安斎未紀歌集『掌上動物園』

定価:2,530円(税込)

判型:四六判並製カバー装

頁数:172頁

ISBN978-4-86629-325-7

自ら体験した心身の苦しい状況を短歌で表現するということは、その苦悶を追体験することにほかならない。

それは生半可な精神ではできない。

これを表現せずにいられないという強靭な表現意志が必要なのだ。

その表現意志に短歌型式もまた、応えている。

その意味で安斎未紀は、まぎれもなく短歌に選ばれた人である。

短歌に選ばれた人の命がけの表現を受けとめてほしい。

 

            ー藤原龍一郎「解説」よりー

 

 

 

<引用五首>

 

とめどなく花手折りたり眼底に狂ひ回れる観覧車かな

 

病棟がま水に沈む午前零時 我が鼻犬のごとくつめたし

 

呪ふこと傷抉ることわらふこと 雨一滴の紅かれと思ふ

 

掌に象よ、麒麟よ、獅子よ歩め、ものみな小さく見ゆる星月夜

 

眠れぬを日常として暗がりに水色の蛾の舞ひ狂ふなり

 

 

 

 


大村誉子歌集『大切なわたし』

定価:2,200円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:148頁

ISBN978-4-86629-322-6

第一歌集。

 

失ったすべての後、短歌が作者に新しい希望を与えた。

悲しみと回復の物語、

一つ一つの歌が彼女の心の声を映し出す。

新たな人生を歩む彼女の勇気を感じて欲しい

 

                   帯文 佐佐木頼綱

 

 

『大切なわたし』より5首

 

障害の身の上のこと秘めたまま生きゆく先の黙秘は難し

 

生きること数多抱える生き辛さ風薫る今皆に伝える

 

勝ち負けを問う大人にはなれなくて作業所通う障りある身の

 

夏めきて過ぎしひととせ清和なる作業所通う吾を労る

 

梅雨晴れにかかりし虹を見る吾の皆の助けに感謝し生きる

 

 


時田則雄歌集『売買川』

定価:2,530円(税込)

判型:四六判並製カバー装

頁数:178頁

ISBN978-4-86629-317-2

 

第13歌集。

 

売買川―ウリカリ、アイヌ語で捕った魚を集める所

 

春が来ればせせらぎのひびき。

白い辛夷の花が咲き、蝶やトンボが群れ飛ぶところ。

この北の大地にどっしりと深く根を張る樹。

歌う樹だ。雄々しく、野太い声で大空に向けて叫ぶ樹だ。

 

 

『売買川』より四首

 

長靴の中なる闇の薄らぎて今日が静かに動きだしたり

 

足の裏から生まれる歌のあることを知つてゐるのはポロシリカムイ

 

日溜りの石のものいふ火の匂ひ水の匂ひを漂はせつつ

 

深呼吸すれば肺腑に春の香の満ちて農魂拳に集ふ

 

 


林三重子歌集『桜桃』

定価:2,640円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:184頁

ISBN978-4-86629-308-0

こころの裡にひろがる街。

さびしい光の街並み。

その光をそっと掬い取るように歌を詠み継ぐ。

 

たとえば単調な日常の風景や人々の暮しなどに、豊かで純粋な詩情を注ぐ。それが歌のかたちと信じつつ。

 

 

 

 

『桜桃』より五首

 

小さなる脇屋根にさへ瓦あり雪積む村の人のゆたけさ

 

ひそやかな恋のごとくに開きゐる茗荷の花のうすき黄の花

 

潮鳴りを聞きたしと日々に思へども今朝は鴉のこゑを聞くのみ

 

きさらぎは優しく生きむ青空の隈なく光りて北の風吹く

 

柿若葉青葉になりて過ぎながら硬くなりゆく思考さびしむ

 

 

 


伊藤一彦著『牧水・啄木・喜志子』

定価:2,860円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:284頁

ISBN978-4-86629-306-6

<近代の青春を読む>

 

郷土宮崎の地から浮遊する強靭な魂。

その空はどこまでも青く澄みきっている。

牧水の歌を、牧水の心を、純粋にして高い文学の志をもって、啄木などとの交友関係、妻・喜志子の歌を丹念に読み解きながら、生き生きと描かれていくロマン的な世界。

孤独な人間の深い影を踏みしめながら。

 

 


*目次より

 

第一部

Ⅰ 若山牧水と石川啄木

Ⅱ 啄木と牧水

Ⅲ 与謝野晶子と若山牧水

Ⅳ 区切れを考えるー信綱『思草』と牧水『別離』

Ⅴ 牧水における「古代的思考」

Ⅵ 牧水のわが愛誦歌

Ⅶ 若山牧水ー近代日本の杜甫・李白

Ⅷ 俵万智著『牧水の恋』を読む

Ⅸ 若山牧水をどう読み、考えるか

 

第二部

Ⅰ 若山喜志子の歌 上

Ⅱ 若山喜志子の歌 下

 

 

 


市川正子歌集『風越』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:208頁

ISBN978-4-86629-309-7

 

西に広がる関ヶ原、その彼方に伊吹山の聳える西濃の地。

農村の面影をとどめ、歴史にゆかりある地を拝啓にした日々が、一首一首リアルに刻まれる。きびしくも豊かな自然を見つめ、地域の老齢世代との人間的な交流を詠い、間歇泉の甦る亡き夫の追憶、教職時代の佳き思い出が噛みしめるように歌にとどめられる。とりわけ不穏に傾き始めた時代への恐れや批判の歌には強く訴えるものがあり、戦争で父を失った世代の切実な声として忘れがたい。

       帯文 島田修三

 

*・。*・。*・。*・。*・。*・。**・。*・。*・。*・。*・。*・。*

 

『風越』より5首

 

田起しにめくらるる田が息を吐きむわっむわっと春近づきぬ

 

選られざる厳粛があるスーパーの霜降り飛騨牛まだ値を下げず

 

空缶になって蹴られて転がってそのまま冬陽を浴びつづけたい

 

「あらざらむこの世」と書きて筆を上ぐ紙の余白に伸び来るひかり

 

暴力をかくはればれと流しゆく今朝のテレビは軍事パレード

 

びっしりと蟻が熟柿に群がれり蜜こそちから蜜こそいのち

 

 

 


大塚亜希歌集『くうそくぜしき』

定価:2,400円

判型:四六判並製カバー装

頁数:186頁

ISBN9784866293073

第二歌集。

 

何もない、役にも立たない。

空漠として、ただ寂寥とともに在る。

そんなものに心を震わせ、色を透過させる。

感動の変換、それが歌だ。比類なき魂の戦慄だ。

 

-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵--∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-

 

 

『くうそくぜしき』より五首

 

夕焼けの赤を怖がり泣いた日があった母さんの手を握りしめ

 

凍る日の雪のさらさら君のこと好きと何度も行ったさらさら

 

雨降れば空とつながる心地して約束のない日は濡れてゆく

 

ひざ抱けば裡から音の響く夜わたしはひとつの心臓である

 

はじまりは針孔に糸通すこと光に向かってゆく糸の先

 

 

-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵--∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-∴-∵-

 

 


丸山順司歌集『鬼との宴』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:192頁

ISBN978-4-86629-301-1

こころの裡なる鬼どもが騒ぎ始める

悲哀とユーモアをたっぷりと孕みながら日常がどんどんと浄化されていく不思議

作者の世界と覗いているものはいかなる鬼か

 

 

 

『鬼との宴』5首

 

ぶらさがるものはぶらんこ揺れもせずしんとだらりとさがりて真昼

 

真実の口へ右手を差し入れて手紙落としぬ手は無事なりき

 

 

ベランダの椅子に座れば見ゆるもの空しか無くて空を見てゐる

 

動くのを忘れて眠る丸むしをそつとつついて転がしてやる

 

このままでよいかと問はれそのままでよいと答へぬ あんぱん一つ

 

 

 


岡本瑤子歌集『雨の韻律』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:218頁

ISBN978-4-86629-299-1

 

第三歌集。

 

雨の音を聴く。

ひそかに、そしてリズミカルに。

それは生死の韻律、一世界をめぐる心の有り様。

おだやかに過ぎていく日常がゆたかなしらべを奏でる。

 

 

 

 

『雨の韻律』より5首

 

つましくも凛とあるべし白梅を眺めし母の静かなこゑ

 

病み上がりを化粧(けはひ)に隠し人の中集ひ笑みたる私に疲る

 

露あつめ墨摺り書きし短冊の思ひ出ゆれてわが星祭り

 

さり気なく父に寄り添ふ壮の子の阿蘇のふところ草千里ゆく

 

いつしらに「学生街の喫茶店」口遊みをりシャッター通り

 


岡田延子歌集『七曜星』

定価:2,640円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:164頁

ISBN978-4-86629-287-8

 

第一歌集

 

小題をつけられた作品の集まりごとに、明確な題材、テーマが打ち出されている。

連作を単位としたテーマ性という考え方を強く打ち出したのが、昭和三十年代に始まるいわゆる「現代短歌運動」だが、この歌集もその意味で、まぎれもなく「現代短歌」の一巻である。

谷岡亜紀「解説」より

 

『七曜星』は、北斗七星の別名です。

北極星を探す指針となり、目的の地を目指す旅人を、無明より導く星です。輝く七つの星に安寧なる未来を、と願いを込めて歌集を『七曜星』と決めました。

著者 「あとがき」 より

 

『七曜星』より5首

 

歯科医院の壁にビュッフェの版画あり海空暗く人影の無く

 

巨大なる風車回りて海岸の四度目の夏ゆっくりと過ぐ

 

この世には悲しみの歌数多(あまた)有りて大地の民は泣きながら歌う

 

おぼろげな記憶の中を歩み行く托鉢の僧大寒の辻

 

生き生きて行き着く先に花野あり夢の終わりの百合の群生

 


藤田冴歌集『梧桐』

定価:2,640円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:172頁

ISBN978-4-86629-286-1

 

第五歌集!

 

どこか遠くを見つめている。

その眼の輝き、その鼓動、たしかな命の華やぎ。

ひとときの挫折は高みを飛翔するための言葉の翼。

淡い恋情が薄紅の霞のようにしらべに纏わりつきながら。

 

 

 

『梧桐』より五首

 

吾ら子に戦(そよ)ぎし母は日本語がうつくしかりし頃の梧桐(あおぎり)

 

広大な地平の秘めゐる愛だらうどこまでもビート、どこにでもビート

 

そのかみは貝がらなりし吾らかもさざ波のやうにメール交はして

 

マンゴーの楕円の縁(へり)を剝きながら思ふ子午線の上の虚空を

 

迷ひつつ彼岸へ向かふその時もかたみに思ふ人のあれかし

 

 

 

 


大木恵理子歌集『コンパスを振る』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:172頁

ISBN978-4-86609280-9

 

第一歌集!

