国吉茂子歌集『あやめもわかぬ』

夕暮れてあやめもわかぬ感情のこんなさびしさ夫長く病む

眼つむれば理想郷(ニライ)の風の頰を撫づ海に抱かれ母に抱かれ

思ひ出はユングフラウの氷河にも小鳥ゐしこと君がゐしこと

戦争も生中継さるる世となりてあぐらをかいて死と向き合へり

墓前にて行ふ御清明(ウシーミー)明るくて島の桜は疾うに葉ざくら

 

断念のかたちとは、

心からの祈りのかたち。

まぶしい南国の太陽、

マンゴーの木をのぼる樹液。

沖縄ニライの風が歌を呼ぶ。

海が歌う、島も歌う、もろともに!

 

現代女性歌人叢書⑮  2500円・税別   

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寒野紗也歌集『雲に臥す』

岩の上に姿を晒し飛び跳ねる若鮎のまま水に戻らず

野をめぐり雲に起き臥す「花月」舞う姑在りし日の夏能舞台

神棚の水替え供花の茎を切る務めねば消ゆきのうのすべて

ひとりずつ春の野原に発たせては降り出す雨に顔をむけたり

筆描きの古代絵地図の遥ばろと海と陸とは移ろいにけり

 

かがり火が揺れる。

光に照らし出される白足袋の白。

なつかしい人々への思いを抱きながら、

幽冥界の境へと歩み出て

たおやかに歌を舞う!

 

現代女性歌人叢書 2500円・税別   

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川守田ヱン歌集『冬木のオブジェ』

戦ふは人に向かふにあらずして挑むごと雪を力込め搔く

吾の巡り和子勝雄の名の多し戦火くぐりし父母らの願ひ

天を射し辛夷のつぼみ鎮魂のらふそくの灯をともし静けき

自らは光り得ぬ月冴え冴えと光りて十夜法要近し

風雪の四日つづきて茜さす夕べオブジェとなりたる冬木

 

基地の街三沢での独居の日々。

雪に閉じ込められた視界の向こうから

みちのくの春を呼び寄せるように歌を詠む。

「終戦戦後のこと」と題した手記が歌と響き合う。

それは南部びとの強靭でしなやかな意志の輝きだ。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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上林節江歌集『絆』

阿武隈の土手に黄の花咲く頃かほのかに辛き春の菜摘まん

スイスにて出産するとの娘の覚悟いかに支えん母なるわれは

記念の木なれども伐ると諦めることから始まる哀しみのあり

ぽつぽつと漢詩や短歌もちりばめて泣き言いわぬこころが光る

今もまだ長屋門の前に立ち母が待つような小春日の空

 

北国の風土に根ざしつつ、そこに生きるすべてのものを慈しむこころ。どんな辛さの中にあっても周りのものを思いやる上林さんの歌には、やわらかな明るさがある。泣き言を言わなかった母の姿そのままに。        

久我 田鶴子    

 

A5版上製カバー装 2800円・税別

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小寺豊子歌集『水鳥のごとく』

 

 

水鳥のごとくアイロンすべらせてシーツの小さき波を消したり

 

〈「シーツにアイロンをかける場面と水鳥が水面をすべる光景の連想が見事。比喩が大らかで、のびのびしていて、読者を楽しい気分にみちびいてくれる」。幸綱氏が小寺作品の特質をとらえて高く評価したこの一首から歌集タイトルは採られた。〉   伊藤一彦・跋より

 

 

さくら背に母と並びて写真撮る石段ひとつ高さ違えて

掠れゆくこともしないで突然の別れのごとくインクが切るる

五枚目に漸く呼吸(いき)の合いてきて夫と二十枚(にじゅう)の障子張り替う

もう少し雨と呼ばれていたいから川面の水に溶けないわたし

 

