川瀬千枝歌集『山上の海』

山上にとほく海ありまぶしみてゆかむとおもふけふのこころは

にはとりは大き掌にぬくもりて静かにいのち預けをりたり

夫のなき憂ひしづめて降り立てる飛騨一国は白銀を刷く

平坦な冬の地表に手を垂れていま渾身にひかり浴びゐる

つつがなく御座すわが師を囲みゐて時に野草にはなし及びぬ

 

川瀬さんは、後藤短歌を最もいいかたちで継承した一人であろう。やや遅い出発ではあったが、彼女のテーマである自然への畏敬、人間存在の悲しみが、年齢を重ねた視線を通してしずかに伝わる一巻である。

大原葉子・跋より

 

四六版上製カバー装 2400円・税込