大熊俊夫歌集『神田川春愁』

生業のなき日は心のびのびと歌書•歌集読み古書街歩く

わが家の垣の青葉に沿ひて過ぐきのふ雨傘けふは日傘が

夕空を音もなく過ぐる飛行船おほかた人は名を残すなく

 

衒いなく自らの日常を詠んで多くの共感を呼んだ前歌

集から、さらに滋味と渋みを加えて新しい世界を切り

開いて行こうとする著者の、真摯な姿がどの歌からも

強くうかがわれる心地よい歌集である。 林田恒浩

 四六判上製カバー装 2625円•税込

島内美代歌集『風の十字路』

■日本歌人クラブ北関東ブロック優良歌集

 

わが家の風の十字路わが居場所避暑地気分に机を据

天空より八一のひらがな舞ふやうに春の雪ふる暮れなづむ里

金平糖ガラスの皿に転がしてひとりの夜の星座をつくる

 

出会いと別れの繰り返し、喜びの風、かなしみの風、無常の風。

それらがこもごもに交差し吹きすぎてゆく風の十字路。

そんな居場所を見つけた作者は、もう歌わずにはおれなくなる。

風のように透明で軽やかに、そして孤独に。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

富澤文子歌集『コンドルの飛ぶ国へ』

ボヘミア古城彫刻の壁を写真に撮るだまし絵の技と明かされながら

夕暮れのスカイスクレーバーに雲かかりその下を行く渡りの鳥は

チチカカ湖さざ浪のたつ湖畔には龍の舳先のトトラ舟勇む

 

たのしい旅行詠。

国内は奈良とフクシマ。海外はチェコ、ハンガリー、オーストリア、マチュピチュ。

欧米各地にわたる明るく、楽しい歌集である。 草柳繁一

 

A5判上製カバー装 2000円•税込

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横田敏子歌『この地に生きる』

福島に生れて暮らして六十余年ここがふる里この地に生きる

雪の歌いくつを詠めば来る春か雛を納むる今日も降り継ぐ

車椅子に夫を乗せて公園の今年の桜に会いに行きたり

 

病気の夫を抱えつつ勤めを全うした後に遭遇した¨あの日¨。

それ以来、原発の歌以外をうたうことができなくなったという。

この地ー福島県郡山市ーに生きる著者の、抑えがたい声がここにある。  久我田鶴子

 

A5版上製カバー装 2730円•税込

 

笹井水輪歌集『ふうせんかずら』

恩寵の七つひかりも十字架も負わず七十路ふうせんかずら

高原のここな小径の舗装され今年梅鉢草を見かけず

鼻寄せて猫がペン先嗅ぐからに吾も嗅ぎしがくぐわしからず

 

どの歌にもかならず見所がある。ともかく機敏俊敏、

才気煥発のきびきびとしたリズム感と、現実を見る

ほろ苦い視線とがないまざって、対象との距離が余

裕を生み出し、そこに軽い笑いが生まれ出るのである。

ーー阿木津英 跋より

 

46判上製カバー装 2730円•税込

 

 

大竹蓉子歌集『花鏡之記』

思はざる嘆き押しくる世にあれど花は無心に爛漫の春

疾風吹く平久保岬春くれば薊の花に虹色の昆虫

あらざらむことと思ふにある奇遇月は萬象の眼に宿る

自生地の尖閣に咲くうるはしき紅頭翡翠蘭夢に顕つ

花を観る花に問はるるひたごころその行くかたや花野

惻陰の心ごころに守られて来たる歳月 金環日食

 

無心に咲く花々の色香にあふれる個性•神秘的な生殖の営みには、

いっそう畏敬の念が深まります。

それらは人生の青春の美しさに等しく眩しくもあり、廃れゆく過程に見る老残の美も蓋し見逃すことができません。

すべからく人もまた老境の心理によって、美醜いずれかに傾くか、との思惟に至ります。(あとがきより)

 

A5判上製カバー装 2625円•税込

長嶺元久歌集『カルテ棚』

■第10回筑紫歌壇賞受賞!

「わたくしを診た医者はみな死にました」宣らす翁を畏みて診る

聴診器はづせば聞こゆクックーと軒下の樫に飛び来たるらし

待機するAEDと語りたり「今日も出番がなくて良かつたね」

診療のはじめに交はす「こんにちは」そに病む人の塩梅を知る

 

医師にして優れた歌人は多い。本書の長嶺元久氏も内科医として医業に励みつつ熱心に作歌を続けてきた。長嶺氏の歌集『カルテ棚』の大きな特色は、来院した患者の歌の数の多いことと思う。そして、それらの作品が、患者に対する愛情に満ちていることはもちろん、温かいユーモアを醸していることに、読者は快い読後感を味わうであろう。作者のヒューマンな人柄のたまものに違いない。伊藤一彦

 

A5判上製カバー装 2730円•税込

 

