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くぼたかずこ歌集『お気に召すまま召されるままに』

わたくしも老舗の歳になりました分けてあげましょ一年二年

唐紅

 

人生の交叉点ですこの店はアラフォー女子にみたびの恋か

薄桜

 

しゃがすみれたんぽぽすいせんはなだいこんこぶしは白く友よさよなら

薄桜

 

ゼラニウム。秋、冬、春、夏、また一年。ツバメの街に日々は過ぎゆく

杜若

 

 

とんとんとん。

時をのぼりおりし、日々を彩るうたがここにある。

友を送るうた、母のうた、酒場のうた、

心を尽くすうた・・・。

ドキュメント短歌380首。

 

四六版並製カバー装 1500円・税別


萩岡良博歌集『周老王』

 

雪の森に雪けむり立つきらきらと時間はときに見ゆることあり

 

もみづる日をみなご生まるたまきはるくらきうつつのあかりとなれよ

 

しづくして虹消えはてし宇陀の野の伝承ひとつ緑青を噴く

 

譫妄の父泣き語る戦ひの空をほととぎす啼きてわたれり

 

いくたびも問ふ森に問ふいくたびも霧に洗はれもみぢするため

 

母は沼おぼろおぼろと深みゆきてぬきさしならぬまでにいとほし 

 

 

たしかに聴こえる。

大和宇陀の野や山から、ひそかに伝わってくる古代歌謡のひびき。

古代のまぼろしが時として日常の中に紛れ込みながら、骨太い詩魂を形成した。

 

いったい、家族とは何か、同胞とは何か、世界とは何か。

 

 

A5版上製カバー装 2500円・税別


鹿取未放歌集『かもめ』

 

受胎告ぐるどの天使も羽たくましくひざまづくとは支配に似たり

締め切り日は〈世界終末〉の後にありテーブルのうへに卵が一つ

プログラミングされをるのみにてケータイに〈夜更かしでね〉と囁かれをり  

学会に行きて戻りてさらに行く子に見えない()()をただ振つてゐる

タンパク質ファミリーの図を見てあれば賑やかにして邃し身体

A、C、G、T A、C、G、T かもめはかもめ空があをいよ

 

言葉の連鎖は命の連鎖。

豊穣にして切っ先の鋭い言葉と言葉の相剋。

心たゆたい、屈折しつつ歌の曠野に一人称の影を落とす。

 

ゆっくりとほどかれていく魂の痛ましさの声を聴く。


辻尾修歌集『海を見ながら』

十一時二分を知らする何もなき船旅にゐて両眼を(つむ)

月に一度島に教へに来てくれるピアノ教師を釣りでもてなす

人文字に分校の子ら足らざれば親もまじりて航空写真撮る

バナナ売らぬ土地日本になけれども越してゆきたる二歳に送る

シスターの運転で来しシスターは手土産持ちて眼科に入りぬ

一万六千人の冥福祈るサイレンが一万五千人のわが町に鳴る

 

 

 

事柄の大小を問はず、相手に近いところまですつと心を寄せることが出来る。このことは想像力と関係するのだらうが、辻󠄀尾さんが歌を作る上で、共感性の強さが大きな力になつてゐることは間違ひない。

馬場昭徳解説より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 


国定里子歌集『各務原』

公園の桜の大樹五十年けものめく幹につぼみあふれつ

農をせし彼の日の麦を疎み来て弥生の店の麦の穂いとし

梅雨曇り俄の照りに白昼のわが身の影は足元にあり

英国など早く侵略し公然とひと迫ひはらひ国を盗みき

西瓜食み黒き種のみ判別すその様にして詐欺の解れば

 

国定里子さんの歌は独特だ。

多くは生活周辺の嘱目であるが何を歌っても歯切れがいい。

省略の文学であることを心得ているからであろう。

近現代の秀歌をなぞるような傾向は何処にもない。影響を拒否しながら作歌する強靭な姿勢とともに純朴な美しさがある。

島崎榮一

四六版上製カバー装 2300円・税別

 

 


石垣蔦紅『青き地平線』

老いの日は日日是好日老いの夜も愉快なりけり夢また楽し

 

