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塩のごと微かな音に風立ちてこの構内に押し寄せるもの
風は立ち上がるように存在感を形成し、構内に押し寄せて来るのだ。第二、第三の波も次に控えている。鋭い感性は必要条件に過ぎず、完成でとらえたものを抽象的な思弁へと昇華させた歌だ。
小塩卓哉・解説より
風の字が部屋の隅にて風になる娘が書きし半紙ひとひら
灼熱の舗道の上を飛蝗が歩む何かきつと麻痺してゐる
陽がさあつと枯葉の径に差し入りてかの日がわれを攫つてゆきぬ
目が合ふと鴉の方から目を逸らすかなしきものがむくむくと兆す
水切りの撥ねあと引きて消えてゆく石を湖底はしづかに受け取る
四六版上製カバー装 2600円・税別