五秒後に落としてしまう西瓜抱き写真のなかで微笑む少女

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

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小紋潤歌集『蜜の大地』

人生の半ばを過ぎてぬばたまのカーマイケルを思ふことあり

われに母在ると思へば夏雲はこの大空に昼をゆたけし

銀河系、その(はじ)まりを思ふときわが十代の孤り(すず)しも

憂ひありて思へばわれに父ありて夕べの祈り捧げゐるらん

顧みてねがふことなきわれになほ盧生の夢のごとき残生

クレヨンに描かれてゆく麒麟なりさうだ象よりずつと喬いぞ

夢ひらく水木の花に沿ひてゆくお前のゐない動物園で

 

ふるさとに帰りて思ふ徴税人マタイが従ひしその人のこと

 

 待望の小紋潤の歌集がついに刊行された。短歌はついに人間なのだ、古くから言われてきたこの言葉がこれほど似合う歌集はめったにない。どの一首をとりあげても、小紋潤の声が聞こえる。小紋潤の息づかいが感じられる。そこに小紋潤その人がいる。

佐佐木幸綱

 

 

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金子愛子『花の記憶』

エスペラント語研究所とある坂の上陽の当たる窓常に閉ざせり

(かほ)のない千代紙人形買ひて終る愛にとらはれし日々を旅して

呟きのごとく近頃口ずさむ「捜しものはなんですか」

勤め先変はりひと月通ふ街「花」とふ小さき茶房覚えぬ

高層のマンション一面に朝日差し当り前のやうな平穏があり

 

長い歌歴をもつ金子さんの歌には、秩序立った端正さと無秩序の愉しさがある。都市生活者としての嘱目詠、家族詠、旅行詠など、その幅の広さはそのまま人生の充実を想わせる。反面、やり直しのきかない人生の隙間を埋めるように愛を詠う。甘さも苦さも切なさも知り尽くした愛子さんの、初々しくもこくのある人生讃歌である。      (佐藤孝子)

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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小宮山玉江歌集『葡萄棚の下で』

夕立の残しゆきたる大き虹(かひ)の山から山をつなぎぬ

欅の木遠くけぶりて空白しひたすらなりや今日降る雪は

手入れ終へ葡萄畑の棚の下つかれの淀むごとき夕暮れ

一瞬に奪はれし命 延命に生かされし生 思ひみるなり

流れきてここに芽ぶくかくるみの実千曲(ちく)()に春の水の流るる

 

農に生き、農に親しむ。

夫ともに葡萄棚の下で汗を流した日々。

そして、夫の看取りの日々と永久の別れ。

長く辛い時を経て、いのちの輝きを取り戻すまで、歌のしらべはみずみずしい葡萄の果汁そのものである。

四六版上製カバー装 2400円・税別

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櫛田如堂歌集『ざうのあたま』

原発より同心円で括られし故郷かなしも阿武隈山系

朝霧のコロラド川に太極を舞へば彼方に魚跳ねる音

受話器越しの高揚したる妻の声抗癌剤を受けし月の夜

香りとは最も深き記憶とふ みかん剥きつつ亡き妻思ふ

眸の光追ひて離れぬ虫のあり我が湖の深みを知らず

 

放射線の科学を専門とする著者の視野には何がどのように映りどう捉えられているのだろう。如堂とは禅の師家から贈られた名である。これらの対極にあるような世界観を併せて今日の現実と対面する魅力がここにはある。にもかかわらず、いや、それゆえにこそ圧巻は第三章にある。著者は御母堂と愛妻を同時期になくされ、人生の淵に沈淪する。「ざうのあたま」の真実が酷薄な悲しみを誘う。ここを過ぎて歌はいよいよ深くなるであろう。

馬場あき子

 

四六版上製カバー装 2300円・税別

 

 

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経塚朋子歌集『カミツレを摘め』

暗きアトリエにて生み出されし人体が水平線の窓辺に置かる

工房の倉庫に眠る粘土塊(つちくれ)を朝の光のもとに運び出す

 

 

アジアンタムに秋の日は射しかの人の()()()の戦ぎゐしこと

 

 

わたくしは雨であり車輪であり轢かれた肉だ カミツレを摘め

 