橋田昌晴歌集『聴診器』

四十年使い込みたる聴診器胸の内聴く吾が耳となる

震えつつ歌一字ずつ生まれくるパーキンソン病の君の指先

老いを診るひと日の暮れて仰ぎ見る幾万光年の秋の夜の星

白桃に触るるごとくに診療す新入生は四十五名

 

「聴診器」は、橋田氏にとっては「聴心器」でもある。

医師と患者、その家族との間には、遠慮のない会話が交わされているように思われる。

本書全体に漂う、そこはかとない優しさ、明るさは基調である。

野地安伯•序より

王紅花歌集『星か雲か』

池のほとりに椅子を運びて座りしが何を見てゐむ 星か雲か

その時の気分に過ぎず 流れ来しかなぶんを溝川より掬ひて放つ

飼猫を探しゐるとふ貼り紙のその猫はきのふわが庭に寄りき

ゆうぐれの庭にコスモス揺れてゐて何故だかものすごく寂しい

カー•ナビに誘導されて広き墓地の迷路を進む 亡母に会ふため

 

植物を愛で、昆虫の生命に細やかな目をそそぐ。

視線は時に、蜉蝣や蛾の腹にまで至り、ふしぎな感性と美によって研ぎすまされている。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

榎本光子歌集『ふれ太鼓の街』

ふれ太鼓が遠くひびけり軽やかに心の憂さを捨てよと聞こゆ

われと子の絆となりし連絡帳古りて黄ばむを手にとりて見つ

釣を好む夫がつね行きし上総の海に散骨をと言ひ君涙ぐむ

 

ふれ太鼓がひびき川風が通う両国の地。

税務会計事務所を開き、半世紀近い歳月を作者はこの地で迎えた。女性の自立を願い、それを成しとげた著者の第一歌集。

激変する日本の社会経済の中で苦闘する人々に、税理士として寄りそって北作者のまなざしは、あくまでも優しく温かい。

虚飾を排し、生活の真実とは何かを問いかける作品集である。

雁部貞夫 帯文より

 

A5判上製カバー装 2730円•税込

 

石橋美年子歌集『母と暮らせば』

この夏を逝かしむ蝉の絶唱よ無頼の我の手足さびしき

白粥にクレジーソルト少しふり胃腸の休養母と暮らせば

食細き夏の昼餉は冷麦を言葉飾らずうましと母は

人生に帰途の美学はありときく欲なき母へのひとさじの粥

 

老いてゆく母とともに暮らし、

介護し、看取り、そして母の

永眠までの長い時間。

作者はやさしく、

温かいこころで精一杯に歌い続けた。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

上田吟子歌集『つばめの射程』

ひるがへりひるがへりつつ空を斬るつばめの射程にわが家はありて

われといふみなもといづく大和三山をはるかに見つつ明日香風聴く

夜の闇を風にのりくるほととぎすチチハハ欠ケタカ雨夜ハ寒イゾ

夢いくつこぼして人は生きゆくや春のみぞれを掌に受けにつつ

「國」といふ文字木簡のいでし田に千年むかしの泥の匂ふも

 

鳩のような丸い目は、いつも好奇心にかがやいている。嫁した明日香を基点に、外へと向ってゆくこの人のエネルギーは、どこから発しているのだろう。牧師であった父は、娘たちに「きん•ぎん•さんご」と名をつけた。「ぎん」は吟子。“佳き歌うたえ”今日も父の願いに導かれるかのように、吟子さんは詠いつづけている。

———久我田鶴子

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

貝沼正子歌集『触覚』

もの言わぬ同僚との間合い計りつつわたしの触覚がのびる長月

代替案のないまま否定する女の触覚男には見えない

三軒を梯子のつもりがこの店のどぶろく私をどろどろにする

憎しみは丸めてみても飲み込めずポンと蹴ってもまた戻ってくる

完璧を目指さなければ楽になる仕事も家事も人の評価も

 

 

いっけん鋭利な刃物で切ると思えば、引いてしまう心の壁がおもしろい。

薬剤師という仕事柄、完璧を目指して落ち込むこともあるが、

女の触覚を伸ばし颯爽とした調べはここちよい。

光本恵子

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

渡辺けい子歌集『西明り』

若葉にも似る輝きを母われに与えて少年己は知らず

てのひらに木の芽をひろげポンと打つ遠く住む子に聞こえるやうに

ゆくりなく出会ひて夫となりし君の言葉は或日のわれのこえかも

美しき言葉を話す人にあれとまづ言ひましき嫁となるわれに

老いの果てのしばしを霧の晴るるごと母に確かなることば戻り来

ままならぬ一生もよろしと九十二歳の母が今年の桜を仰ぐ

 

西伊豆の風土を詠んだ歌、

また初期の思春期の子をもつ母親の心情を詠む歌など、

佳品も少なくない。屈折した子の心に寄りそうような

母親の姿が、そのまま現在の著者に重なり

私にはインショウぶかいものだった。

温井松代•序より

 

46判上製カバー装 2625円•税込

 

冨尾捷二歌集『満州残影』

■平成25年度日本歌人クラブ東京ブロック優良歌集

 

