橋海洋の歌の書くのひとつとして存することを知り、

私などは沁み透ってくるような熱いものを覚えた。

歌を紡ぎ始めたのは五十歳を過ぎてからではあるが、

十余年にわたり、月例勉強会に往復五時間もかけて出席するなど、

本集にはその努力の結晶が確かに詰まっている。

下村光男

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

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土谷榮子歌集『虹色の鉛筆』

虹色に書ける鉛筆あるを知る苦しみ悲しみ書きゆかば虹

長き首空に屈めて齝みぬきりんは麒麟のことなど知らず

モンゴルに太陽電池冷蔵庫背に乗せ歩むらくだありしと

静けさは師の声のみを聞かせをり夕立しろし谷渡り来る

帰り来し包みの中にひそとゐる桜ひとひらふふふふ ふふふ

病まふ日は里芋などに顔も似て土に還れる日を思ひたる

 

若々しい好奇心で、目の前に現れてくるさまざまな事象をまっすぐに見つめ、それをどう表現しようかと、苦労もされている。

実に充実した豊かな精神生活である。

-森岡千賀子•解説より-

 

四六判上製カバー装 2730円•税込

 

 

 

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當間實光歌集『大嶺崎(うふんみざち)』

沖縄を供物となして見捨ている大和(やまと)を吾は祖国と呼ばず

摩文仁野のいずちに果てしや義父よ父よ五月を待ちて咲ける月桃

妻と子と血で繋がれて囲みいる普天間基地に仏桑華咲く

ふるさとは基地となりにし大嶺崎フェンスが分かつ海と陸とに

辺野古崎基地建設のきざしあらば老寝

 

當間さんの短歌は、沖縄をテーマとする社会的視点を持つ歌から、亡き祖父、父、母親を歌った作、故郷の自然や妻への思いを託した歌など、多岐に渡る。(道浦母都子)

A5判上製カバー装 2835円•税込

 

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滝澤齊歌集『屏風絵のなき屏風歌 木愛づる歌ども』

桜みち薄紅色の風吹けば道ゆき人もなべて匂へり

雪降れば松を尋ねむ 白妙に身をけすらひて吾を待つらむ

月明し 淡雪かかる白梅に 銀の屏風となりて野は映ゆ

炎天に焼かるるものを プラタナス 木陰をくるる君がやさしさ

青葉なる桜の下にやすらへば 汗もさまりぬ いざ歩み出てむ

紅葉葉を敷き詰むる道の色深き 時雨ふりけむ夕べの園は

 

歌作りを純粋に楽しむ。『古今集』の世界に遊び、

古歌の宇宙に紛れ込みながら、

やわらかで、匂いたつ美を求めてやまない。

 

繊細な抒情が奏でる歌世界のはじまりだ。

 

四六判並製 1500円•税込

 

 

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竹山広全歌集

=在庫切れ=

書店戻り等が出て販売可能になりましたら再度告知致します。


なにものの重みつくばひし背にささへ塞がれし息必死に吸ひぬ

血だるまとなりて縋りつく看護婦を曳きずり走る暗き廊下を

逃げよ逃げよと声あららぐる主治医の前咳き入りざまに走り過ぎたり

 

A5版上製箱入り 7000円•税別

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寺島博子歌集『王のテラス』

遠景として在るもののやさしさを見せながら夜に明かりがともる

六本のかひなのうちに一本にこの手を添へて阿修羅と歩む

桜桃をひとつぶふくみ種ひとつ吐き出すさい飛ばすあそびす

何ものの命かわれに添ふとさへ思へてならぬ日暮れの風に

沈丁花のかをりいまだし親と子は似てほしくなきところが似ている

 

生きるとは、命とはという問いを自らに投げかけて、渾身の力をこめて詠う。

評論集『額という聖域』で齋藤史の作品と対峙したことかが糧となって、さらに深淵な世界を見せている。 外塚喬

 

四六版上製 2625円•税込

 

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田中拓也歌集『雲鳥』

=第17回寺山修司短歌賞受賞!=

 

雲鳥のはためく夏の岬より八月の空澄み渡りたり

バスに揺られ緑の山を眺めおり樹々の心は常に遠くて

誰の子の産声だろう 百段の石段のぼり聞く森の声

鉄塔に映える夕陽が美しい百万回生きたねこがほほえむ

未来とはさびしい言葉 古ぼけたテトラポットに腰をおろしぬ

あなたの立つ小高き丘を吹き抜ける風よ八千年の秋を集めよ

 

雲の間を飛ぶ鳥。その孤高にして純粋な霊魂の形象を仰ぎつつ、

流れ行く生の時間と向き合うやさしい眼差し。

澄みきった心には澄みきったしらべが宿り、言葉が青々と繁る。

被災詠をも加え、さらに厚みを増した歌のたしかな飛翔力。

 

四六版上製カバー装 2625円•税込

 

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玉城寛子歌集『きりぎしの白百合』

天を突く轟音地響くカデナ基地 祈り裂かれて血を吐く仏桑華

ニッポンにありてあらざる沖縄かシジフォスの石積まれゆく島

首すらももたげ得ず夫の腕の中生の香放つレモンを嗅ぎぬ

失明を告げられ怨嗟の声あげし息子はいま車いすのわれに添う日々
危うきはきりぎしに咲く白百合の九条われら声あげ守らん

 

第一歌集『沖縄の孤独』から九年。抱く内なる沖縄、

そして戦後なき「オキナワ」の現実と対峙し一途に詠い続けて30年。

突如襲った病に長い闘病生活を余儀なくされているが、

その真摯な姿勢は少しも揺らぐ事が無い。

多くの受賞作と共感を呼ぶ作品を精選して収録した第二歌集。   玉城寛子

 

A5版上製カバー装 2730円•税込

 

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高橋和代歌集『時間』

たかはらの空澄みわたりちぎれ雲ひとつゆるらに花の梢過ぐ

看取るとは見ているのみや手出しならぬ領域へ奪はること近からむ

 

ゆっくりと、あるいは速く、滔々と流れゆく記憶の河。

河とともに在るかけがえのないいのちの時間。

まばゆい世界に向かって呼びかけながら

言葉を紡ぎ続ける時間の旅人。

 

 

四六版上製カバー装 2,625円•税込

 

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田中教子歌集『空の扉』

 

我よりの離婚の催促待つ夫が送って寄越す林檎の木箱

父親を忘れぬように会わせろとほとんど他人の君が言い来る

子によりて親となりゆく我の手に松ぼっくりのひらいたかたち

存在の翳りを色濃く映す、澄明な空の扉をあけて、苦悩の原罪を問う。英訳短歌と斬新なコラボレーション歌集。

四六判上製カバー装 2500円•税別


Sora no Tobira(Door to the sky)

written by Kyouko Tanaka

2700yen

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谷川健一歌集『海境』

七十路(ななそぢ)の半ばを越えて青き魔の海境(うなさか)は見ゆ干瀬(ひし)の彼方に

海境に不可思議の時まどろめばいのちの果の祈り湧き立つ

浜木綿の蘂は残れど浜風に吹きさらさるる棄教のこころ

 

現世と他界の境界を、哀しくも美しいしらべによって詠みあげた祈りの時空。

A5版上製カバー装 2700円•税別

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