 


 ジャコメッティの塑像も倉庫に眠っていた粘土の塊も、置かれる場所が変わればまったく違う表情を見せる。そのように、家族の一人一人が、そして自分自身が、置かれた時代や場所によって、今いる場面や状況によって、多様な表情を見せ、ときに予想外の一面をあらわしたりもする。
 この歌集は、家族の一人一人の、あるいは自分自身の、多彩かつ多面的な表情を浮かび上がらせることで、この世の不思議を、さらには生きることの思いがけない起伏を、ダイナミックにうたっている。ぜひ、多くのいい読者とめぐりあってほしいと願う。

佐佐木幸綱・序文より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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桂保子歌集『天空の地図』

遠花火を部屋の灯消して眺めゐる肩に凭れてしばらく泣きぬ

いづこかに天への梯子(はしご)を匿しおく納屋のあるらむ 星ひとつ飛ぶ

千五百(ちいほ)の秋の過ぎた気がする大窓を磨き椅子よりわが身下ろせば

触れたしと差しだす指に黒揚羽ふはり止まりて詩稿のごとし

天空にかきつばた咲く水苑のあらむ(ふた)(あゐ)色のゆふぞら

 

 

 

この世には素直に受け入れがたいものがある。

たとえばよき伴侶との永久(とわ)の別れ。

天空に風が舞い、夜は星々がまたたく、無辺の闇の彼方へ。

万感をこめて歌を詠み継ぐ、それは愛おしいものへの極上の供物!

 

現代女性歌人叢書③ 2500円・税別

 

 

 

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久留原昌宏歌集『ナロー・ゲージー特殊狭軌』

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川瀬千枝歌集『山上の海』

山上にとほく海ありまぶしみてゆかむとおもふけふのこころは

にはとりは大き掌にぬくもりて静かにいのち預けをりたり

夫のなき憂ひしづめて降り立てる飛騨一国は白銀を刷く

平坦な冬の地表に手を垂れていま渾身にひかり浴びゐる

つつがなく御座すわが師を囲みゐて時に野草にはなし及びぬ

 

川瀬さんは、後藤短歌を最もいいかたちで継承した一人であろう。やや遅い出発ではあったが、彼女のテーマである自然への畏敬、人間存在の悲しみが、年齢を重ねた視線を通してしずかに伝わる一巻である。

大原葉子・跋より

 

四六版上製カバー装 2400円・税込

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倉石理恵歌集『銀の魚』

夏の夜をふたりでおりぬ呼吸の間のしじまを銀の魚とびはねる

沢水は冷たかりしか白黒の母の笑顔とキャラバンシューズ

ちちのみの父ははそばの母若く基地の桜の下に逢いしを

雷神も見惚れいるらん鐙摺(あぶずり)の夏至の夕暮れ雨後のむらさき

夫は夫のわたしはわたしのデジカメで並び写せり渓底の水

 

この歌集の中心となるのは家族の歌である。生きてゆくこととそのことにまつわる根源的な孤独が、家族という存在のぬくもりを、より切実なものにしているのである。 谷岡亜紀・跋より

 

四六版上製カバー装丁 2500円・税別

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川本千栄歌集『樹雨降る』

ドーナッツ・竹輪・蓮根・フエラムネ 穴あいて天はいつも落雷

両の手を厚く重ねて本に置く 私の夏はかがやく欅

時雨ふいに降る時は降るその時は濡れればいいのだ木の間の雨に

サンタはママかと語気荒く聞く子のおりて未だわれには恩寵のごと

ものの隅見えざる深き闇にても抱かれる時は眼を閉じるなり


やわらかく、しなやかな言葉を刻む生の時間。あたかも木々の葉や枝から落ちる水滴のように。


日常の時空の隙間からわずかに洩れ聴こえてくる声をそっと掬い取るゆるぎない感性の横溢!


