小笠ミエ子歌集『日月』

夫ゆきて日月(ひつき)経ぬれば淋しさに時効あるかのごとく人言ふ

すすき原を風わたるときいつせいに穂先たふして真白となれり

月満ちて生まれ来れりをみな児は膚うつくしき桜色して

松落葉しき降る道のふかぶかと()(うら)にやさし海へ通ひぬ

道に迷ふ夢をまた見ついつの日か徘徊なさむ我にあらずや

 

むらさきの濃き長茄子の三本を旅の鞄にをさめ帰り来

 

日が過ぎる。月が通り過ぎていく。すべては忘却のかなたへと。

おだやかな心には、おだやかな光景がおのずから宿る。

この世の中のすべてを受容し、ひたむきに歌と向き合う至高の時よ!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別