------------------------------

大木の歌は、あまりレトリックに凝ることはなく、見聞したものを簡明に描いていく作風である。

一見オーソドックスだが、こうした表現の粘り強さは、他になかなか見ることができない。

 

----------------------------------吉川宏志 解説より

 

 

 

『コンパスを振る』より5首

 

迷ひ来し笹の葉そよぐ山道にコンパスを振る心澄まして

 

たはやすく話しかける登記官長わが家の登記検索したと

 

この仕事終はればだれかと旅しなさい近頃母は共にと言はざり

 

何もかも親のせゐかと児を叱り涙ぐめるは児でなく私

 

疲れたと言ひてわが背にもたれ来し裕子さんのぬくもり覚えてゐるよ

 

 

 

 


桜田一夫歌集『インターナショナル』

定価:2,200円(税込)

判型:四六判並製カバー装

頁数:148頁

ISBN978-4-86629-282-3

 

第二歌集!

 

 

高々と握りこぶしを突き上げてインターナショナル歌いし日あり

 

定年退職後にあることを切っ掛けに短歌を始めましたが、歌人でもあった母の影響が多分にあったと思います。

短歌の題材は様々な分野に及び、私にとって精神のバランスを取るのに有用であったように感じます。

-----------「あとがき」より

 

 

 

『インターナショナル』より5首

 

羽化したる蝶のごとくに玄関に並べ置かれる娘の革靴

 

企業名背負いて一人さりげなく土俵の砂を掃き清めおり

 

引力に逆らうごとく伸びてゆく春の目覚めの樅の枝たち

 

点線が実線となれば傘をさし広重の絵の人物となる

 

二十年住みしマンション引き払う最後の風を窓より入れて

 

 

 

 


荻本清子歌集『冬蝶記』

定価:2,750円(税込)

判型:A5判上製カバー装

頁数:184頁

ISBN978-4-86629-276-2

圧巻の第12歌集!

 

さびしい心には

さびしい調へが宿る。

神羅万象を見つめつつ

身近な日常に心を寄せながら。

 

生命の機微に触れてゆく。

花や鳥や蝶を詠む。自在に。

 

やがてまた、

どこかですべてが耀き始める時を願いつつ。

 

ああ、孤独な形象の連なり、いとおしいいのちの重み。

 

 

 

 

冬蝶記』より5首

 

閉じし目にうっすら泪湧くような夏日のなかに立ち上りたり

 

胸奥につねに湛える真清水の尽きせぬほどに書きつづりゆく

 

花の息わが息合わす真夜中にうつし世のものなべては眠る

 

野の枯れ葉敷きて眠れる男おり 天下住処に臆すなき生

 

見えがたき世を見つづけし眼差しの潤むかなしさ人も老いたり

 

 

 


糸川雅子歌集『ひかりの伽藍』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:204頁

ISBN978-4-86629-277-9

第31回ながらみ書房出版賞受賞!!

 

第七歌集。

 

世界の外側に落ちる水の一滴にも

この世の中の理不尽な事柄に対しても

研ぎすまされた感性も針は分け隔てなく捉える。

びんびんとして、孤高な反響の環を広げるためにのみ。

 

 

 

 

『ひかりの伽藍』より5首

 

花いちもんめ 幼子売られ幼子の声は買われて村はなざかり

 

膝立てて横たわる女体の列島にくまなく電気の血がながれたり

 

空の音群青の音ひたひたとひかりの中をひとは降りくる

 

灯をともしきょうも始まるわが夜の視界の端に置かれて 砥石

 

そのひともこころの器に水を汲みさびしき昼をゆらしておらん

 

 

 

 


秋元美津枝歌集『吾れ半歩でも現役であれ………第九とともに

定価:2,530円(税込)

判型:四六判並製カバー装

頁数:156頁

ISBN978-4-86629-269-4

 

賜物の第一歌集!

 

今日生きて明日には灰となる命吾れ半歩でも現役であれ

 

朝に紅顔、夕べには白骨の身(蓮如)――。

15歳から工場でもの作りに励んできた半世紀。

さまざまな偶然が重なり歌と出会った。

慣れない工具を扱うように、師も仲間もなく一人きりで歌作に励んだ。

灰色の労働も悩みも薪と燃やし、はかないこの世の命に向き合い歌を詠む!

 

 

『吾半歩でも現役であれ・・・第九とともに』より五首

 

流れ来る三秒組み立てラインにて今日も無口で過ごす人あり

 

湧く雲に流浪の雲の重なりて秋のきざしははや空にきて

 

川上へ行くほど水は清くして色はにごりつつ郷(さと)に流るる

 

ネジまはす無意識の手に温かきいきのひと息ふれて驚く

 

吾の永年勤続祝ひのその道で解雇闘争のビラをもらひき

 

 

 

 

 

 

 


飯島智恵子歌集『草木瓜の咲く家』

定価:2,750円

判型:四六判上製カバー装

頁数:208頁

ISBN978-4-86629-270-0

 

この世の人情の温かさと辛さをユーモアに包(くる)んで詠いあげた、微苦笑の軽気球。とどこおりない洒脱な詠み口は、作者の人間愛と人生肯定の強さを証し、時折のぞく悪戯(いたずら)ごころが大らかな人柄を偲ばせる。

60年の作歌歴を凝縮した熟成の第二歌集。

(千々和久幸)

 

 

 

『草木瓜の咲く家』より5首

 

草木瓜(くさぼけ)の返り花咲く生垣に虻がひすがらきて遊びおり

 

取り壊す噂ながるるビルの階老人が夕陽背にのぼりゆく

 

乾反り葉を踏んでいこうかかさこそと乾いた音がこの靴は好き

 

フェイス・シールド百円也ふたつ買う夫にひとつ私にひとつ

 

陽の落ちて闇にとけゆく遺跡群ほーろろんと蜥蜴(とかげ)が鳴けり

 

巻き尺をのばしビュルンと放ちやる何もなかった一日(ひとひ)の終わり

 

 


佐藤恵美子歌集『青葉木莵』

定価:2,750円

判型:四六判上製カバー装

頁数:228頁

ISBN978-4-86629-266-3

第三歌集!

 

『青雁』『島梟の森』などの歌集の著者、佐藤恵美子は新アララギの探鳥の歌人として知られる。

 

人生半ば、病を得た彼女は、度々の生命の危機を乗り越えて来た。そのさなか、杖とも頼む夫君を失い悲嘆のどん底にあった。

 

しかし、やがてそこから立ち上がった。

 

彼女を暖かく見守る子や孫たち、庭を訪れる多くの野鳥たちを詠むことを力に再起したのだ。本書は一日一生の思いを伝える一歌人の「生」の記録である。(雁部貞夫)

 

 

『青葉木菟』より5首

 

古(いにしへ)の名残とどむる石畳踏みしめ登るコロンブス生家へ

 

歩幅広く歩む大鷺のたつる波鳰の浮巣を岸に寄せ来る

 

山歩きすでに叶はぬわが身なれ『日本百名山を詠む』を手に心豊けし

 

自然に親しむ心伝へしは祖父にして野鳥愛するわれとなりたり

 

慈悲心鳥の声聞き佇む里山の朝の冷気に活力の湧く

 

機の窓にまもりしかの山デナリ峰われはマッキンリーと呼びて親しむ

 

病みてより探鳥会に行くを得ず庭に尉翁あしたより来る

 


服部崇歌集『新しい生活様式』

定価:2,640円

判型:四六判上製カバー装

頁数:166頁

ISBN978-4-86629-267-0

挑発する知の第二歌集!

 

「栞」より

 

世界との接し方で言うと、没入し切らず、どこか醒めている。かといって冷笑的ではない。謎を含んだ孤独で内省的な知の手触りがある。 -谷岡亜紀

 

「新しい生活様式」が、服部さんを媒介として、短歌という詩型にどのように作用するのか注目したい。 -河野美砂子

 

服部の目が、観察する眼以上の、ユーモアや批評を含んだ挑発的なものであることが窺える。 -島田幸典

 

 

~『新しい生活様式』より五首~

 

カマキリに食はれて終はる夏の日のあたまを去らずそれも人生

 

猫として生まれてをらばキタイスカヤ通りの裏を歩いてゐたか

 

工作を失敗したる夜の更けてひとり眠りをむさぼるわれは

 

目に見えぬなにかに触れてゐたらしいゆつくり酸化してゆく林檎

 

鴨川のデルタのうへのなつぞらをリリエンタール七世が飛ぶ

 

 

 

 

 


貝沼正子歌集『赤いリュック』

定価:2,750円

判型:四六判並製カバー装

頁数:192頁

ISBN978-4-86629-258-8

 

第四歌集!

 

背負った赤いリュックに、いっぱい詰まった時間の果実。

愛おしいもの、なつかしいものに、精一杯の祝福を送ろう。

歌を生きるために。

 

『赤いリュック』より5首

 

三日分の酒のつまみも詰めこんで赤いリュックの明日からの旅

 

履きなれしスニーカーで行く気安さよ浅草界隈ひと日を歩く

 

紫陽花の葉脈ぬめぬめ光らせてナメクジ言うか「俺様が行く」

 

初夏(はつなつ)の街ゆく娘(こ)らの笑い声とびちるキャッキャわれににもかかる

 

 


奥村秀子歌集『清河原』

定価:2,860円

判型:四六判上製カバー装

頁数:234頁

ISBN978-4-86629-252-6

 

第二歌集!

 

技巧を凝らすでもなく、奇をてらうでもなく、素直でありのままをうたうが、いいたいことをきっちりとまとめて、的確である。十余年の歳月の思いを刻んだ『清河原』からは、香春の風土と歴史の上に築かれていった一人の人間の歩みが、静かに、しかし豊かに立ち上がってくる。

ーーー内藤明「跋」より

 

 

『清河原』より五首

 

いにしえの駅家(うまや)の賑わい再びと今開かるる「香春道の駅」

 

山の道・野の道・畦道すべてよし香れる土の足裏に弾む

 

亡き夫の遺影を縁に持ち出して剪定すみたる庭を見せたり

 

玉葱の程よき抵抗手に受けて引きゆく百本春日にまぶし

 

腰に下ぐる蚊取り線香夕闇に火の赤く見ゆ吾が位置示し

 

 

 

 


伊藤典子歌集『山のささやき』

定価:2,500円(税込)

判型:四六判上製カバー

頁数:194頁

ISBN978-4-86629-242-7

 

第二歌集!