A5版上製カバー装 2700円・税別

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久山倫代歌集『星芒体』

 患者より離れて医師ら昼餉せり一人一人の空ある窓辺

秋の糸一本混じる風が吹き炎暑の街に蜻蛉は浮かぶ

「大霜じゃ」「よう晴れとるわ」天候は母の声して日々われにあり

破線より破れぬように切り取りぬ父母存命の証の紙を

車椅子押し来る家族患者より家族のための治療も選ぶ



久山倫代さんはいま、人生で最も苦しいところにいる。皮膚科のドクターであると同時に、老父母の介護が加わるなか、短歌と向き合っている。若き日の情熱的かつ意志的な久山さんは朝日歌壇の花形のひとりだった。そこから歩み、越えてきたその人生の曲折に感慨が湧く歌である。仕事の上からも病む人や死と対きあう事は少なくない。それが歌う場面の一齣にも、日常感にもある抑止力的にがさとなっているのが共感される歌集である。


馬場あき子・帯文より 四六判上製カバー装 2500円・税込

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楠田立身歌集『白雁』

姜尚中のオモニもわが家のオフクロも子のため精出(がまだ)しき泥のごとくに

齢(よはい)四十六億年の星に存へて悪腫瘍など何のこれしき

子どもらが路地にて交す<さやうなら>春寒をこもる書斎にとどく

筑後の人菊池のかの人川渡るたびに人恋し鹿児島本線

休むなく晩酌をするを罪悪のごと言はれつつ義務のごと飲む

唐破風千鳥破風におのづから序破急ありて波うついらか

雛(ひな)を襲ふ狐とたたかふ白雁の翼が夜々の夢にはばたく

 

時代に翻弄されながらも挫けない母親像、四十六億年」の生命力を味方にして大病と向き合う自画像。なにげない言葉に立ち止まる細やかさ。人生のベテランならではの奥行きと軽みが楽しくも味わい深い。楠田さんは歌の仕事を共に担うことの多いわが兄貴分、これからも長く短歌を支えていただきたい。

三枝昂之


四六判上製カバー装 2500円•税別

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影山美智子歌集『秋月憧憬』

 

 

 

あしたまたと小さき別れ積み積みてひとはおほいなる別れのときくる

ひとり歩き叶はぬ夫の両脚を撫でつつ無心のわれに驚く

ことしのみみるらむ藤とおもひゐしか悲しみ抱けば藤はふくるる

ほうたるのひかりの強弱 風たてばなほひかりまし一生はあれと

聴ゆるし色いろ知りしはいつのこころなる夕焼けが闇に入る間をたたずむ

 

 

歌集一巻の底をひそやかに流れるものは、季の移ろい、そして生と死の時間。病苦の夫を看取り、末期の水をとり、二匹の鯉を形どった墓碑を作った。ひたむきな鎮魂の抒情は円熟しつつ、深く、かなしい彩を帯びる。

 

 

 四六版上製カバー装 2600円•税別

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國府田婦志子歌集『藍のつぶやき』

図書館に結城市史読めば戊辰の役に切腹せしとふ曾祖父の名あり

三日月橋を渡る夕ぐれわが顔に生き写しとふ祖母を思へり

生涯を紺屋に励みて貧しかり父の遺品の藍甕六つ

確かなる寝息たてつつわが腕に抱かれし日よ風のごと過ぎき

わが携帯に孫のアドレス書き込みて未知なる世界のまた一つ増ゆ

 

『緑花水源』『花千里』『絽の衿』の三歌集とそれ以後の作品から主に家族に関わる歌を選び抜粋収録。

 

四六版並製カバー装 1800円•税別

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小林敬枝歌『わたくしの水脈』

夫という同僚と今日を海におり青き時間を抱きしめていつ
健やかなその頃のこと高き塔建つを言いたり遠き眼をして
おそらくはわが生のかぎりつかうらん角の薬匙ははつかにひかる
東京湾沖航く船もゆったりと世紀を停めているかにみゆる
昭和ごと銀河の涯へゆきたるや消えし操車場の貨車 無蓋車よ
どのような過去があろうと水時計明日へ春の透く水流す

