時田則雄歌集「みどりの卵」

今日もまだ生きてゐるらし長芋をかうして朝から掘り続けゐる

さうだよ昔 空にはなんでも棲んでゐた 魚の目玉のみどりの涙

野の馬の巨大の臀部輝きてゐるなり黒き太陽のごと

石をもて野地蔵の目を潰したる遠いあの日のあの青い空

百姓とはすなはち大らかに遊ぶ人雲を眺めてけむりになつて



響け!かなしい詩魂ゆえの、屈強にして繊細な北方の歌の磁場に。


北の広い大地に樹木のようにどっしりと根を張り、野男として在り続ける歌びとがいる。

トラクターで荒々しい土塊を耕し、石を砕く血と汗の労働も、どこか遠くの神話や伝承の世界へとすり替わっていく不思議さ、自在さ。