白井美沙子歌集『クロッカスの庭』

第二歌集。

 

いつせいに黄のクロッカス花開きははなき実家(さと)の庭に春来る

 

黄色いクロッカスの花が咲き始めている。

誰もいないこの家の庭に春が来た。

その静かな華やぎの中に歌のしらべが自然と寄り添う。

いのちのほんとうの形を思い起こせとばかりに、やさいく。

 

いのちに向き合うやさしさに満ちた第二歌集

 

 

 

 

本箱のうしろのすき間に落ちし額もう永久に会へぬ気がする

 

きさらぎのバケツに張りし薄氷をすくひて母のてのひらにのす

 

雲の上(へ)にくつきり映るふらここの影がゆるるよ誰もをらぬに

 

母逝きて空家となりし実家(さと)なれど郵便受けに夕日来てゐる

 

ひば伐れば椿の木にも陽のとどきうす桃色の花の咲きつぐ