 

家族ぐるみのお付き合いを頂いている伊藤榮一・典子夫妻から大切な歌稿を預かったが伝統ある「水甕」で磨かれた作品に何のお手伝いもせず当方が学ばせて頂いた。多くの方々のご清鑑と逝去されたご主人の供養になることを祈るばかりである。

<楠田立身 帯文>

 

 

 

山の端を離れむとする初ひかり長き稜線の茜極まる

 

残りたるパセリ数本キッチンに挿せば四月の草萌えの風

 

朝明けを真昼を夕を老鶯のさへづりに励まされて、夏

 

母が好きでわたしも好きな長十郎肩寄せ合ひて食べし日のあり

 

あの夏に夫と選びしパラソルのブルー褪せたり空に吸はれて

 

 


大久保晴雄歌集『高日』

定価:2500円(税別)

頁数:186頁

判型:四六判上製

ISBN978-4-86629-229-8

 

気魄の第二歌集!

 

天日直射して、命の海をまばゆくする。

すべて清らかな湧水のように、地を浸し、こころを浸す。

穏やかにーー。

万象ことごとく、歌の梢を揺らせやまない。

 

 

月朧手を握るのか繋ぐのかあのひと時は青春なりき

 

身の奥に響を留め地下鉄は薄闇の穴残して行きぬ

 

ゆく河に棹をさしたし 然あれど黒く澱みて見通したたず

 

車窓より黄昏(たそがれ)ていく海見えて我の意識を過去へと運ぶ

 

清らかな水の源(みなもと)(きは)めたく瀬に沿へる道辿(たど)らむとせり

 

 


伊澤昭子歌集『広重の雨』

定価:2,500円(税抜)

判型:四六判上製カバー

頁数:192頁

ISBN978-4-86629-236-6

 

第一歌集!

 

新アララギのニュー・ウェーブ

 

伊澤昭子さんの歌は、そもそも始めから活きいきとした新鮮な作品が多く、私の眼を引いた。短歌作品を造り出すのに必要な資質のよさが備わっている作者である。ここに言葉の海へ新たな才能が船出する事を祝福したい。

雁部貞夫「序にかえて」より

 

 

遠く散れ胸の湿りの重たさが霧になるなら風の日もよし

 

団子坂の緩きカーブに吾を抱き曽祖母歌いしかの子守歌

 

無意識に終のベッドに手の動く母は好みし茶の湯のしぐさ

 

眠いから一寸寝るよと父逝きぬ最期の最後は騙されました

 

午を過ぎ広重の雨地を打てり天より直下人を蹴散らす

 


秋山周子歌集『二十三階の窓』

定価:2,500円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:192頁

ISBN 978-4-86629-219-9

 

現代女性歌人叢書 25

 

第三歌集!

 

晴れわたった蒼空、

曇る空、雨の空、雪の空、月がかがやく夜の空。

毎日同じようで違っている空。

その下にひろがる街並みに、

人々の暮しがあるのだ。

 

二十三階の窓辺にひとりことばを紡ぐ。

やわらかな詩魂がつつむ。

 

 

 

 

生きてあらば晴耕雨読の耕す日音きしませた芝刈りおらん

 

あの春はさくらばかりを追いしかな 箕面、大仙、長谷寺、吉野

 

シリウスは耀き居待ちの月は照る友はこの世のどこにもおらず

 

超高層の屋上に見る東京はビル、ビル、川、海 人影あらず

 

一年に一度か二度の凪という空はみずいろ海はそらいろ

 

 

 

 


淺田隆博歌集『四季の輝き』

判型:四六判上製カバー装

頁数:210頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-210-6

 

第四歌集!

 

見わたせばとりどりの花咲ききそふ我しらずして歌口ずさむ

 

身めぐりの樹木や花々、鳥や虫たちをじっと観る。聴き耳をたてる。

森羅万象、呼吸している。歌を口ずさむように、呼びかけるように。

四季の移ろいこそが歌の時間、流やまぬ生を受け止める浄福だ。

 

 

 

 

春 かいつぶり三羽のひながかたまりてゆらゆらうかぶ春の日のあくび

 

夏 あめ色のうつせみぐつと樹皮つかむ生をきざみしあかしのごとく

 

秋 金色の銀杏並木をゆく人のほほのほのかに黄に染まりたる

 

冬 雪囲ひのぼたんの側に水仙の小さき花の凛と咲きゐる

 

 

 

 

 


小石雅夫歌集『一期一愛』

判型:四六判上製カバー装

頁数:216頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-209-0

これは、格別でもない一組の夫婦が、最後の別れの数年をようやく濃密な時間を過ごし合ったそのほんの一端の記録のようなものに過ぎない。

……その間の、ときどきに関わって捨て難いおもいにまつわるものだけにしたが、それでも六八一首にもなってしまった。

これでも思いの丈には届かない(あとがきに)

 

 

 

 

          せ

少しずつ頭を塞く妻がバス停にわれを見送ると言い張りて来る                            とお

分刻みに寝ては起きする妻とともに寒夜徹して身も冷え果てつ

 

妻の名を毎日かならず一度書く面会票にわが名とならべ

 

言葉無き妻にしあれどわが言える言葉にかえし指つよく締む

 

安置所に会いし帰りに行き処なく入りし書店の書棚もぼやけ

 

千の風になんぞならずにわが胸に妻よいつまでも留まりくれよ

 

おかあさんの「あはははは・・・」という心からの転げ出る笑いもう聞けないのです

 

「一期一愛」と刻みし妻の墓所に来てマスクをはずして”濃密”にいる

 

 


古屋正作歌集『縁』

判型:A5版上製カバー装

頁数:290頁

定価:2,800円(税込)

ISBN978-4-86629-203-8

第四歌集!

 

甲斐に生まれ、風土のなかに出会い、また別れがある。

草木に降れ、山や野や川みるものすべてが時にまばゆく、時に哀しく。

あるはかりがたい、おおいなる力によって結ばれるえにし。

いつか土にかえるその日、その時まで、暮しのかたわらには歌が縁りそう。

 

 

 

 

脂を噴く幹を攀ぢれる蟻の列日暮れてなほも高きを目指す

 

人と犬互に老いて政変の何及ぶなき谷あひの村

 

変はるなきことの床しさ米を磨ぐ米の白さが故郷にある

 

澄みとほる女官の声に応へ立つ吾が誌「樹海」の一語尊く

 

甦る現し身ならね背を伸ばし日に染みて降る花びらを浴ぶ

 

 


小山田ふみ子歌集『赤いルノー』

判型:四六判上製カバー装

頁数:226頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-182-6

 

歌を初めて読んだ時、印象深く思ったのは、そのひたむきな勁い魂であった。詩句に結晶された、小山田さんが懸命に生きた証を前にして改めて感動している。永久に忘れ得ない女流歌人であろう。

                 大熊敏夫「跋」より

 

 

 

 

「赤いルノー」と綽名つけられパンプスで官庁街を駆けし日のあり

 

連翹の黄の花地より吹きあげて何の歓喜ぞ閉塞の世に

 

世界中の花を投げ込めファルージャに無辜数千の屍の上に

 

出かけゆく夫を窓辺に送るとき手を振るならい かかる別れも

          みゆきざか

遠き遠き記憶のかけら行幸坂 さくら吹雪に母がたたずむ

 

 

 

 


藤井千秋歌集『あの日の空』

版型:四六判上製カバー装

頁数:170頁

定価:2,400円(税抜)

ISBN978-4-86629-185-7

 

第一歌集!

 

 

藤井さんはじつに健やかな観察眼の持ち主である。

繊細で柔らかな感受性に目を見張る。

言い過ぎになることなく一首全体をきりりと

まとめ上げることは、とても難しい。

それをごく自然体でこなす力量に感服した。

 

栗木京子「序文」より

 

「回天」の歴史を聞きし少年は海に向かひて仁王立ちせり

  おほ

たんぽぽの絮毛崩れて漂へり大ミキサー車過ぎゆきし時

 

雛すぎて雛仕舞はれし床の間の桃の花びら夜を散りぬるを

 

かかる日のいつか終らむ二人なれ豌豆の苗に支柱たてをり

 

おもかげを偲べば或る日師に代り千手観音佇ちたまふなり

 

 

 

 

 


秋葉四郎著『茂吉からの手紙』

判型:四六判並製カバー装

頁数:208頁

定価:2,400円(税別)

ISBN978-4-86629-173-4

 

手紙は私信である。本来は世に出るものではない。

だが、直情であり、赤裸々であるがゆえに作歌の本質が覗く。

心のありよう、文学に対峙する真の姿勢が

巨大な火焔となって、メラメラと創造の虚空へ立ち昇る。

茂吉の厖大な手紙の量がそれだ。

斎藤茂吉記念館館長が熱く紐解く、茂吉という歌人の素顔。

 

<八人への手紙>

永井ふさ子への作歌助言

青年・哀草果への直言

才媛・杉浦翠子への場合

助力者・山口茂吉への親書

熱き血の歌人・原阿佐緒への便り

若き編集者・門人・佐藤佐太郎への書簡

最後の女流門人・河野多麻への手紙

次男宗吉・北杜夫への父の書状

 

 


小潟水脈歌集『時時淡譚』

定価:2500円(税抜)

判型:四六判上製カバー装

頁数:172頁

ISBN978-86629-154-3

日常は雫。滴る時間の一滴一滴。

意匠をこらさず、衒わず、事物の実相に迫る。

この歌びとがシニカルに見つめるさまざまな日常、社会。

時には歌を詠み棄てるように、あるいは歌を抱きかかえるように。

 

対岸の炎は川原に棲む人の焚く火と知りぬ橋を渡りて

 

兎ひとつ座れる形にレジ袋ベンチにありて夕暮れてゆく

 

ホール出口に向かふ横顔靴脱いで会ふことはなき人と思へり

 

酒の空き缶ゴミ出し一回分たまる実質これは恋ではないな

 

「くれなゐ」は旧仮名が好し春寒の固き口紅筆先に取る

 

 


衛藤弘代歌集『窓辺の時間』

定価:2200円(税抜)

判型:四六判並製カバー装

頁数:162頁

ISBN978-4-86629157-4

父が逝き、母が逝き、たいせつな友人たちを失った歳月。

そして、最愛の夫の昇天。子どものいない衛藤弘代さんにとって過酷な日々の連続であった。うたうことによってかろうじて自らを支えていた魂の記録の第三歌集。―恒成美代子 帯文

 

浅野川女なる川その川辺歩み行きしか泉鏡花は

 

夏の力残す西日に射抜かれて茶房セピアの窓辺の時間

 

野沢菜の花咲く畑を漕ぐように歩きてゆきけり夫よ夫よ

 

木曽奈良井鳥居峠の栃の実を並ぶる窓辺に秋の日は澄む

 

思い出づるみな青春につながるをなかんずく金沢の雪の片町

 