引き揚げ船の仮設便所の暗き穴に玄界灘の荒波を見き

病み飢えし集団生活引揚げを待ちいし我等難民なりき

「生まれては見たけれど」職無き男らの渡りて孤児の生れし満州

「日本が負けた」噂が車内走り抜け列車は満州曠野を疾駆す

お国より渡されし父の形見なり開けて空しき白き骨壺

 

人生の原点と言うべき引揚意見が、モノクロームのドキュメントとして歌われており、切実な衝迫力に息をのむ。

本書は戦後日本、およびすべての日本人の魂の記憶であるとも言える。  谷岡亜紀解説より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

今関久義歌集『四天木の浜』

片寄りに松の秀なびく雲低し風にあらがふからすが一羽

許されてわれはあるらし妻病むといへども共にけふ望の月

明かすべき人ひとりなし幽囚の思ひに耐へて配膳を待つ

海鳴りの太古の響き入れ替はる大き玻璃の重きを引けば

ちちのみの膝をたらちねの乳を知らず老残一期きはまらんとす

 

自然をそのまま言葉にしているのであるが、えいえいと読みつづけてきたその世界には、いつのときも、反骨精神が息づいているのではないか。  大河原惇行 序より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

梛野かおる歌集『Largo』

シロフォンの音色が叩く冬の窓つたえていない言葉を思う

白桔梗かすかに揺れて思い出は水の匂いのなかにあらわる

指先で伝えていたよ受け止めていたさと風舞う高架のホーム

すれ違う人の鞄がぶつかって沈めたはずの悲しみは来る

永遠の少し手前のこのあたり同じ角度に背もたれ倒す

 

コミュニケーションをはかることは日常の言葉によってできるが、心に横たわる思いを伝えるための言葉は詩や歌の言葉、すなわち文学によってしか表せない。(三枝浩樹•栞文より)

 

自らの思いを大切に、言葉を匠につないで歌っている。著者の声は胸深く届く。そして、直感での把握によって歌の広がりを得ている。(中川佐和子•栞文より)

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

地中海青嵐グループ合同歌集Ⅱ『青嵐』

くずの花咲く川土手の草いきれほそくみじかくきりぎりす鳴く 

中須賀美佐子

三枚の田によろこびとはじらいの早苗が揃い風にふかるる   

檜垣美保子

夕暮れのヒマラヤ杉の一本昼よりもなお際立ちてみゆ     

深山嘉代子

赤い薔薇あなたの持てる花言葉今の私に少しください     

藤井満江

ひとはただ影とし峠越えしならむおほきおほき残月の朝    

松永智子

 

青嵐グループ、三十一年ぶりの合同歌集

四六判上製カバー装 2625円•税込

小黒世茂歌集『やつとこどつこ』

石を抱く木の根の恋をおもひてはくをんくをんと裏山は泣く

八月の真夜にしやがめば亡母ゐて壷は最後のひとり部屋といふ

涙目のごとく湖冷ゆ うた一首を成仏させれば虹に青濃し

びいいーんと夜気すみわたり大峰の月は謀反のやうにあかるし

ビニールの疑似餌に掛かる真鯛にてやつとこどつこで引きあげし祖父

 

日本人のこころの深層に迫ろうと、古代幻視の旅を続ける。

うたとは、そんな風土との言問いと鎮魂のなかで自ずから生まれる。時として呪文のごとく、あるいは哄笑のごとく。そして聖なる語り部のごとく。

 

46判上製カバー装 2625円•税込

宇佐美矢寿子歌集『黒揚羽の森へ』

■平成24年度 茨城文学賞(短歌部門)授賞!

 

黒揚羽、青筋揚羽の翅黒き蝶を舞わせて過ぎる八月

月光を胸の隙間にみたしつつ深海魚のごとく今宵眠らん

火の硝子に息吹きこめし風鈴の鳴るはかすかな風の呼吸か

ああ空も傷を負いしか裂傷のごとき三日月きりりと照る

星空に近きひとつの窓灯る祭りの後のような寂しさ

かなかなの澄みいし日暮れ父よちちいかなる声に返しくるるか

 

感覚の特異性

 

宇佐見の作品の魅力はいくつものコスモスの広がりにより、叙情を裏打ちした内容が深くなってることであろう。

鈴木淳三 跋より

四六判上製カバー装 2625円•税込

佐藤晶歌集『冬の秒針』

風すこし潤うころに思いおり安徳天皇女性説のこと

亡骸が緑の玉になるという漢詩読みおり吉野ゆうぐれ

木琴の音の澄みゆく秋がきてわれのさびしさコンと鳴らせり

ホームレス「ヨハネ」という名を与えられ葬られたり街の教会

自分ではないだれかのためにある世界コンビニスイーツ犬と分けあう

ハイデッガーの〈存在〉語るきみのシャツは栄螺の内蔵みたいなしましま


 

中世の物語や伝承から喚起された豊かな世界と、

今という時代に対する鋭い批評性。

それらが実は、ひりひりするような危機的な自意識で繋がっている。

 

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

山口明子歌集『さくらあやふく』

■完売御礼!