夫婦であり、薬局を営む同僚である夫という存在の発病、闘病、そして、その死。重い状況を詠みながらも、どこかあたたかくどこか清々しい空気が感じられる。


鈴木英子•解説より

四六判上製カバー装 2500円•税別

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梶田順子歌集『石礫』

石礫落つる勢ひ水の辺(べ)へまつしぐらなり冬のセキレイ
美(は)しきもの世に数多あれ乳与ふ娘ひかりの中にうつくし
秋鰹泳ぎてもどる海洋に核の毒ながすあはれこの国
痛みつつ想ひ遡る遙けくも命を生みしその朝のこと
 
私の身辺では老い、病、死が身近なものとなり、社会は閉塞感に満ちている。戦争と縁を切ったはずのこの国にまた、戦争に関わる気配が濃くなってきた。このような社会にいて自分はどのように生きるかという問いから逃れられない。短歌も無関係であることは出来ないという自分の思いが根底にありつつ、作歌においては出来る限り写実に則り、抒情を心がけてきた。(あとがきより)

 

四六版上製カバー装 2600円•税別

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川口紘明歌集『この身響らずは』

朝影を踏みて出でゆき夕影を踏みてぞ帰るこの身響(な)らずは

幼年の還らざれども噴泉はみづからのみづ浴びて飽かずも

わたつみの葡萄酒色に流るるをホメロス盲目のゆといふ説

あられもなき歎きもせむかはかなはかなおなじ身丈のこすもす抱きて

今われを済はむひかりいづべにぞ言葉は星の数ほどあれど

亡き人を見むうつし世の空としも澄むにはたづみ冬の夕べを

 

歌の根源には、詩という大きな宇宙があり、それを支える「空」があり、「海」があり、「砂丘」がある。この世の大極的なところを常に見ていたのである。

 

安森敏隆•跋文より

四六判上製カバー装 2500円•税込

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木島泉歌集『虫たちの宴』

猫の子を猫っ可愛がりしておれば命とはこんなに暖かいもの
危ないよ早くお行きと待っている山鳥親子が車道横切る
水に浮く月をごちやごちや掻き混まぜて水黽たちの響宴続く
耳奥の蝸牛が老いて聞き取れぬ言葉車窓の風さらいゆく
花びらのひとつひとつに書けるなら百万べんも寂しい寂しい
猫語にて何か訴うる孕み猫雨ほそぼそとしぶく夕暮れ
血より濃いこの赤が好き 一輪の椿咲くまで机に置きて


狐が走る羚羊が飛ぶ。梟が鳴く亀が歩く。蛍がひかる大きなトチカンジョが好物の栗の木を食う。そんな自然ゆたかな郡上大和で、猫語や子猫語を自在に聞き分けながら歌を詠む。歌の源郷に連れてゆかれたような、豊かな気持ちそして懐かしい思いを味合わせてくれる歌集である。                

佐佐木幸綱
四六判上製カバー装 2500円•税別

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加藤和子歌集『天球の春』

ほたる坂、われ人ともにみかはすそれぞれの眸に蛍やどして

蛇行せる川海ならず淡水の湖へとそそぐ面を伏せて

天上よりひかりを牽くか膚清く直き佇立に杉の木立は

逢ひたくば来よとふたより冬桜雪片ほどの儚さに咲く

天球の春まづしけれど蕗の薹ああわが血よりさやに息づく

 

「出来得れば、よろこびや希望、そして美しいものにめぐり逢いたい」(あとがき)という作者の思いが呼び込んでやまない世界は、雪のようでもあり、白鳥のようでもある。否、もっと根源への希求・・・。


四六判上製カバー装 2500円・税別

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春日いづみ歌集『八月の耳』

洗面器に水の輪生れて娘とわれの同心円にありにし時間
生れ月四月の雨は桜雨音なく降りて喉を濡らす
本日のわが寛容は何グラム銀の秤のしづかに揺れて
核汚染進む地球にみどりの葉こころのかたちの桂を植ゑむ
窓際にカットグラスを並べ置き天のひかりを育まむとす
 
いつしか歌が祈りのかたちとなっていく不思議さ、自在さ。
やわらかで、時には硬質の抒情をもって、何者かに刃向うように、
あるいはいたわるように迸り出る歌の大スクリーン。
鮮やかに一世界を抉り取る作歌世界!