 

 


小熊正明歌集『石を蹴りつつ』

定価:2500円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:176頁

ISBN978-4-86629-150-5

著者の作品は、おしなべて格調が高く、毅然としてつねに屹立している。ローマン性に富んでひろがりのある作品は、深みゆく老いをしかと見つめて揺らぐことがなく、多くの人を包み込んでくれるような温かさがある。―林田恒浩 帯文

 

雛菊はわが誕生花 ほのぼのと小さき炎のごとく生きむか

 

抱負とはなつかしき言葉を聞くものか答えんとして齡さびしむ

 

人待てばいつも降りくるさらさらとさらさらとアダモの雪が

 

国滅ぶ嘆きをうたふ杜甫の詩 覚えあり八月の炎天の夏

 

ゲルニカはピカソの怒り馬の目に大き涙を流させてなほ

 

友逝きて師もまた逝きて荒涼の野に晩秋の鵙高鳴けり

 


いずみ司歌集『もう一杯のスープ』

判型:四六判上製カバー装

頁数:188頁 

定価:2500円(税別)

ISBN978-4-86629-148-2

短歌の世界へ出立した十八歳の少年は、すでに対象を見据える確かな目と、それを支える柔らかな感情の働きとを兼ね備えていた。

第一歌集『いちょう樹』上梓以来五十余年、ひたすら詠み継いできた日常生活の哀歓が、奥行きのある作品となって、ここにある。

                    野地安伯 帯文

 

 

蟻地獄の底へ底へと滑りつつひたすら探る上向きの岩

 

怖ず怖ずともう一杯のスープ乞うなじむ間もなき職場の昼餉

 

根府川の駅を過ぐれば静かなる夏の光に海広がれり

 

午後の陽を顔いっぱいに受けながら妻か買物下げて上り来

 

乳足りて笑まう赤子は囲まれぬ母とその母そのまた母に

 

 

 

 


大友清子歌集『すゑひろがり』

判型:四六判上製カバー装

頁数:164頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-147-5

異界の夜の眠りにつく。

若葉の揺らぎ、あるいは天地のおだやかな揺りかご。

だが、火の国の風景を人を震撼激変させた隈元自身。

毀れた、こころが砕けた。絶望、悲哀、無念、諦念。さあ、もうここから先は万象吉事、楽しいことばかり。つたない一生を、歌の力を藉りて予祝の志へ。

 

 

 

はじまりの神話のごとしこの村にテレビ来る前ありし青空

 

    おに

鬼は隠と佳き声のして亡き人の空にかけたる神の梯子は

 

 

唐突に醒めし大地掌の上の万物揺すり毀たむとする

 

 

阿蘇の上にすゑひろがりの鰯雲これよりはあれよ楽しきことの

 

                            そら

地震後の夜はたづきなく暗黒の宙の道行く地球を感ず

 

 


梅原ひろみ歌集『開けば入る』

判型:四六判上製カバー装

頁数:232頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-113-0

梅原ひろみ第一歌集。

 

バイクの海泳ぐがごとし午後五時の車のなかに眼つむれば

 

見渡せばとほく雨呼ぶ雲のありドンコイ通りを吹き上がる風

 

出張の上司と新人タム君とわれはダナンに蟹を割りをり

 

ベトナム戦争後三十余年を経たサイゴンに日本の工具販売会社の駐在員として赴任、八年を過ごした作者の自在な現地詠が新鮮である。

ベトナムの太陽、風邪そしてスコール、さらにはバイクに埋まる街の喧騒。そんな中で、精力的に仕事をこなしながら、自分を励ましつつ研ぎあげてゆく旺盛な好奇心が見どころである。

帯文ー佐佐木幸綱

 

 

 『開けば入る』より5首

誇り高き男が茶店に切り出せる三月の返済繰り延べ依頼

 

この人の行き詰まりたる一因の我が怠慢が点滅しをり

 

激しつつ我に説かむと産卵する海亀のやうな顔となりたり

 

「信じる」といふ語を最近よく使ふ金勘定にもつとも似合ふ

 

始末書など何枚でも書くと思ひおをり本気で生きてをらぬ証拠か

 

 


間佐紀子歌集『海の見える家』

判型:四六判上製カバー装

頁数:188頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-129-1

 

記憶は美しくまばゆいばかりではない。

静かに群青のおだやかな海を眺めながら思う。

歌は、この世に生かされているわたしに

かけがえのない豊かなものをもたらしてくれた。

 

 

『海の見える家』より5首

 

海からの山からの風吹きぬけて夕顔の咲くふるさとの家

 

終戦の日手をひきくれし電車道ひとり歩めり母はゐなくて

 

「潮音」の創刊号なり大正四年晶子も茂吉もありて親しむ

 

締切がなければ我に著者なしと言はれし恩師の言葉かみしむ

 

鍋料理湯気のむかうに亡き夫の笑顔がふいに浮かびて消えぬ

 


安藤美保歌集『水の粒子』(文庫版)

夭折の歌人、胎動の歌集!

 

長い間、多くの人々に愛され読まれ続けてきた『水の粒子』をこの度、文庫化いたしました。

 

            ドア      ドア

フレンチスリーブの肩見ゆ扉という扉にきびきびと鍵をかけて出る母

 

 

ふいに来た彫像のように妹のからだの線は強くととのう

  

           

寒天質に閉じこめられた吾を包み駅ビル四階喫茶室光る

 

 

風車からから回れ父親が我にはぐれし五月の砂場

 

 

ずいずいと悲しみ来れば一匹のとんぼのように本屋に入る

 

 

緻密に緻密かさねて論はつくられぬ崩されたくなく眼をつむりおり

 

判型:文庫

頁数:150頁

定価:1200円(税別)

ISBN 978-4-86629-125-3

 

 

 

 


井上さな江 遺歌集『風なきに』

爛漫の今年桜に会ひたりし我には我のさくら咲かさう

 

井上さんは、「短歌は態度の文学である」という「国民文学」の信念と、短歌は自分史であるという信条のもと、物象を真っ直ぐに見詰め、ありのままを飾らず詠い続けてこられた。

青木陽子「『風なきに』に寄せて」より

 

 

『風なきに』より5首

 

暁をいづくゆ湧ける黒き鳥空を覆ひて北に渡れり

 

ばうばうとわが耳底に風の鳴り転生なども信じてゐたき

 

風なきにはららきやまぬ花桃の花の絨毯やはく踏みゆく

 

降ろされて畳まるる曾孫の鯉のぼり腹いつぱいの陽の匂ひ吐く

 

補聴器を外せばしんと音の無き闇に幽く百合の匂へり

 

 

判型:A5判上製カバー装

頁数:196頁

定価:2600円(税別)

ISBN 978-4-86629-120-8

 

 

 

 


清水春美歌集『あした咲く花』

     判型:四六判上製カバー装 

     頁数:186頁

     定価:2500円(税別)

     ISBN978-4-86629-117-8

あした咲く花に哀しみあるようで

そっと撫でやる山茶花のつぼみ

 

山茶花は春咲くいろいろな花たちのような華やかな賑わいはなく何となくひっそりと咲く。郡上は北辺で山茶花は霜で早く汚れて完全に初めから終わりまできれいでいることはあまりないが、そんな花でも明日は咲こうと蕾をつける。

 

               木島 泉 帯文より

 

 

『あした咲く花』より5首

 

鍬置きて母と作りし笹舟は港なき川流れてゆけり

                  

畦道にひときわ高く咲く薊ときに孤独は美しき棘もつ

 

押し黙る井戸を覗けばこの世でもあの世でもなき風の囁き

 

ノートからはみ出しそうな花マルを描くときクククと赤ペン笑う

 

ゆわゆわとゆめに遊ぶかねんねこにみどりご眠る初雪の夜


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本田一弘歌集『あらがね』

※品切れです。

 

『あらがね』より5首

          これのよ

山鳩はかなしみを啼く此世に生まれ出でたるたれのかなしみ

 

 

福島の土うたふべし生きてわれは死んでもわれは土をとぶらふ

 

   む                                         うな

福島に生まれしわれはあらがねの土の産んだる言葉を耡ふ

 

                       ひと

ほうたると呼べばやさしく亡き人のこゑあらはれて一つが光る

 

                     すぐ

白きものは畑をおほひ葱の葉の身のあをあをと直立つひかり

 

 

 

 

 

判型:A5判変型上製カバー装

頁数:256頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-860029-107-9

 

 

 

 

 

 

 

 

小鳥沢雪江歌集『雨水は過ぎた』

 

転勤ぐらしの途上で出逢った地、盛岡を、生きる場として積極的に選んだのだ。

人を愛するように土地を愛する。

深く継続する愛は感情の醍醐味と言えるだろう。

そして、詠まれる盛岡は、喜びの呼吸のように眩しい。

 

                     鈴木英子 帯文より

 

 

『雨水は過ぎた』より5首

  あのひと

「啄木は多情家なれば」と渋民の男は語る旧知の如く

 

詠えども何も解決せぬ日々のうたは悲しくうたは重たい

 

春立てば天も大地もゆるみゆきわたしもほのかにゆるみゆくかな

                        ひとよ

                   ひぐらしはかなかなかなと疑いてそその日暮らしの一生を送る

 

                   こもかぶり雪の庭先春を待つ梅よ牡丹よ雨水は過ぎた

 

 

判型:四六判上製カバー装

頁数:176頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-114-7

 

 

 

                   

丹波真人歌集『朝涼』

『朝涼』より5首

 

すいめんに真鯉の背びれ触るるたび生れてしづかにひらく水の輪

 

へちま棚しげりて文机おく部屋をくらめるまでにへちま下がれり

 

恋人にあらねど月々会ひをれば君はわれには特別なひと

 

外見はダイナマイトに似る西瓜爆ぜることなく弾ける甘さ

 

七十をこえたるわれの夢のなか洗づるをみなは裸身にあらず

 

 

判型:A5判上製カバー装 

頁数:322頁

定価:3000円(税別)

ISBN 978-4-86629-103-1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

井上美知子歌集『甘樫丘より』

亡母の家も見ばやと登る甘樫丘に踏む土匂はむばかり

 

生駒市に住む作者の産土は明日香である。その産土の臍のような甘樫丘より、作者は世界を眺め、その眺めの奥に匂いたつ亡き父母や妹がいた風景を遠望する。達観した境地から、自らの老いを、そして生々流転する世を、ときにユーモアをまじえつつ詠む。

帯文・萩岡 良博

 

『甘樫丘より』より6首

 

水たまりの雲を呑みほしひとまはり大きく見えて鹿の寄りくる

 

両の手の杖ゆるゆるとわたりくる老い待つ車の列の静かさ

 