第二十一回ながらみ書房出版賞受賞!

 

授業中反応せぬ子がわが言ひし本借りに来る つくし芽を出す

稲妻に身を裂かれゆく木の痛み和らせむとして背に爪を立つ

五百人の園児の揃ふ運動会すぐに見つかる踊らぬ我が子

雲脱ぎし岩手山ふとあらはれて夏を待つ蒼あさぞらに満つ

みちのくに太き脈なす北上の川を良夜のひかりがあらふ

北を指す針セシウムに狂ふ春さくらあやふく光りつつ咲く

 

ショッキングな出来事とその現実に向き合う作者の真摯な姿勢は、現代短歌の世界が忘れかけている、全身全力でうたうことの意味を広く問いかけるにちがいない。

佐佐木幸綱•跋より

四六判上製カバー装 2625円•税込

後藤惠市歌集『さみしいうさぎ』

年末で定年なれど朝六時に巣穴を飛び出す勤勉ウサギ

今日もまた社食のラーメン啜りゐる職退きし後は何をするか

おぼろ月いつの間にやら階段の窓に貼りつき部屋を覗きぬ


作品の骨組みがしっかりしており、韻律もたしかである。

今という時代に真正面に向き合っている。

  前川佐重郎•跋より

 

四六判上製カバー装 2835円•税込

前川多美江歌集『水のゆくさき』

港より立ちあがる街長崎の五月の空は海照りの光

八日生きし子も一族の紋のうち両手にかこむ壷にねむれる

睫毛まで千涸ぶ泥に固まりて砲を曳く馬立ちつくしおり

八月一日わが撃たれし空襲に崩れし町の写真を見たり

白濁の視界の端にみえてくるわが家の庭の夏葉の椿

 

生家跡 爆心地にむく石垣が石の鱗を落としはじめぬ

 

久しぶりに訪ねた生家跡の石垣。原爆の閃光を浴びたその石垣の表面が剥がれ落ちるのを、「石の鱗」とした比喩が巧みであるし、歳月を越えて被爆体験を作者にありありと蘇らせる。馬場昭徳(解説より)

 

 

A5判上製 2730円•税込

 

小木宏著『歌人の戦争責任』

歌人の戦争責任

 一、いまだにあいまいな戦争責任

 二、戦争、結果責任

 三、戦争責任

 四、歌人の戦争責任

  (1)昭和裕仁天皇の責任

  (2)内閣情報官•井上司朗

  (3)陸軍将軍•齋藤瀏

  (4)「新体制」に能動的に迎合した歌人•太田水穂

     帝国議会議員•吉植庄炊亮

 五、著名歌人たちの戦争責任

  (1)折口信夫の戦争責任

  (2)斎藤茂吉の戦争責任

 六、反省しなかった歌人たち

 七、宮中歌会始と歌人

 おわりに

 

木俣修と戦争

 一、傷つけられた魂

 二、「孤独」を生きる

 三、迎合者としての生

 四、歌人としての信念

 

歌人と戦争詠ー渡辺良三『小さな抵抗』を中心としてー

 はじめに

 1、捕虜刺殺を拒否した二等兵

 2、戦争行為への懺悔

 3、戦争行為の残虐性

 4、戦争行為と短歌

   ①渡辺良三の場合

   ②川口常孝の戦争詠

   ③宮柊二『山西省』から

   ④渡辺直己の戦争詠

 5、作品から見る渡辺良三の反天皇

 6、おわりにー短歌と戦争

四六版並製カバー装•1050円(税込)

村山伀歌集『ふぶき鳴り』

卒業の子らが糸寄せ編みくれし赤きセーター妻に着て見す

うつつなくひばり見上ぐる生徒らの幾人ゆるし授業すすめる

走り込みジャンプ一番額(ぬか)で打つボールは瞬時に防御を破る

 

鴻の鳴き渡る雪の〈新潟〉。

風土に随い、瑞々しい魂のさやぎを

長期にわたりロジカルに、

ファンタスティックに彫琢した。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

太田豊歌集『時の秤』

合併後残れる者も出てゆきし者も辛酸を嘗めし年月

現代の閉塞の中をそれゆえに儲かる商ひきつとあるはず

右顧左顧ところ構わず平こらす踊念仏のふだ配るごと

職場にて一人励みぬ優れたる人と社員に思はれたくて

親しげに会社に通ひ綻びを見つけ合併の楔打ち込む

取引の未収七百万取り立てを頼まれ苦し六十四歳

 


近現代の短歌に欠如するものがある

とすれば、それは経済観念だろう。

私たちはいま経済を切り離したところに住むことは出来ない。

太田豊氏の歌集『時の秤』は生活凝視の歌であるが、

現代の経済と切りむすぶ歌でもある。  島崎榮一•帯より

 

A5判上製カバー装 2730円•税込

足立晶子歌集『ひよんの実』

■平成25年度日本歌人クラブ近畿ブロック優良歌集

 

