大竹蓉子歌集『花鏡之記』

思はざる嘆き押しくる世にあれど花は無心に爛漫の春

疾風吹く平久保岬春くれば薊の花に虹色の昆虫

あらざらむことと思ふにある奇遇月は萬象の眼に宿る

自生地の尖閣に咲くうるはしき紅頭翡翠蘭夢に顕つ

花を観る花に問はるるひたごころその行くかたや花野

惻陰の心ごころに守られて来たる歳月 金環日食

 

無心に咲く花々の色香にあふれる個性•神秘的な生殖の営みには、

いっそう畏敬の念が深まります。

それらは人生の青春の美しさに等しく眩しくもあり、廃れゆく過程に見る老残の美も蓋し見逃すことができません。

すべからく人もまた老境の心理によって、美醜いずれかに傾くか、との思惟に至ります。(あとがきより)

 

A5判上製カバー装 2625円•税込