くさめしてわが耳出でし花びらの幻を聴き耳を病み初む

 

金庫ふかく仕舞はれてありし詠草も盗みて読めよわれの偸盗

                                                                                                                                                   くち

                                                                   この唇のかたちなら「ぞうさん」が出かかつてゐるよ葉月のみどり児

                                                                           

                                                                   父母は木霊となりて吾を待つと思ふばかりにたどる飛鳥路

 

 

判型:四六判上製カバー装 

頁数:214頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-097-3

 

 

蓮見安希歌集『青にとけゆく』

寡黙にいのちと触れ合いながら、

草木も人間も、私すらも透けて見える日。

 かぎりなく深みを増す青の世界へ

自在に、そして、かすかに紛れてゆくのみ。

 

『青にとけゆく』より5首

                    かな

青銀の波がしづかによせてくる遥かなる日の愛しみつれて

   を                                                                                                                                 ふ

わが男の子と白猫ベッドに眠りゐる天よりふいに降りし如くに

           はな

瀧のごと散る桜を見き下影に立ちて泣きたる日もありしかな

 

かぎりなく軽くなりゆくいのちかと瓔珞のごとスカーフまとふ

 

味爽の空にのこりし二日月はかなきものは青にとけゆく

 

 

判型:四六判上製カバー装 

頁数:158頁

定価:2400円(税別)

ISBN 978-4-86629-090-4

 


青戸紫枝歌集『海の石鳴る』

定価:2500円(税別)

版型:四六判上製カバー装

頁数:224頁

ISBN978-4-86629-092-8

他火といひ他日ともいへり

                 遥かなる生(よ)を旅として鳴る海の石

 

大岡信さんが亡くなられた。父上の博先生が逝かれた後も、信先生には深い恩恵を享け、その上、青戸紫枝さんを私の許へ届けて下さった。輪廻というものなのだろうか。紫枝さんの詠む大岡信への挽歌は、巧抽を越えて死者の魂に帰依するかのように切ない。 

温井松代・序より

 

『海の石鳴る』より五首

 

すくすくといふオノマトペあり育ちゆく不思議の音を掬う日本語

 

弾丸の音かすめ過ぎたる三歳の耳の記憶の鮮やかさ言ふ

 

それともでかいか質されし笑顔のむかうのデリシャス林檎

 

つんつんと立てし髪型なほし来し生徒と窓の風をみてゐる


栗原浪絵歌集『藍色の鯨』

『藍色の鯨』には歌作を始めてからの栗原さんの人生が反映されており、彼女の表現のセンスがそうした暮らしの折々を詩的香りに包んでいる。この歌集の特徴はまっすぐに前を見つめる健やかさにあるが、その特徴を支える軽やかな文体がこころよい。       三枝之・跋より

 

四六判上製カバー装 2500円(税抜)

石井喜久子『更紗石』

銀嶺の赤城は雄々しさながらに関八州をべるごとくに

冬に月の魂しづめとぞ筆もてば墨の香しるく匂ひつつ立つ

亡びしは滅びの色の草もみぢ更地のままに秋立ちにけり

()の孫はけふははたちの祝膳かこめばほのぼの溢れくるもの

子らは去りふたりの老いにゆるゆると時は流れて小寒となる

 

過ぎ去っていった歳月のなかで、陰翳をもってよみがえる旅の記憶、亡き人々の顔、そして山河草木。目を閉じて、深く静かにこころをめぐらせれば、かれらは歌のすがたとなって現れてくる。

 


石垣蔦紅『青き地平線』

老いの日は日日是好日老いの夜も愉快なりけり夢また楽し

 

めぐり合いとは愛すること。

この地上、何一つさえぎりもののない地平線のおおらかな青。

二人いっしょに老いの日々を温かく支えながら歌う。ハワイ在住歌人の試みる短歌とTANKAの世界。

 


oh,how I wish
I could melt
into the blue horizon,
drawing up my forehead
to the airplane window

(このままに青き地平線に溶け込みてゆきたし機窓に額寄せつつ)

 

四六版並製 2000円・税別


浅田隆弘歌集『四季の譜』

ひとひらの蓮の花びら水に散りうすくれなゐの小舟となりき

朝まだき人影のなき園内の回転木馬みな宙に浮く

木もれ日のなかをわが影歩みをり我をはなれし人のごとくに

雪の上に赤き椿の一弁が命あるかに輝きてあり

 

何ものにもしばられることなく、気ままに自分の思うままに感じたままに短歌作りに励んでいます。作品の出来不出来は別にして、短歌を作る過程が楽しみです。夢中になって自分の描きたいことをいかに表現したらよいのか、推敲をかさねることは苦しいけれども楽しいことでもあります。           ――あとがきより

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


伊良部喜代子歌集『夏至南風』

 

南風(はえ)に吹かれ女身籠るそのむかし風の父待つ美(うま)し児いたり

戦わず勝たず敗れず生き来しを責むるが如き今日の夕映え
しらしらと明るき冥府あるというわが生れし島の真砂に
何もかも押し流しゆく大津波 かりそめの世の真実のこと
死者は青き海底(むゆう)に行くとぞ海底を抜けまた人の世に生まれ来るとぞ
産土は沖縄、移り住んだみちのく仙台。今なお残る戦争の傷跡、そして震災の悲惨。もはや私の中から何かが抜け出してしまったのか。
自らの魂の在り処を探し取り戻すために。
歌の霊異を信じながら歌う。
四六版上製カバー装 2500円・税別

五十嵐順子『奇跡の木』

奇跡の木(Survivor Tree)と呼ばれ一本の梨の木残る 証言者として

 

グラウンド・ゼロの復旧作業中に瓦礫の中から発見されたこの梨の木は、当初深刻なダメージを受けていたということですが、手厚い手当をされてよみがえり、大きく枝葉を伸ばしていました。人生の困難に直面したとき、この梨の木の幹の手触りを思い出し、支えとしたいという思いもあります。

                  〈あとがきより〉

 

みどりごのしゃっくり見んと若き父母その親たちが取り囲みいつ

うす青くパレスチナ暫定自治区見ゆただ静かなる対岸として

畑から冬瓜を抱いてくるときにこっそり夫は笑っていたか

子に負われ捨てられにくることもよし黄葉の峠越えつつ思う

くりかえす「あなたは私の雨」という手紙のことば幾度も胸に

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 


麻生千鶴子歌集『白い道』

絵の題は「水のほとり」と記したりいつか住みたし水のほとりに
船の荷を解けばかさりと音のして旅順の丘に摘みし吾亦紅
葉桜の影濃くなれる曲がり角かの日の花は白く咲きいし
駅までは行かずはづれの踏切に人を送りき初夏のこと
零したる水を掬ひしおろかさもなべてさむ八十四歳
確認しておきたいのは、麻生さんの作品の基本的なトーンが常に前向きな姿勢にあるといふことだ。これは何も麻生さんがらくらくと人生を過ごしてこられたからではない。当然、様々な困難を抱へながら生きてこられたはずである。
しかし詩に対するときの選択として、明るい面から切り取りたいといふ姿勢がこれらの作品を作らせてきたのである。改めて、その姿勢の尊さを思つてゐるところである。
馬場昭徳(解説より)
四六版上製カバー装 2500円・税別

 

 


岩尾淳子歌集『岸』

第26回ながらみ書房出版賞受賞!!
校舎から小さく見える朝の海からっぽの男の子たち、おはよう
ほんのりと火星の寄せてくる夕べちりめんじゃこをサラダに降らす
あんまり思い出したくないんだ戦争は、血を噴きそうな先生の喉
とけそうな中洲の緑にこの世しか知るはずもない水どりの群れ
絡みつく猫を日暮れに押しのけて立ちたるままに冷酒をそそぐ
握りしめれば手のひらから消えてしまう三十一音。
短い歌が遠い鈴の音のようにこころに響く。
歌を詠む人がいて、その歌を読む人がいる。
そこに伝わるほのかな温もり。
歌集を編みながらそんなことを思った。(あとがきより)
判型:四六版上製カバー装 
頁数:216頁
定価:2500円(税別)
ISBN 978-4-86629-055-3

青き実のピラカンサ

小鳥屋のことりの声が聞きたくてプラットフォームの端つこに立つ
半桶(はんぎり)の飯に合はせ酢かけゆけば待ちゐし団扇三つがあふぐ
「高砂」の掛け軸が好きなをさなごは先づ指さしぬ翁の方を
スポイトに与ふるは水、やはらかき水、犬は五滴のみづを飲みたり
どうしてもザリガニ釣れぬ子がひとり煮干しの下に重りを結はふ
裂き織りに義母のもんぺを織り込みぬ朱色の布もときには入れて

日常のささやかな情景のなかに、過ぎ去った記憶のなかに掬いだす、あたたかな詩情ー。

人びとや自然と交感するやわらかな心が紡いだ歌は、誰もが抱えているかなしみをゆっくりと癒し、やがて未来への架橋となるだろう。
四六版上製カバー装 2500円・税別

大谷ゆかり歌集『ホライズン』

夜なべする君へうどんの満月が傾かぬようゆっくり運ぶ

鉛筆と定規の似合う雨の朝ななめななめに線生まれくる

目の奥にムラサキウニの鳴くような偏頭痛せり今日は満月

父母の言葉もこもこ着せられて蓑虫となる実家の茶の間

つるつるとしたもの多き世の中に桃は貴重な手ざわりをもつ

百を越すCAD起ち上がり自販機の開発室が息づきはじむ

 

ことさらドラマチックに作られているわけではないのだが、それぞれの歌の中にドラマがある。心安らぐ温かなドラマだ。登場人物が歌の中でイキイキと動いている点も、いい。

(藤島秀憲 帯より)

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


糸川雅子著『詩歌の淵源 「明星」の時代』

近代短歌の淵源としての「明星」は、その創刊が明治三十三年と聞くと、確かに遥かに遠い過去のことに感じられてしまうかもしれないが、振り返ってみると、それは、思いのほか近くに、地続きに広がっている世界なのである。

そして、その豊穣さから、現代の詩歌が多くの恵みを受け、多くの果実を実らせてきたことを思わせるのである。

 

「はじめに」より

四六版並製カバー装 2500円・税別


大原葉子歌集『だいだらぼふ』

 

潰れるかも知れぬ銀行しよひこみて見舞ひくるるよこの青年も

風のなき黄落の森の華やぎは日雀とび去りゆきてさらなり

川水にななめに降り込む雪のかげ千の小魚の走れると見き

松ぼくりもつと落とすと石抛る幼よいくつもよき恋を得よ

農道の草に捨てある山椒魚 生とも死とも()とも(せう)とも

 

 