青空にひよんの実吹いて遠い日の風の中へ中へ行くなり

すこしづづ水を零してゐるだらう震へ止まざる地球は今も

落ちてゆく椿を持つてゐるやうな昼の半月なかぞらにあり

すんすんと青田に鷺をばらまいて天地無用の今日の青空

大切な茶碗が割れておしまひの今日の終りをふつと笑ひぬ

レタス箱におさなご積んで自転車は星かなにかを零してゆけり

 

かぎりなく続く青空。遠い日の記憶のように。

いのちの奥に底光りする純粋なたましいを抱きかかえつつ、

透明な光の輝きにむかって、作者の眼差しはどこまでもやさしい。

 

四六判上製カバー装 2520円•税込

藤間操歌集『文箱』

たたずまひ佳き白梅は遠目にも其処のみみぞれ避けて降りをり

たばこ買ひに行くが如くにふらり消えし夫を送りて十三年経たり

もののふの哀れ見て来し大公孫風冷たく未だ芽ぶかず

地震ありて沈黙長き振り子時計なじかは知らじ時告げはじむ

 

対象に一定の距離をおき、観察を楽しみ、

作歌も楽しんでいる。

特徴の一つである序詞や比喩も上手い作者で、その技術をどれくらい駆使しているのかを知るのも本書の魅力と思う。

鶴岡美代子

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

三枝昂之著『百舌と文鎮』

短歌史における近代から現代の伝統を踏まえ、歌をめぐる日々折々、机上の旅人にあたたかい思いを馳せた体験的エッセイ集。

 

[主な内容]

啄木学会、その他

窪田空穂の思い出

凌寒荘と信綱

「昭和短歌の精神史」について

斎藤茂吉と藤沢周平

前衛短歌再検討

竹山広氏の死

河野裕子さんの死

私の三月十一日

 

 

四六版並製カバー装 定価2500円•税込

高橋海洋歌集『糸を紡ぎて』

いかような願いをこめて名付けしかわれの名「海洋(なるみ)」海に向きつつ

無念そうに一声吠えて夕の五時終えたる犬をわれは抱きしむ

なに、なにと問う二歳児に娘も真顔育児と育自の試練始まる

シャンパンを庭の四隅に撒きて謝す離るる総(ふさ)のおぼろなる宵

石和は桜、五湖は銀雪、四月八日山ひとつ越え季節ふたつ愛ず

夭折のあなたの墓前白百合の香はわがシャツに移りておりぬ

 

やさしくそして柔靭な明治の甲州女の母の姿、

その世界が高橋海洋の歌の書くのひとつとして存することを知り、

私などは沁み透ってくるような熱いものを覚えた。

歌を紡ぎ始めたのは五十歳を過ぎてからではあるが、

十余年にわたり、月例勉強会に往復五時間もかけて出席するなど、

本集にはその努力の結晶が確かに詰まっている。

下村光男

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

大島史洋歌集『遠く離れて』

山深く住むならねども目を閉じて峡吹きおろす風と思うも
積まれいし書類がいつしかなくなりぬ癌を病みいる同僚の机
生きている者のおごりは世の常の離反のごとく病む人を見る

職を退き、閑居の日々を送ろうとする歌人のこころに去来するさまざまな人生の鳥影。
それらを静かに受けとめ、淡々と詠む。
生涯の師•近藤芳美への回想、ふるさとのこと、母の病いと死など。
感性鋭く、批評性をたっぷりと蔵した大島短歌はいま滋味と渋みを加えつつ、新境地へと向う!
A5判上製カバー装 2835円•税込

内野光子歌集『一樹の声』

雨来たる敗戦の日にして野に立てば五輪の金も国家もいらず

乱歩展年譜に父の生涯を重ねつつともにこの街にあり

人垣を分け入り探す池袋古地図に生家の町名はありむ

町内会副会長乱歩が残す四月十三日空襲羅災者配給控

競うがにくれないの花の天を突く日なかに兄を見舞わむとして

 

自分自身が動かない以上、言葉が発信できない、

言葉は無力だ。

しかし、その言葉を発信したら、きっと私と同じ思いの他者と連なることができる。

A5判上製カバー装 2835円•税込

 

小潟水脈歌集『扉と鏡』

たばこ一本ただただカラカラ回りをりエスカレーターここでおしまひ

証明写真と同じわが顔嵌まりたり帰り来て入る部屋の鏡に

子は親の背を見て育つと言はるるが嘘つけ本の背表紙ばかり

雪だるま石の目くぼませ融けながら困つたやうに夕闇に座す

色かたち覚えることなく朝晩にこの位置にある歯ブラシを取る

 

日常の営みの中で心にとまったモノや事柄を記録する。

しかし、日常をそのまま日常としてすませることはしない。

その記録のかたちが歌という小詩型を選んだ瞬間、

心の時空は日常を越えて自在に飛翔し始める!

