小石雅夫歌集『一期一愛』

判型:四六判上製カバー装

頁数:216頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-209-0

これは、格別でもない一組の夫婦が、最後の別れの数年をようやく濃密な時間を過ごし合ったそのほんの一端の記録のようなものに過ぎない。

……その間の、ときどきに関わって捨て難いおもいにまつわるものだけにしたが、それでも六八一首にもなってしまった。

これでも思いの丈には届かない(あとがきに)

 

 

 

 

          せ

少しずつ頭を塞く妻がバス停にわれを見送ると言い張りて来る                            とお

分刻みに寝ては起きする妻とともに寒夜徹して身も冷え果てつ

 

妻の名を毎日かならず一度書く面会票にわが名とならべ

 

言葉無き妻にしあれどわが言える言葉にかえし指つよく締む

 

安置所に会いし帰りに行き処なく入りし書店の書棚もぼやけ

 

千の風になんぞならずにわが胸に妻よいつまでも留まりくれよ

 

おかあさんの「あはははは・・・」という心からの転げ出る笑いもう聞けないのです

 

「一期一愛」と刻みし妻の墓所に来てマスクをはずして”濃密”にいる