巨人伝説の山とのおごそかな対峙。

そこに歌の発想の始源をしかと定め、

大きくしなやかに拡散してゆくしらべ。

 

思念の深みから探り出す、

 

たしかな現実の手ざわり。


梅地和子歌集『小窓を見つめる』

孤独感をはるかに超える冷酷な宇宙に生きる動悸苦しも

身体が冷えてふるえる夜におもう春の彼岸にたたずむ一人

微光さえ雲ににじみて消えてゆく鴉一羽の横切る時間

死がそこに扉をあけて待つを見ん真夏の夕べ心臓()れる

よき歌を生みたきこころ湧ききたりすべて金色の五月の夕べ

 

人は誰でも、たとえ玄冬の時節にある人でも、心はときめく。何故か。「歌」は、遊びは、宇宙の息吹、宇宙のリズム、生と死との溶け合いのなかで息づくものであるからだ。「文台」を大切にして、さらに、珠玉の作品を残すことを祈る。良い出会いに報いるためにも。

飯岡秀夫・序より

 

四六版並製カバー装 1200円・税別


赤木芳枝歌集『シドニーの空』

大陸の虹をくぐりて飛行機は母国の空へ去りゆくらしも

葉の色に同化せし虫ちらほらと朝光に見るキャベツの畑

豪州へエアメール給ひし師の文は歌に始まり歌に終はりき

三日月がふくらみ月になるといふ孫と豆腐を買ひに行く道

ここまでの水位も何ぞ生き生きと里芋の葉の緑がそよぐ

 

睡蓮の巻き葉くるくるあやつるは鮒か泥鰌か傘置きて見る

 

 

日本から遠く離れた大陸での日常を詠むことから始まり、日本に戻ってからも長くその国を想いつづけていることに深い味わいがあるといっていい。

晋樹隆彦・跋より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別 

 

落合瞳歌集『鎌倉は春』

遠住める子らに送らん絵葉書の末尾にしるす鎌倉は春

 海も空も絵本の中に見たような青に染まりし岬を巡る

初出勤の若きら溢るる駅頭に春全開の気は漲りぬ

雲連れて西から東に行く風を横切りて人は釈迦堂目指す

客待ちの人力車夫の影法師リズムとりおり鳥居見上げて

ただの主婦ただの嫁ただの母なりきただのわたしに悔い少し持ち

小さき頭もむっちり柔き手も足も降りつぐ五月雨のほの明かき中

 

平穏な日日が事もなく流れていく。それでいい。そのままがいい。深呼吸を繰り返すように、生の時間の(あぜ)にたたずみ、そっと掬いあげてきたものたち。それを歌と呼ぼう。歌に私を、私を取り巻くすべてを精一杯語らせよう。

 

 

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

櫟原聰評論集『一期一会』

現代短歌を俯瞰しつつ、古歌の宇宙へと飛翔する自在さ。

文法から口語短歌を明快に分析するあらたな着眼点のたしかさ。

前登志夫門下の歌人が物静かに綴る

さらなる熟成へと向かう論と考察の展開!

  

・主な内容

前登志夫の歌と思想

存在の(すみ)()

『前登志夫全歌集』に寄せて

『樹下集』の頃

「私」論の地平

奈良の歌

ほととぎすの歌

古歌の歌人たち

 

四六版並製 2500円・税別

赤松佳惠子歌集『いとほしき命』

 

幸せにあるやと受話器の兄の声すなはち父母の心と思ふ

この家を仕切れるわれが猫並みに「おい」と呼ばれてゐる不文律

猫二匹人間二人のこころ四つどれかが常にはみ出し加減

ショッピングカート以外に頼るものは無し外出のたび涙にくるる

体調不安・遠出不安に縛られてほんにわたしはあかんたれなる

 

飾ることがなく伸びやか、真摯な詠風のなかに人生のほろ苦さも感じられて、赤松さんのヒューマンな声をどの作品からも聞くことができる。

 

林田恒浩・跋より

逸見悦子『野あざみ』

 

 

荷を送り発ちし子の部屋広々と三月のカレンダー風にゆれおり

 

すべてキャド駆使する職場になりし今われと製図台細々残る

 

花蜘蛛のいつしか傘の内側に止まりて共に参道下る

 

菜の花の黄色封じて送りくれし母よ彼の日よ今に抱きしむ

 

リズム良き足音駆けゆく窓の下あれは五分刈り青年の音

 

 

明け番の夫の挿したる野あざみの位置整える夜の食卓

 

 

逸見さんは平成三年に「歌と観照」に入会し、平成七年に新人賞にあたる、「歌と観照社賞」を受賞した。「野あざみ」は、おそらく作者の好きな花。山野にも郊外にも見られるが、紫の花の色はさえざえとして、野の花の強い生命力を感じさせる。

五十嵐順子・跋より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

安藤直彦『佐夜の鄙歌』

 

夏さればきよら流れの滑石(なめいし)にわれは鮎釣るその床石に

かたくり山に雪は明るく降りながらわれは来たりぬ咲くとなけれど

竜胆は平に添へてあるものを挿しのべてほそく鮎ほぐす指

ひさかたの光に音のあるごとく石をうちつぐ雪解のしづく

人の死をかなしびきたるわが(なづき)をひとゆすりせり朝の地震(なゐ)    

 

鄙に在っては、山川草木、鳥虫魚たちとの交感にあそび、

時として、産霊の神々に言問いながら、

伝統詩型の流麗な調べに、個と普遍の歌世界を喚び込んでやまない。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

おの・こまち『ラビッツ・ムーン』

 

水のようなドレスが着たい月の夜 光目指して烏賊昇ります

 

手合わせて水汲み運ぶおさな子の砂の穴いつ満ちるのだろう

 

卵割る指の加減を知らなくて殻は孵らぬいのちと交じる

 

脚本に「ああ」と書くのは楽しくて「ああ」という声一人一人の

 

空見上げ飛びたいウサギの耳は羽ソソラソラソラ月にかえろう

 

あをによし奈良の都の万緑に劇団ひとつ立ち上ぐる君 前登志夫 

 

月のウサギよ跳ねてごらん。

暮らしの隙間のメルヘンを物語るように、

定型という小さな楽器が演じ始める。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

今川美幸『雁渡りゆき』

これの世に抱かるるための髪を梳くたちまち髪さへ咆哮すらむ 

みづからは輝くはなし裸身こそ盛装なればすずやかに佇つ

わが裡にひとひらの(こう)あらざれば恋あらざれば生きざらめやも

耳はもつともあとに死すとぞ この夜更け死にきれぬ耳あまた浮游す

訣れいくつ重ねきし身をあらあらとひき寄せて詠む うたは恋歌    

火の酒を口移されぬ たましひの冥き韻きを雁渡りゆき

 

かなしみをこそ詠え。多くの死者たちとの和解のために。

うたは恋歌がいい。雪の夜に沈み、青空に抜けていくしらべとともに。

やわからな言葉と思念の深さとで幻視する世界が闇の向こうで輝き始める。

 

四六版上製カバー装 2300円・税別

石川浩子『坂の彩』

星凍る空垂直に降りてきてサッカーゴールさえざえとあり

若きらは初夏の大気を切り裂いて一、二、三、四坂登りくる

キッチンは春のみずうみ かの世から父来てゆらり釣糸垂れる

独り身は寂しくあるか花水木坂の上にも坂の下にも

 

眠る前のバニラアイスの一匙を口に溶かせり 天上は雪

 

坂――風景の坂、心象の坂、人間の坂。

その向こう側は誰も知らない空間。

たとえばそれが希望のみえる明るさであってもいい。

現実と虚構とのせめぎ合いが迫真のうた世界を鮮やかに彩る!   

 

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

梅本武義歌集『仮眠室の鳩』

誤爆なぞ当然のこと見つつ注す目薬さえもまともに落ちず

明らかに我も要らざる一人なりリストラ策を練りつつおれば

ひよどりの遠啼く夕べ腕を振り脂肪燃焼志願者歩む

山畑に竹を燃やせば谺して火遊び好きの孫ら駆け来る

洗濯物干す妻どこか若く見ゆ貴重なるかなこの窓の位置

 

梅本さんの歌にはどことなくユーモアがある。客観的に自己をみる姿勢が戯画的な表現につながるのか。この余裕、大人の男を感じさせる。「大人の男歌」である。

久我田鶴子・跋より

 

四六版上製カバー装 2400円・税別

今泉進遺歌集『片翅の蝉』

片翅の失せたるゆえか捨てられて道に身じろぎながら蝉鳴く

拓かれて今は田もなし川俣事件ここにありしかありてかなしむ

脱ぎし服片づけくるるわが妻よありがとう長かりし勤め終えしぞ

秋風にかざして立てば風車のごとくわが五指なびくと思えり

妻問いにゆくか赤げら赤帽をかずきて森に波うちて消ゆ 

麻痺というあわれを知らず疑わず幼とりたりわが左手を

 

生きるということは「光」と「闇」の織りなす世界を走りきることであろう。今泉進の短歌の世界にはまぎれもない「光」と「闇」がある。昭和から平成の時代を誠実に生きた歌人の最後のメッセージ。

田中拓也帯文より

 

 A5版上製カバー装 2600円・税別

 

 

 

 

 

岩井幸代歌集『アダムとイヴの手』


 

 夫逝きて家は四角のただの箱薄羽蜉蝣の持ち去る家庭

 

絡み合う君と我が四肢白亜紀の海に漂うひとすじの藻

 

教会の塔の先より明け始むドナウは黒き眠りのなかに

 

冬の夜のラフマニノフの「ヴォカリーズ」心に積もる雪の眩しさ

 

アルゼンチンタンゴ流れる古きカフェ仄暗き灯に沈むひととき

どうしようもなく悲しくて、悲しい思いを書いているうち短歌になったので、短歌を真剣に勉強しようと決めたのだそうです。まっすぐな人だと私は思いました。切ない感動を与える歌集です。  角宮悦子

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

岩井幸代歌集『アダムとイヴの手』

 

夫逝きて家は四角のただの箱薄羽蜉蝣の持ち去る家庭

絡み合う君と我が四肢白亜紀の海に漂うひとすじの藻

教会の塔の先より明け始むドナウは黒き眠りのなかに

冬の夜のラフマニノフの「ヴォカリーズ」心に積もる雪の眩しさ

アルゼンチンタンゴ流れる古きカフェ仄暗き灯に沈むひととき

どうしようもなく悲しくて、悲しい思いを書いているうち短歌になったので、短歌を真剣に勉強しようと決めたのだそうです。まっすぐな人だと私は思いました。切ない感動を与える歌集です。

 

角宮悦子

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

岡一輻歌集『狂詩曲-rhapsody-』

花手折り供へむ仏もあらずけり 身裡に餓鬼を養ひいるに

多宝塔にのぼりしままの鼠なり 揺れに怖づつつ逃げるのならず

大型の業務用の冷蔵庫 かなしきものや値段の五円

八熱のうらに八寒地獄ある 後の世しらずわれら踊りき

痩せ猫を紙の嚢に入れ閉ぢる 泯びの唄と海に棄てたり

腹中にたゆたふ菩薩ひきあげり 切り刻みたり溜池に棄つ

 

遠い日の時間〈全共闘騒動の時代〉に若きらが漂流していた。地獄極楽を行き来し血糊が付いた時間のなかで変質し石化。そんなものに囚われ、ひたに吁鳴き続けてきた男が、今その暮らしの断片を掬いあげ短歌と映した。作品に見える著者の自己打擲、粘着質な文体は強烈で衝撃的だ。その質感は戦後青春のひとつの淡い模様であり、それへの遅れた〈三下半〉だろう。また豊穣の今生にあって人が忘れようとしている深層からの声文だとも云える。  帯文より

 

 

四六版並製カバー装 1000円・税別

小川佳世子『ゆきふる』

▪︎第34回ながらみ書房出版賞受賞!