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

土谷榮子歌集『虹色の鉛筆』

虹色に書ける鉛筆あるを知る苦しみ悲しみ書きゆかば虹

長き首空に屈めて齝みぬきりんは麒麟のことなど知らず

モンゴルに太陽電池冷蔵庫背に乗せ歩むらくだありしと

静けさは師の声のみを聞かせをり夕立しろし谷渡り来る

帰り来し包みの中にひそとゐる桜ひとひらふふふふ ふふふ

病まふ日は里芋などに顔も似て土に還れる日を思ひたる

 

若々しい好奇心で、目の前に現れてくるさまざまな事象をまっすぐに見つめ、それをどう表現しようかと、苦労もされている。

実に充実した豊かな精神生活である。

-森岡千賀子•解説より-

 

四六判上製カバー装 2730円•税込

 

 

 

石井幸子歌集『挨拶-レヴェランス-』

つま先にわれを立たせて柔らかな地球と引き合ふ真夏の体

樹や示唆は悔しさとして蔵ひおけ石垣被ふ濃緑の苔

天上の深度計かもしれなくて糸まつすぐに蜘蛛おりてきむ

どのやうに生きたかつたか残りたりしやぼん玉液夕日にかざる

竜宮の使ひはいずこへ行きしならむふぢ色に澄むひむがしの空

 

 

こころの内側の小さな窓。

やわらかな風が吹き通い、木の葉が揺れ、親子連れの明るい笑い声。

そんな小窓から、そっと開かれた世界に向って挨拶を交わす。

歌が自ずから応える。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

野村二郎歌集『二月の雨』

冬眠の蛙をめさます程に降れ二月の雨を湯船に聞くも

雪除けて切りいる杉の株の面(おも)湯気立ち匂う生木と匂う

霞こめる葦原なめてみどり立つ雨蕭々(しょうしょう)と降りつづくなか

車止め秋田杉林見ておれば羚羊尾を振り笹むらに入る

 

『二月の雨』に詠われている作品は、生きとし生けるものたちを、あたたかく見つめている作者の世界観をひそやかに顕たしめている一冊である。

 

四六判並製カバー装 1800円•税込

 

渡辺松男歌集『蝶』(再版)

=完売となりました=

=第46回迢空賞受賞= 

電子書籍版は継続販売しております=

 

わが感覚すすき野のへにありしかどこのかろさ死後のごとく気づけり

吾ゆ耳の離れてぞあるそのなかにこほろぎの鳴く必死のみゆる

うつうつとせるなかにある華やぎは地中の蛇のうへ歩くかも

ひまはりの種テーブルにあふれさせまぶしいぢやないかきみは癌なのに

 

孤独なけものどもが跳梁跋扈する

異界の住民どもが拍手喝采する

 

詩歌の時空を自在に遡行し、飛翔し続ける感性の冴え

それが「松男うたワールド」!

 

 

四六版上製カバー装 二七三〇円•税込

岩尾淳子歌集『眠らない島』

こころなら聞こえているというように向きあったまま海鳥たちは

あたたかいコンクリートに自転車を寄せておく海の眠りのそばに

陽のあたるながい廊下をゆくようにさみしさがきて抱擁終えぬ

鳥たちがようやく騒ぎ始めてもあなたはいつも眠らない島

逆光にしずくしている海鳥をかつて入り江に見たことがある

 

こころが聞こえるとは、なんと美しい言葉だろう。

海鳥たちのこころと作者の心が響き合っている。

内海の穏やかな風景は、読者の喜びとして

胸に広がるのである。        加藤治郎•跋より

 

46判上製カバー装 2625円•税込

 

佐藤貴美子歌集『藤の宴』

現世に縁の糸でむすばれて綾なる彩で織りたし家族

紫野しぶきをあげて走り去る藤の穂波よ何処にゆくか

君と並み紫けむる夜半の庭一千条の藤と語りぬ

七十五歳の終りも近し赤き靴履きて歩めば女童のごとし

 

藤の花房が風に揺れ靡くように

帰らぬ時間と帰らぬ大切な人。

あるいはまた、これからの未来を受け継ごうとする

若い家族やガールスカウトの少女らや友人知人達。

佐藤さんが歌に詠み込んだものは佐藤さんに愛される。

短歌にはそんな役割もあって、それはとっても重要なのだとあらてめて思い知らされる。

 川野里子 帯文

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

當間實光歌集『大嶺崎(うふんみざち)』

沖縄を供物となして見捨ている大和(やまと)を吾は祖国と呼ばず

摩文仁野のいずちに果てしや義父よ父よ五月を待ちて咲ける月桃

妻と子と血で繋がれて囲みいる普天間基地に仏桑華咲く

ふるさとは基地となりにし大嶺崎フェンスが分かつ海と陸とに

辺野古崎基地建設のきざしあらば老寝

 

當間さんの短歌は、沖縄をテーマとする社会的視点を持つ歌から、亡き祖父、父、母親を歌った作、故郷の自然や妻への思いを託した歌など、多岐に渡る。(道浦母都子)

A5判上製カバー装 2835円•税込

 

