定本 竹山広全歌集

まぶた閉ざしやりたる兄をかたはらに兄が残しし粥をすすりき
人に語ることならねども混葬の火中にひらきゆきしてのひら
おそろしきことぞ思ほゆ原爆ののちなほわれに戦意ありにき
妻は妻の灯に安らへよわが点す灯はみづからに降りゆかむため
死の前の水わが手より飲みしこと飲ましめしことひとつかがやく
あな欲しと思ふすべてを置きて去るとき近づけり眠つてよいか
崩れたる石塀の下五指ひらきゐし少年よ しやうがないことか
六十年むかし八月九日の時計の針はとどまりき いま
 
第一(処女)歌集『とこしへの川』
第二歌集『葉桜の丘』
第三歌集『残響』
第四歌集『一脚の椅子』
第五歌集『千日千夜』
『竹山広全歌集』
第六歌集『射禱』
第七歌集『遐年』
第八歌集『空の空』
第九歌集『眠つてよいか』
第十(遺)歌集『地の世』 (竹山妙子、馬場昭徳編)を収録。
 
A五版箱入 9000円•税別