植田美紀子歌集『ミセスわたくし』

岩盤浴終えて帰りのうどん屋にすっぴんのわれの啜る素うどん

目のふちを掻く快感におぼれつつ聞いていますのポーズは保つ

塩茹での刑を逃れし菜の花が廚の隅に満開となる

生き物はかくれんぼ好き鉢の下に蚯蚓、団子虫、私も入る

 

 

ミセスわたくしとは誰か

 

妻として母としてときに娘として。勤め人として、ときどきは〈ひきこもり事務所代表〉として。いくつもの顔を精力的に生きる多面的な生は、置き換えのきかないただ一人の「わたくし」の人生。多忙な日々の中で、自然を見つめ、人に出会い、みずからを振り返る作者の眼はつねに好奇心をたたえ、その言葉は率直で向日性にあふれている。充実の日々を、軽やかに鮮やかに刻む第一歌集。

大口玲子

四六判上製カバー装 2500円•税別