井村亘歌集『星は和みて』

顔のなき白衣の群れに囲まれて無影灯下の執刀はじまる

井の底ひひかり溜めをりおとうとの駈けてまろびし杳き日のまま

春の野のほのかに紅きほとけのざ摘みて帰らな子の坐りゐむ

底紅の宗旦木槿はや咲けばひと日ひと日を虔しみて生きむ

 

『星は和みて』は著者の住む大和の河合町星和台に基づく。

この地で詠んだなかでとりわけ生老病死に伴う歌に感動を覚える。

畢竟、短歌は晩歌と相聞歌につきるかも知れない。

-前川佐重郎「序」より-

 

A5判上製カバー装 2800円•税込

 

大野とくよ歌集『永遠とう』

生きて再び誰にか逢わんほんのりと夕闇匂う木蓮の花

さまよえるここと一途に何を欲す天上界に咲く桃の花

夏の日にゆらり輝く芙蓉の花うす紅にこころ盗られておりぬ

あと幾年生きなんとする空のなか笑顔に向きて口ごもりたり

真実なるこころのひだをときあかす歌ノート風が剥がしてゆきぬ

 

生へのかぎりない慈しみ。

桃の歌人の心はおおらかに、静かに成熟を続けている。

みずみずしい言葉の果実をもぎ取る器となって。

 

「大自然の畏怖より逃れ難い現実、それを心に病めるからこそ、

その大自然界に向って生きる叫びを、私は自らの短歌に

なしとげたいと思ったのである。」(あとがきより)

 

A5判上製カバー装 3000円•税込

 

 

 

橋本忠歌集『白き嶺』

■平成25年度日本歌人クラブ北陸ブロック優良歌集

 

城山の雪きらめけば空を截る鳥も光のつぶてとならむ

冬の田は鋤き返されてさびさびと夕べを繊き雨降りつづく

門のごとに家族の数だけ雪だるま飾るとぞいふこの峡の村

人の世の小事過ぎゆく日々なれや梅はなうづぎの花時も過ぐ

むら消えの雪野の果てに白山のやまなみ光る春のことぶれ

 

加賀平野の阿弥陀島町は戸数十二の小さな集落。

ここが著者の生まれ育ったふるさとだ。

このふるさとの学校で、少年少女の育成に力を尽くした著者。

十年前からは野の人、書斎の人だ。

白山は著者のふるさとの山田。里山の奥につづく白山。優しい姿のこの山は晩秋から初夏まで雪をかずく。

かつては「越白嶺」とよばれ、篤い信仰をあつめた霊山だ。

このふるさとで著者は七十歳を迎えた。古希ならぬ己輝。白き嶺のかがやくふるさとで、歌の人なる己を輝かす。(橋本喜典)

 

A5版上製カバー装 2835円•税込

 

伊藤一彦著『月光の涅槃』

=好評につき再版いたしました!=

 

太陽と月と緑と海の風土。

そして、口蹄疫の悲惨をも味わった南国の地、宮崎。

産土の地に根を下ろし、地霊の声に耳を澄ませ、

その始源に輝くさまざまな光を掬い取り、

歌びとのまことの心を今もなお発信し続ける。

 

牧水をこよなく愛で、

酒を、文学を、風土を愛で、

思索の深まりとともに綴る。

 

四六版上製カバー装 二八〇〇円•税込

 

 

鎌田芳郎歌集『喜界島』

焼酎ににぎはふ夜はいつしかも三線が鳴り島唄が出る

見はるかす藍青の海いらだちて島の春野は風鳴るばかり

この子らに父はをるなり父をらぬ家に育ちしこの子らの父

一天に雲なき夏の日の下に貧しき畑に芋を堀りにき

特攻兵散りたる海の夕空に星を招きて阿檀の葉ゆらぐ

振りかへる人もなからん道ばたの大根の花あはきむらさき

 

鎌田さんにとって喜界島とは文字通り「喜びの世界」なのである。

読者は『喜界島』を詠みながら、自分自身のふるさとについても思いを寄せられるであろう。 伊藤一彦•序より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

 

 

滝澤齊歌集『屏風絵のなき屏風歌 木愛づる歌ども』

桜みち薄紅色の風吹けば道ゆき人もなべて匂へり

雪降れば松を尋ねむ 白妙に身をけすらひて吾を待つらむ

月明し 淡雪かかる白梅に 銀の屏風となりて野は映ゆ

炎天に焼かるるものを プラタナス 木陰をくるる君がやさしさ

青葉なる桜の下にやすらへば 汗もさまりぬ いざ歩み出てむ

紅葉葉を敷き詰むる道の色深き 時雨ふりけむ夕べの園は

 

歌作りを純粋に楽しむ。『古今集』の世界に遊び、

古歌の宇宙に紛れ込みながら、

やわらかで、匂いたつ美を求めてやまない。

 

繊細な抒情が奏でる歌世界のはじまりだ。

 

四六判並製 1500円•税込

 

 