 

ゆきふるという名前持つ男の子わたしの奥のお座敷にいる

なかぞらはいずこですかとぜひ聞いてくださいそこにわたしはいます

カザフスタン生まれの米国人夫妻庭を非常にゆっくり歩く

はらわたをいくど断ちてもまだなにか切れないものはそのままにして

お葉書の数行の字の「大きさ」の中に棲みたく思ってしまう

 

ゆきふる・・・・その名前を私が呼べば、

永遠にきよらかな生を私に歌えとこたえる。

ただ一つ確実なことは、

今なお私も歌の天空を飛翔し続けているという事実。

世界はあまりにもまぶしすぎるから。

 

 

現代女性歌人叢書④ 2500円・税別

 

小笠ミエ子歌集『日月』

夫ゆきて日月(ひつき)経ぬれば淋しさに時効あるかのごとく人言ふ

すすき原を風わたるときいつせいに穂先たふして真白となれり

月満ちて生まれ来れりをみな児は膚うつくしき桜色して

松落葉しき降る道のふかぶかと()(うら)にやさし海へ通ひぬ

道に迷ふ夢をまた見ついつの日か徘徊なさむ我にあらずや

 

むらさきの濃き長茄子の三本を旅の鞄にをさめ帰り来

 

日が過ぎる。月が通り過ぎていく。すべては忘却のかなたへと。

おだやかな心には、おだやかな光景がおのずから宿る。

この世の中のすべてを受容し、ひたむきに歌と向き合う至高の時よ!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

岡本育与歌集「秋なのに秋なので」

眉月の風に飛ばされそうな空張り付くようにその位置保つ

全(まった)かるものの少なきこの世にて水面を照らす落暉の豊かさ

生きている喜び素直に歌いつつ如月の空に初雲雀鳴く

地の底に宇宙の音の生(あ)るるごと水琴窟の音は透明

星光を小さき花びらに受けながら夜を白々と秋明菊咲く

 

英語版も出してきた著者の第六歌集。不穏な時代にあって、危機意識が風化されていくことを怖れる。あらためて自然のもつ生命力に帰依することで、想像力を培う実像。

篠弘

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

碇博視歌集『ざぼん坂』

ざぼん坂に蝋梅が咲き約束をしたかのやうに粉雪の降る

立ち行きし人の席には空白の像(かたち)のありて長く目をやる

平飼ひの対馬地鶏が一斉に敵見るごとくわれを見るなり

焼かれたる『一握の砂』は灰の花頁の数だけ花びらを持つ

われを統ぶる銀の電池は八年の命を繋ぎ動き出したり

教会の床にガラスの色が落ち赤き衣の聖者を踏みぬ


歌ふことによつて対象との距離を測り、そして自分の心に受け入れてゆく。

短歌とい表現形式のもつとも大切な働きを碇さんはその歌作りの最初から手中にしてゐた。

馬場昭徳・解説より


四六版上製カバー装 2500円・税別

尾崎朗子歌集「タイガーリリー」

恫喝のやうに降る雨帰らねばならぬ一つ家まだわれにあり

ていねいに窓の結露を拭ひたれば硝子もわたしもすこし温もる

純情を暴走させることもなくタイガーリリーは胸に人恋ふ

アキアカネひとつ群れより零れ落ちわが中空に光(かげ)を曳きゆく

反論はしないけれども会議前トイレに眉根をよせる練習

 

尾崎朗子さんの作歌への情熱はすばらしいが、その炎の色は涼しい。さわやかな少女のような憧れと、社会的正義感とが同居しているところに持ち味がある、うたう対象に正面から向きあうまじめさが、明るく弾んだ抒情を生んでいるが、それが時にユーモアともなる。仕事をもつ女性らしいスピーディーな運びで結語をきめる正直さは天性のものだ。

馬場あき子

 

四六版上製カバー装 2400円・税別

上村典子歌集「天花」

文具屋の縦罫横罫あゐいろに秋のノートの無音は韻く

ひととわれ持たざる太郎まろまろと月の太郎は泛きあがりくる

乗り継ぎに走りくだりしおごほりの一番ホームもう用はなし

親切にあづきをのせてわかちゐし二歳は父と天花(てんげ)の庭に

雛の日の土曜ひながくあたたかしゆふかげと聴くジョアン・ジルベルト

 

光と影とのこまやかな明滅。それがこの世に在るもののすべてを照らし出す。たとえば、こらえきれない生の苦しみ、疼き、そして希い。

いま、歌という透明な灯を天の深みにともす!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

池原初子歌集『七歳の夏』

民謡の安波の真はんたは山深き絶壁にして海を見下ろす

ちちははよ御祖先(みおや)も出でませ陽の下に遊ばむ今日の清明祭(シーミー)一日

教科書より集団自決の軍命を削除せよとふ歴史危ふし

舞台に座し糸車(ヤーマ)廻せばいにしへの女の生業(なりはひ)胸に迫り来

焼け出され着の身着のまま逃げ惑ひ捕虜となりしは七歳の夏

 

戦後七十年という大きな節目に、池原初子は歌集を上梓した。唯一地上戦となった沖縄で生れ育ち戦禍を潜り抜け、その歳月を振り返る。

玉城洋子・跋より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

太田昌子歌集『栴檀の花』

中学にこの春送りし児童(こ)等の分届けばしきりに会いたくなりぬ

山深き英彦の坊の跡にして居ながらに聞くうぐいすの声

梅園の野点ての席に風花を一片受くる熱き茶碗に

歳晩に金婚の鐘を相撞けり吾が町香春の平安いのり

栴檀の花散りやまず池の面を覆いつくして風にたゆとう

 

栴檀の大樹の下を通って毎日散歩する、春には美しい花をつけて母校の周りにある樹、著者にとってこの栴檀の樹は暮しの中の大切な点景です。

 

中原憲子・序より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

大塚健歌集『経脈』

へばりつく藻のごときものふり払ひ得ざればかこの沼に棲み古る
過去の人未来の人もまじりて嬉しくなればこをかけたり
眼が開かないと思つてるうちに死んだと声すさうか死んだか
永遠にちぢまらなぬ微差微差ゆゑにむだに希望をいだかしめつつ
しあはせはなるのでなくて感ずるに過ぎぬと暖炉かこむ幾たり

ものを見る。相手を見る。自分を見る。
人生の深まりとともに内側が透けて見えてくる。
見えすぎるがゆえに苦しく、さびしい。そして何より楽しい。
人間心理の微妙さ、複雑さを温かく定型の器に盛る。
その絶妙な色と形。
さて、これからは何を盛り込もうか?

四六版上製カバー装 2400円・税別

石井ユキ歌集『海と原野』

ひと跨ぎほどの流れに添ひながら常世の花か珊瑚草さく

野分たつウトナイ沼の白鳥が真実さむしと白き息吐く

手に囲う草蜉蝣の冷たさや夏の日暮れの秋のとば口

かなしみを声あげ泣きしことなくてわが少女期の離岸流あをし


右眼を瞑り左眼で現実をとらえている。

右眼は現実の彼方のまぼろし、左眼ははるかに広い世界がはっきり見える。実と虚を見事に表現している。

山名康郎


四六版上製カバー装 2500円・税

市川正子歌集『石礫』

詠みがたきものあるゆえに歌を詠むささら揺れくる麦の穂波は

原子炉を汚染水にて冷やす構図映像なればたやすく流る

母の背に応召の父を見送りし遥かなる日の辻明の辻

村を去る者を見送り立ちつくす火の見櫓は父の後姿(うしろで)

空海の『風信帖』の「風」の字を指になぞりて遠く旅する

灯の下に見ゆるものだけ見る今宵わが翳ひとつそこに在るなり

 

『辻明』から立ち上がってくる作者像は、たくましい行動力と経験の智慧をあわせ持った朗らかで知的な女性の姿である。

七十代を迎えた今も悩める若者の電話相談に心を傾け、反動化する時代に怒り、畑仕事に勤しみ、時おり襲う死と孤独の影を見つめ、気まぐれな伴侶のような猫を愛し、ふと海外の旅に出る。そういう日々が微妙な心の陰影とともに自在に歌われた一巻である。

島田修三

 

A五版上製カバー装 2600円•税別

伊藤純歌集『びいどろ空間』

まくらがの古河(こが)の庵の栃の木の幹は太かり葉は茂りおり

ひぐらしを耳の奥処に棲まわせてたましいふかくふかく青みゆく

曲名は記憶の果てに漠としてあの日おまえが弾きたるショパン

万物は日暮れてやさし振り向きてただ吹く風を確かめてみる

見はるかす駿河平に金色のきよらを放ち日のくたちゆく

空は空の悲しみを持ち光つつかげりつつ青し今日の明るさ

 

 

「群帆」代表を引退された師後藤直二を、幾度か訪問するが、「まくらがの」と枕詞を使う格調高い韻律は、師への限りないオマージュになっていよう。
大原葉子•跋より

 

四六版上製カバー装•2500円税別

岡井隆著『新わかりやすい現代短歌読解法』

誰でも短歌を作っていくとぶつかる疑問の数々。

むずかしく考えることはない。できるだけたくさんのいい歌と出会うこと。そして、こんなふうに読み解けばいい。じっくりと味わえばいい。

現代短歌を牽引し続ける歌人の、明快にして核心をえぐる短歌説法!