四六判上製カバー装 2600円•税込

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梶原房恵歌集『桃の表情』

音もなく土に沈みてきさらぎを弥生へ渡す雨の明るし

畑に咲くさだめなき風ある時は花摘む吾のふところに入る

仕分けゆく桃の表情 木の下に壮年の姿(かげ)顕ちてくるなり

草ぐさの結実までの物語聞くごとく居る鎌を休めて

 

果樹園には桃の木々、

咲き競う花々は野を桃色に染め上げ、

やがて甘い香を放つ極上の果実となる。

桃への深い愛情が歌となって、

たっぷりとみずみずしい果汁を滴らせる。

 

A5版上製カバー装 2500円•税別

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菊川啓子歌集『青色青光』

童吹く草笛遥かヒマラヤの風にのりつつ大和へ届け

やまなみの高き所に鉄塔はもつともやさしく夕焼けてゐる

垂直のロープ掴めるわが手より冬の群青滴りやまず

遠景の焼却炉よりたちのぼる煙の色の今日はももいろ

あしびきの山の奥処に翁曳く桜の枝は芽ぶきはじむる

最後まで何もないのに何かある キャベツの快感皮剥かれつつ

 

青い色からは青い光。青のこころからは青の歌。青は師•前登志夫の風景の色。はるかシルクロード。天山山脈をおろがみ、遠く大和へ届けられる風。そこは仏教の聖地。生死もろともに悠久の時間とともに在る地。

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

 

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昭和9年生れ歌人叢書4『まほろばいづこ 戦中•戦後の狭間を生きて』

こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。

戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。

そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より

 

軍歌からラブソングへ         朝井恭子  

少年のころ              綾部剛   

灯火管制               綾部光芳

鶏の声                板橋登美

ニイタカヤマノボレ          江頭洋子

戦の後に               大芝貫

語り部                河村郁子

昭和二十年八月十五日         國府田婦志子

戦中•戦後の国民学校生         島田暉

空                  椙山良作

確かなるもの             竹内和世

村人                 中村キネ

太平洋戦争ー戦中•戦後         花田恒久

氷頭                 林宏匡

記憶たぐりて             東野典子

少年の日の断想            日野正美

宝の命                平山良明

空に海に               藤井治

戦中戦後               三浦てるよ

椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博

夏白昼夢               山野吾郎

生きた時代              結城文

ひまの実               四元仰

 
並製冊子版 2000円•税別
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小暮靖代歌集『風になる』

廃れゆく旧道沿いの和菓子屋に今年の春を購いて来つ

黄の色の極まりて咲く菜畑に吐息のように蝶湧きあがる

昨夜も居し蜘蛛が今宵も新聞に小さく居すわる句点となりて

 

一日の終りの儀式「オレの足」を探して二本あるを確かむ

もう一度土を踏みたい「オレの足」ベッドの傍に靴揃え置く

歩きたかった帰りたかった「オレの足」履き慣れし靴を棺に納む

 

これらの作品には、詠法とか、技術を問う以前の人間の心の叫びがある。

高橋良子 跋より

四六版並製カバー装 2000円•税別

 

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上遠野悌子 鈴木りえ歌集『相模野』

ゆけどゆけど会えぬ悲しみ露草の藍も小草も澄みゆく挽歌

ー過ぎゆき

 

ウィット、ユーモア、寓話性、ファンタジー。作者の比喩表現はいずれもモダンなエスプリに溢れている。作者はまことロマンのひとである。

 

 

