佐藤晶歌集『冬の秒針』

風すこし潤うころに思いおり安徳天皇女性説のこと

亡骸が緑の玉になるという漢詩読みおり吉野ゆうぐれ

木琴の音の澄みゆく秋がきてわれのさびしさコンと鳴らせり

ホームレス「ヨハネ」という名を与えられ葬られたり街の教会

自分ではないだれかのためにある世界コンビニスイーツ犬と分けあう

ハイデッガーの〈存在〉語るきみのシャツは栄螺の内蔵みたいなしましま


 

中世の物語や伝承から喚起された豊かな世界と、

今という時代に対する鋭い批評性。

それらが実は、ひりひりするような危機的な自意識で繋がっている。

 

 

四六判上製カバー装 2625円•税込