竹内由枝歌集『桃の坂』

うらうらにくれなゐにほふ桃の坂たれかを送り誰かを待ちゐき
鷺草の花の白さよ飛ばざればジュラ紀にあてて手紙書きゐる
多摩川が今し産みたる大き卵水面にぬらり満月匂ふ
思ひ出は椿の森に落ちてゐむ木洩れ日の斑を一人踏みゆく
わが裡の曠野を駆ける白き馬銀河の果てまで駆け抜けて行け

桃の坂ーその坂はどこにあるのだろうか。移ろいの坂、無常の坂、どこにでもあるようで、どこにもない異界の坂。匂いたつ浪漫性が上質の言葉としらべとを獲得し、人の世の生死の意味をじっくりと問い続ける。



四六判上製カバー装 2500円•税別