 

現代短歌講座

 破調の歌とはなにか

 字余りの話をしよう

 リアルな表現について

 若い人の歌について

 連作のつくり方について

 毎日かならず一首

 

講演とインタビュー

 辞書を楽しく使う方法

 私の出会った歌人たち

 よい歌の条件を考える

 愛の歌とはなにか

 新しい歌と古い歌

 3・11以後歌は変わったか

               目次より


四六版並製 2800円•税別

浅田隆博歌集『四季を呼ぶ声』

澄みとほる朝の空気の清ければ空の高みに悲しみのわく

道端の凹凸乏しき石仏の顔をほのかに冬日のてらす

同じ木の同じほつ枝に今日もまた朝日をあびて四十雀鳴く

暁の草生のなかにからすうりいまだ萎れず白く咲きをり

 

現在、私自身が作っている短歌もいってみればエンディングノートなのかもしれないと思いました。短歌を作るということは、自分の分身を生み出すことに他ならないからです。また短歌は自分自身を写す鏡でもあります。従ってこまかい技術的なことはさておき自分を人間的に高めてゆく必要があります。ーあとがきより

 

 

四六版上製カバー装 2500円•税別

荻本清子歌集『夕宴』

ひらひらとひらひら残り葉そよがせて冬木は氷の華になるべし
樹の陰に微睡み樹皮の臭いくる初夏の風に身を預けおり
人も虫も葉裏に翳り生きゆくを愛しきことを思いいずるに
かがやきて言葉が飛翔するときの山なみ夏の雲を追い越す
星空の広がる野面に飼い犬と仰ぎ見し銀河今に澄みおり

  おおらかな心で森羅万象を見つめる眼差し。
  見るものすべてが歌の言葉となり、
  しらべとなる。

ゆっくりと成熟してゆく    
宇宙の果実のように、気高く、清浄に。   
四六版上製カバー装 2500円•税別  

井上寛江歌集『新桑繭』

四つ目垣に翅を休める秋あかねふいにゆばりす夕焼けの空
働きし手チャルダッシュ弾きし手我慢の手硬直する手を握りしめたり
秋明菊は風に揺れいてひとりゆく夫亡きあとのわれの坂道
筑波よりのぞむ八溝山の盆地霧たなびく里を真綿に包む
雪明りにほのかにみゆる雛の面昭和をともに生きし雛たち

作者は実に自由にのびのびと歌っている。しかも歌材は豊富で変化に富んでいる。としてもだれもが経験する日常•生活の範囲を出るものではない。こういう歌の累積こそ、個性的と言えるのかもしれない。たのしい歌集である。 岩田正


四六判上製カバー装 2500円•税別

小川菊枝歌集『せせらぎ』

紅葉の深まる一樹見上げ佇つ入り日に映える明日は散る色

ここ幾日夢路にありと思ふまで桜しらしら沼辺にかすむ

娘が着て今また孫が着るわれの編みたる紺のセーター

木洩れ日を踏みて巡れる名水の流れ涼しき武家屋敷跡

燻りて抗ふ身ぬちの虫あれば気の済むまでは燻らせおかう

 

小川氏は倦まず弛まず、文字通り一歩一歩着実に詠み続けてきた。本書の作品に見られるような、一件地味な作風•作品の底に漂う詩情は、長く精進を重ねた、偽りの無い成果である。

野地安伯•序文より

 

四六判上製カバー装 2600円•税別

大建雄志郎歌集『風の回廊』

削ぎ落とし筋骨のみなるチェーホフの散文の簡 短歌にぞ似る

英国に〈目的なき塔〉なるが所々にあり余分なることまた文化なり

かなしみは溢るるほどだが溺るるはさらにかなしく蔵ひて生きむ

花は地に落ちしあとからが本物と或る画家の言葉忘れがたしも

紫陽花の蒼なくば梅雨も寂しからむ麦酒に枝豆われに我が妻

 

チェーホフを愛しながら、大建さんは、ビジネスの世界で極限の緊張も乗りこえてこられた。むしろ、努力の陰に文学への心寄せがあったというほうが現実であろう。長年の苦労満載の体験さえ、志を貫いてのちの創作姿勢に生かされている。…今野寿美

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

岡本智子歌集『天上の紅葉』

伯母ケ峰の一本だたらも杖をつき天上の紅葉見上げてをらむ

美容室の大き鏡の中にゐる二上山雄岳の前にすわれり

水色の空は螺旋に高くなり夏も終わりへと動いてをりぬ

開け放つ三階の窓に入り来たる蜻蛉ありわれは嬰児を抱く

背景宮沢賢治殿、二万数千の星を運びし銀河鉄道

見上げれば月と星ありはろばろと大歳の闇に包まれてゐる

 

山深く分け入って出会う紅葉はこの上なく美しい。あたかも天上からの賜り物のように。かつて作者の作歌世界を「しらべがふくよかで美しく、一人の純真で、感じやすく傷つきやすい女性の修羅」と先師•前登志夫は評した。詩歌の時空にひびく清新な抒情。

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

岡田令子歌集『青き壺』

みほとけに遠き己が浴槽に両手を合はす木になりたくて

目瞑れば夢の辻たつ梅林の蕾の間に青き海あり

「わが骨は海に流せ」と口ぐせの父よさびしき白梅香る

肉叢を削ぎ落とすまでの怒りもて春の汀に脚洗ひ

肉塊のくづるるごときさびしさぞ赤き人参おろしつつ

蒼穹に紛れゆかむか青き芥子物憂きまでのこの明るさよ

 

 

先師•橋本武子とのめぐり会い。基地の街•岩国での長い暮らし。さまざまな偶然の重なりが人生であるとすれば、歌とは流れゆく河、その清冽な水を自らの乾いたこころに満たすおおいなる壺。

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

 

植田美紀子歌集『ミセスわたくし』

岩盤浴終えて帰りのうどん屋にすっぴんのわれの啜る素うどん

目のふちを掻く快感におぼれつつ聞いていますのポーズは保つ

塩茹での刑を逃れし菜の花が廚の隅に満開となる

生き物はかくれんぼ好き鉢の下に蚯蚓、団子虫、私も入る

 

 

ミセスわたくしとは誰か

 

妻として母としてときに娘として。勤め人として、ときどきは〈ひきこもり事務所代表〉として。いくつもの顔を精力的に生きる多面的な生は、置き換えのきかないただ一人の「わたくし」の人生。多忙な日々の中で、自然を見つめ、人に出会い、みずからを振り返る作者の眼はつねに好奇心をたたえ、その言葉は率直で向日性にあふれている。充実の日々を、軽やかに鮮やかに刻む第一歌集。

大口玲子

四六判上製カバー装 2500円•税別

昭和9年生れ歌人叢書4『まほろばいづこ 戦中•戦後の狭間を生きて』

こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。

戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。

そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より

 

軍歌からラブソングへ         朝井恭子  

少年のころ              綾部剛   

灯火管制               綾部光芳

鶏の声                板橋登美

ニイタカヤマノボレ          江頭洋子

戦の後に               大芝貫

語り部                河村郁子

昭和二十年八月十五日         國府田婦志子

戦中•戦後の国民学校生         島田暉

空                  椙山良作

確かなるもの             竹内和世

村人                 中村キネ

太平洋戦争ー戦中•戦後         花田恒久

氷頭                 林宏匡

記憶たぐりて             東野典子

少年の日の断想            日野正美

宝の命                平山良明

空に海に               藤井治

戦中戦後               三浦てるよ

椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博

夏白昼夢               山野吾郎

生きた時代              結城文

ひまの実               四元仰

 
並製冊子版 2000円•税別

磯田ひさ子歌集『還る』

還ることあきらめたるか七夕の短冊に何も書かざる少女

苦しめる友も救へず死に近き母も救へず雪降りしきる

秀でたる一首なければわが後はただ善き人として消ゆるらむ

借財をしたたか負ふ身に牛を引き仁王立ちなり左千夫の写真

 

還るー嬰児へ、いや未生以前の世界へと。悲喜こもごもの日常も、世の中の激しい変化も、天変地異も、すべてはこの世に生きて歌うことのあかし。

歌誌「地中海」での長い作歌の時間は成熟を遂げつつ、おおらかで温かい言葉としらべを自らの内に呼び込んでやまない。

 

四六判上製カバー装 2600円•税別

石川輝子歌集『水無瀬川』

不意によぎる時雨にうたれ炎なす狭間のもみじ蒼白となる

池底よりわく水あれば氷河期の浮水植物はまなうらに咲く

かえで葉の翳あやなせば含羞のおもて湧きくる峡の石仏

バラ色の未来ゆめ見しわが影のいたく小さく夜の道をゆく

 

鮮烈な歌集『シネマ』を遺した新芸術派の石川信雄、その実妹の第一歌集。一人旅を愉しんだみずみずしい初期作品で、のびやかに各地の風土を称える。透明な感受性に注目する。(篠弘)

 

四六版並製カバー装 1200円•税別

大崎瀬都歌集『メロンパン』

メロンパンのなかはふはふは樫の木に凭れて遠き海を見ながら

生き物のまぶたはうすし目を閉ぢて春の光に充たされてゐつ

内側からてらされてゐるマネキンのからだに似合ふ浅葱の下着

棄てられぬものを入れおく缶は棺ふたするたびに別れを告げる

本当は生きてはゐない日々だから葡萄は喉をすべり落ちたり

 

若くして先師•前登志夫と出会う。その分厚いデーモンのような詩魂をどこかで受け継ぎながら、清新でナイーブで屈折した独自の世界を生きて、歌う。人生の陰影はいよよ濃くなっていくが、深いかなしみすら、作者のなかでは軽やかで透明なしらべへと昇華されていく、そんな不思議さ、自在さ。

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

 

北村芙沙子•中川禮子•結城文訳 ウィリアムIエリオット監修『茂吉のプリズム』

『赤光』Shakkō  Red Light

 

かがまりて見つつかなしもしみじみと水湧き()居れば砂うごくかな

crouching 

I observe the sand moving

as the water

springs up

feeling its sadness deeply

 

kagamarite

mitsutsu kanashi mo

shimijimi to

mizu waki ore ba

suna ugoku kana

 

 

死にしづむ火山のうへにわが母の乳汁(ちしる)の色のみづ見ゆるかな

in a volcano,

quiet as death,

I can see the water­

its color,

my mother’s breast

 

shi ni shizumu

kazan no ue ni

waga haha no

chishiru no iro no

mizu miyuru kana

 

四六判並製カバー装 2000円•税別

電子書籍版…1000円

 

title "Prism of Mokichi"

written by Mokichi Saito

translated by Kitamura FusaKo & Yuki Aya & Reiko Nakagawa & William Elliott

 

Mokichi Saito is the most famous tanka poet in Japan. 

He was born at 100 years ago, and he made the foundation of Japanese  modern tanka poetry. 

 

We have translated into English his first poem book.

 

2160yen

e-book…¥1000

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