小黒世茂歌集『やつとこどつこ』

石を抱く木の根の恋をおもひてはくをんくをんと裏山は泣く

八月の真夜にしやがめば亡母ゐて壷は最後のひとり部屋といふ

涙目のごとく湖冷ゆ うた一首を成仏させれば虹に青濃し

びいいーんと夜気すみわたり大峰の月は謀反のやうにあかるし

ビニールの疑似餌に掛かる真鯛にてやつとこどつこで引きあげし祖父

 

日本人のこころの深層に迫ろうと、古代幻視の旅を続ける。

うたとは、そんな風土との言問いと鎮魂のなかで自ずから生まれる。時として呪文のごとく、あるいは哄笑のごとく。そして聖なる語り部のごとく。

 

46判上製カバー装 2625円•税込