大崎瀬都歌集『メロンパン』

メロンパンのなかはふはふは樫の木に凭れて遠き海を見ながら

生き物のまぶたはうすし目を閉ぢて春の光に充たされてゐつ

内側からてらされてゐるマネキンのからだに似合ふ浅葱の下着

棄てられぬものを入れおく缶は棺ふたするたびに別れを告げる

本当は生きてはゐない日々だから葡萄は喉をすべり落ちたり

 

若くして先師•前登志夫と出会う。その分厚いデーモンのような詩魂をどこかで受け継ぎながら、清新でナイーブで屈折した独自の世界を生きて、歌う。人生の陰影はいよよ濃くなっていくが、深いかなしみすら、作者のなかでは軽やかで透明なしらべへと昇華されていく、そんな不思議さ、自在さ。

 

四六判上製カバー装 2500円•税別