ボルネオより復員なしし兵隊さん父と知らされ泣きし日の雨

ー歌の歩み

時代、社会、歴史のうねりと、私的家族生活とが重なる地点で歌われている。本書はいわば、そうした家族の戦中戦後史としての性格を持つ。

 

 

谷岡亜紀•解説より

四六判上製カバー装 1800円•税別

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北村芙沙子•中川禮子•結城文訳 ウィリアムIエリオット監修『茂吉のプリズム』

『赤光』Shakkō  Red Light

 

かがまりて見つつかなしもしみじみと水湧き()居れば砂うごくかな

crouching 

I observe the sand moving

as the water

springs up

feeling its sadness deeply

 

kagamarite

mitsutsu kanashi mo

shimijimi to

mizu waki ore ba

suna ugoku kana

 

 

死にしづむ火山のうへにわが母の乳汁(ちしる)の色のみづ見ゆるかな

in a volcano,

quiet as death,

I can see the water­

its color,

my mother’s breast

 

shi ni shizumu

kazan no ue ni

waga haha no

chishiru no iro no

mizu miyuru kana

 

四六判並製カバー装 2000円•税別

電子書籍版…1000円

 

title "Prism of Mokichi"

written by Mokichi Saito

translated by Kitamura FusaKo & Yuki Aya & Reiko Nakagawa & William Elliott

 

Mokichi Saito is the most famous tanka poet in Japan. 

He was born at 100 years ago, and he made the foundation of Japanese  modern tanka poetry. 

 

We have translated into English his first poem book.

 

2160yen

e-book…¥1000

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貝沼正子歌集『触覚』

もの言わぬ同僚との間合い計りつつわたしの触覚がのびる長月

代替案のないまま否定する女の触覚男には見えない

三軒を梯子のつもりがこの店のどぶろく私をどろどろにする

憎しみは丸めてみても飲み込めずポンと蹴ってもまた戻ってくる

完璧を目指さなければ楽になる仕事も家事も人の評価も

 

 

いっけん鋭利な刃物で切ると思えば、引いてしまう心の壁がおもしろい。

薬剤師という仕事柄、完璧を目指して落ち込むこともあるが、

女の触覚を伸ばし颯爽とした調べはここちよい。

光本恵子

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

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鎌田芳郎歌集『喜界島』

焼酎ににぎはふ夜はいつしかも三線が鳴り島唄が出る

見はるかす藍青の海いらだちて島の春野は風鳴るばかり

この子らに父はをるなり父をらぬ家に育ちしこの子らの父

一天に雲なき夏の日の下に貧しき畑に芋を堀りにき

特攻兵散りたる海の夕空に星を招きて阿檀の葉ゆらぐ

振りかへる人もなからん道ばたの大根の花あはきむらさき

 

鎌田さんにとって喜界島とは文字通り「喜びの世界」なのである。

読者は『喜界島』を詠みながら、自分自身のふるさとについても思いを寄せられるであろう。 伊藤一彦•序より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

 

 

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小林三重子歌集『ブーケ』

幼き日母が名付けし「星の花」ゆらりゆらりと群がり咲くよ

目の前に光の武者が迫り来るねぶた祭りに我も跳ねたり

 

ご家族に恵まれた安定した人生の中で、旅とオペラ鑑賞が、歌集『ブーケ』にきらきらとした人生の華やぎをくわえている。

そのことを喜びつつ、この優しい歌の花束が多くの読者に手渡される事を願いたい

谷岡亜紀•解説より

 

A5版上製カバー装 2150円•税込

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金丸玉貴歌集『夜叉神峠』

独りたつ夜叉神峠は深閑と雲海のかなたに浮く富士の嶺

とめどなくふぶき散りいる桜花ひとひらひとひら億の孤独よ

幻聴か今も鳴りいるかざぐるまわれの脳裏に風の父あり

いとまなきこの世の憂さを笑うがに真昼の月が中天にある

 

日常に於けるさまざまな哀歓や自然を詠っても

執拗なまでに自己を凝視しており、作品はそこはかとなく

寂しげな影を湛えながらも読者に迫ってくる。

林田恒浩•跋文より

 

