小林敬枝歌『わたくしの水脈』

夫という同僚と今日を海におり青き時間を抱きしめていつ
健やかなその頃のこと高き塔建つを言いたり遠き眼をして
おそらくはわが生のかぎりつかうらん角の薬匙ははつかにひかる
東京湾沖航く船もゆったりと世紀を停めているかにみゆる
昭和ごと銀河の涯へゆきたるや消えし操車場の貨車 無蓋車よ
どのような過去があろうと水時計明日へ春の透く水流す

夫婦であり、薬局を営む同僚である夫という存在の発病、闘病、そして、その死。重い状況を詠みながらも、どこかあたたかくどこか清々しい空気が感じられる。


鈴木英子•解説より

四六判上製カバー装 2500円•税別