泉田多美子歌集『紫花菜』

危うしと思う高さに吹かれつつ今しほぐれむ夕顔の花

嘘をつく幼と叱りいる吾と淋しき窓に来る雨蛙

すぐそこと教えられたる所まで夕暮れてゆく道の遠さよ

明日の米買えぬ苦労をしてみたい坂田三吉その妻小春

獣らにありて人には無きものか冬の眠りと言うを思えり

 

なんの気負いもなく、

自分の背丈ほどの歌を詠む。

簡単なようでいて、現代においては困難な歌の道かもしれない。

そんな道をゆっくりと歩んできた。

先師•石田比呂志のきびしい指導に応えるべく、より作歌の高みをめざす。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

三橋たまき歌集『玉響』

心の火かきたてかきたて生ききたりいまたまゆらのやすらぎのなか

満たされてあるものやよし春の宵ひとはやさしく言葉を紡ぐ

若き日を識るは楽しきさりながら若き日のみを知るは切なし

冬の樹々黙すのみなりにんげんはやさしきことばかたみにもてり

気まぐれな少し破調な人生も悪くはないさ虫の夜となる

 

作歌半世紀の軌跡は決しておだやかなものではなかった。

いま、ひととき、人生の安らぎの時間と場を得た。

しかし、歌は眠らない。

さらに深まり、いよいよ命の実相への問いかけが始まる。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

西澤惠子歌集『各駅停車』

留守宅の門扉のわきに犬槙が衛兵のごとまっすぐに立つ

一人降り二人降りして初夏の午後くつろぎ漂う各駅停車

娘との喧嘩の後のショッピング拘りつつも連れだって行く

亡き父が庭隅に植えし山紅葉巨木となりて影を作れり

橋の上にシャッターチャンスを持つ人の肩に桜の花びらの散る

 

槙は隙間なく葉を茂らせ、枝を伸ばす。

まさに衛兵のごとくまっすぐに立ち、内の様子は隠れて見えなくする。 晋樹隆彦•序より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

佐佐木幸綱歌集『ムーンウォーク』(再版)

=第63回読売文学賞受賞受賞!=


花束を受け取る人と渡す人いま交差する人生ふたつ

キャンパスに子ども 字が溶け言葉溶けて立つ看板の前に笑えり

しゃべりつつ言葉を選ぶ立ち止まりムーンウォークをする感じにて

 

おおらかに虚空を舞う現代短歌の翼。

切っ先の鋭い言葉の剣。

奔放にして自在なイメージ。

はらわたにしみる「人生」という旨酒。

 

四六版上製カバー装 2600円•税込

 

 

岡崎裕美子歌集『発芽』

=完売=


したあとの朝日はだるい自転車に撤去予告の赤紙は揺れ

小さな嘘が大きな嘘になってゆく 私を見ているあなたの瞳

乗換えも面倒このままずっとこの川を渡って君のところへ

 

『発芽』は、くり返し恋愛場面(あるいは性愛場面といった方がいいかもしれない)を小説風に仕立ててゐる。一首で、ある一場面といふこともあるし、一連で掌篇小説を書いてゐることもある。  岡井隆解説より

 

四六版上製カバー装 2625円•税込

 

浅田隆博歌集『四季の轍』

春光の陽光をうけて境内の墓石の脇に木瓜の花咲く

いくつもの銀やんまとぶ照りつける稲田のうへを見回るごとく

黄葉の公孫樹の枝乃先端に見張るがごとく鵯とまる

木立には小雪の降りて四十雀の高き囀りよくとほり来る

 

私にとってたんかは親しい友人となっています。

何でも打ち明けることの出来る親しい友人を得たような気持ちであります。

想像の喜びと親しい友人と語り合う喜びが私を幸福にしてくれます。

老後の沈みがちな心に対して人生にはりが出たような気がします。  ーあとがきより

 

四六版上製カバー装 2625円•税込

 

竹山広全歌集

=在庫切れ=

書店戻り等が出て販売可能になりましたら再度告知致します。


なにものの重みつくばひし背にささへ塞がれし息必死に吸ひぬ

血だるまとなりて縋りつく看護婦を曳きずり走る暗き廊下を

逃げよ逃げよと声あららぐる主治医の前咳き入りざまに走り過ぎたり

 

A5版上製箱入り 7000円•税別

吉野のぶ子『くぢらぐも』

庭樹木の季の移ろひ告げたくて紅き椿を遺影に供ふる

わが名もて親族、知人へ賀状書く所帯主とふ余生を生きて

ひとすぢの涼風わたりてわが膝の歌集めくれり昼のまどろみ

時折は遠回りして愛でたりし合歓の古木は今日伐られたり

如月に逝きたる夫ゆえ花どきの京にて納骨なさむと思う

 

亡夫君追慕のこころを連綿と継ぐなかに

ふるさとの自然をみつめ

そこに生きる人間の営みに

健やかなまなざしを放つ

 

そして古寺を巡り

旅の思いを 投影しながら

ひと日ひと日の歩みを重ねる

 

おみなひとりの生を

遊行の高みへと 運ぶ

久泉迪雄

 

A5版上製カバー装 2835円•税込