四六版上製カバー装 2625円•税込

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海沼志那子歌集『雪を踏む』

踏む雪はヒールの足を滑らせてひとりを想ふ心ゆるがす

風と雪身をさいなみて旅心はかなくなりぬ大石田の町

苗木より育てし白樺この夏はうす紫の蝶まとはせる

まなこ閉じ思ひ出せぬをくやしがる母よ母よ波打ち寄せる

 

亡き母への追慕、先立っていた同胞への敬虔な祈り。

旅の歌、人間の歌、草花の歌、すべてが作者の生のあかしだ。

老いは歌の世界に滋味と深みとをおのずから孕ませる!

 

46版上製カバー装 2100円•税込

 

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久我田鶴子歌集『雨を見上げる』

降り出した雨を見上げる。

薄暗い空の向こうには、きっと美しい虹。

老いた父を通して一世界まで看取った純なる嬰児の眼差しをもって、おおいなる先師•香川進の詩歌のまことをここに歌い継ぐ!

 

たまたまのめぐりあはせもえにしにて地中海わが漕ぎわたる海

草いきれ海鳴り稲田を渡る風かなたにありてわれを呼ばへる

樹のもとに斧置き去られ こともなく春の日はゆく午後の二時すぎ

かるがると抱きあげられたるちちのみの父に青葉のほととぎす啼く

もう父はひかりを食べているのだろう仰向けるまま口を動かし

 

四六版上製カバー装 2730円•税込


 

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木村文子歌集『予祝』

やがてくる冬への予祝身をもって地をきんいろに染めゆく公孫樹

うつ伏して眠る身近く置きし手はかすかに放つ鉛筆の香を

異形なる子ら抱きしめて木のごとく我はありたし幾百年も

シャツのすそ出ている君の肩越しに今年最初の入道雲みる

雪の日は毛糸の帽子に守られて少し小さな母が歩み来

 

A5半上製カバー装•2625円税込

 

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加賀谷実歌集『海の揺籃』

黒々と濡れて競り待つしじみ貝幼きものが手を結びいる

ゆるやかに死後硬直に移りゆく白鱚を青き光が包む

鮟鱇の口中深く絶命の軽鴨汝は何を違えし

月照らす男鹿の断崖手を当てて眼閉ずれば侏羅の海鳴

 

大鱈、間八、白鱚、鮟鱇、鮪、鰤。

港に水揚げされた魚が歌われている。どの歌にも競り場のプロならではの確かな眼と心が働いている。

そして、プロは魚に対すしてかくも愛情を抱いているのだなぁと改めて教えられる。 伊藤一彦•跋文より

 

A5版上製カバー装丁 2,835円•税込

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紺谷志一歌集『妻の文箱』

わが娘とは惚けてわからぬ妻の掌に新任の名刺を握らせている

妻の死が真近と予告されたけど介護用ゴム手袋三箱買ひ足す

亡き妻の紅の文箱にしまひあり義兄の名が載る戦死公報

 

北原白秋の「多磨」から出発した著者は、戦前戦後の長きにわたって一貫して白秋の系譜を歩み続けてきた。戦争詠、そして最愛の妻に寄せる作品には情感がこめられ、人間愛にあふれる。(林田恒浩帯文より)

46版上製カバー装 2520円•税込

 

 

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栗原佐智子歌集『反映の画廊』

コッペパン一つ齧りてフランスの美に憧憬れしわれもジョナサン

平成の危うき空に旅立てる『ロストターン』よ 我らも共に

他者とわれ短き一世の反映を小さき画廊にかかぐるわが短歌

 

A5版上製 2835円•税込

 

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河野文子歌集『花の杖』

  この土地に梅柿植えて年々を梅柿たずね笑い合いたり

  老いるとは敗北ならず青空の下の歩行を友よ試みん

  ほろほろと画心湧けりすかし百合ささ百合描きて寂しさを消す

四六版並製カバー装 1700円•税込

 

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