若葉にも似る輝きを母われに与えて少年己は知らず
てのひらに木の芽をひろげポンと打つ遠く住む子に聞こえるやうに
ゆくりなく出会ひて夫となりし君の言葉は或日のわれのこえかも
美しき言葉を話す人にあれとまづ言ひましき嫁となるわれに
老いの果てのしばしを霧の晴るるごと母に確かなることば戻り来
ままならぬ一生もよろしと九十二歳の母が今年の桜を仰ぐ
西伊豆の風土を詠んだ歌、
また初期の思春期の子をもつ母親の心情を詠む歌など、
佳品も少なくない。屈折した子の心に寄りそうような
母親の姿が、そのまま現在の著者に重なり
私にはインショウぶかいものだった。
温井松代•序より
46判上製カバー装 2625円•税込