めぐり合いとは愛すること。

この地上、何一つさえぎりもののない地平線のおおらかな青。

二人いっしょに老いの日々を温かく支えながら歌う。ハワイ在住歌人の試みる短歌とTANKAの世界。

 


oh,how I wish
I could melt
into the blue horizon,
drawing up my forehead
to the airplane window

(このままに青き地平線に溶け込みてゆきたし機窓に額寄せつつ)

 

四六版並製 2000円・税別


畑彩子歌集『虫の神様』

あかときに蜩鳴けり ふるさとは大き緑の虫篭なれば

海沿いの墓地へとつづく坂道を大潮坂と祖父のみ呼びき

山手線乗って降りればあとかたもなく新宿は消え果にけり

青空を三日見ないと死ぬという息子よ今日はくもりのち晴れ

「はる」という詩の音読を繰り返す次男の声が食卓照らす

 

文字通りの知力、胆力に長けた著者の久しぶりの第三歌集。Ⅰ部は出産や育児が主題だが、対象への距離を保って客観的な軽快感がある。Ⅱ部、Ⅲ部では虫のような小さな生命へのつよい思い入れをみせ、また身近な人々との交歓を通して自ずと自覚されてゆく生の時間との葛藤もあって、文学を志した日の青春性の回復がはかられてゆく。

かつても生半可な苦悩などはいわなかっつた著者の、ひとつの転機をはらむ頼もしい歌集といえよう。

馬場あき子・帯文より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


服部崇歌集『ドードー鳥の骨』

サンマルタン運河は夏のきらめきを注ぎて白き船を持ち上ぐ

笛吹きが笛吹かずしてふふふふとわらひをさそふパリの祭日

二年目のパリの夜なれば驚かず青き火を噴くエッフェル塔よ

 

 パリ同時多発テロの時期を含む3年間の官僚としてのパリ生活の中から生まれた340首。定住というには短く、旅行にしては長い3年という時間ならではの貪欲な取材がスリリングである。描かれた風景の輪郭はあくまでもクリアであり、表現された事物の動きが徹してシャープなのは、パリ独特の乾いた空気を味方につけた作者の手腕であろう。

                        佐佐木幸綱

 

 

左岸より右岸にわたり右岸より左岸にもどるビルアケム橋

シテ島にあたまのあかい鸚鵡ゐて君との日々を吾に語らしむ

ふちなしの眼鏡に顔を挿げ替へて硝子のパリのパサージュに入る

行きつけのカフェの給仕と初めての握手を交はすテロの翌朝

フランスの最後の晩餐友とゐて何度もなんども灯りの消える

 

四六版上製函入 2500円・税別


浅田隆弘歌集『四季の譜』

ひとひらの蓮の花びら水に散りうすくれなゐの小舟となりき

朝まだき人影のなき園内の回転木馬みな宙に浮く

木もれ日のなかをわが影歩みをり我をはなれし人のごとくに

雪の上に赤き椿の一弁が命あるかに輝きてあり

 

何ものにもしばられることなく、気ままに自分の思うままに感じたままに短歌作りに励んでいます。作品の出来不出来は別にして、短歌を作る過程が楽しみです。夢中になって自分の描きたいことをいかに表現したらよいのか、推敲をかさねることは苦しいけれども楽しいことでもあります。           ――あとがきより

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


田土才恵歌集『風のことづて』

人から人へ、親から子へ、孫へ

風がささやきかけるように

伝えたい思いがある、伝えたい歌がある。

 

そっと耳をすませば言葉はいのちあふれる涌井の

ようだ。

 

 

なにがなし時計いくつもならべいていずこにあらんわれのみの時

湯たんぽに湯の音とぷとぷ階上る今日の終わりの足音立てて

もの書けばたちまちペンを貸せといい意志見せはじむ一歳の春

ケアハウスの窓ひそやかに開けられて春愁ひとつ今とき放つ

風となり水とはなりてめぐりつついのちのほむら若葉縫いゆく

 

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

渡邉千恵歌集『神帰月』

 

白妙の雪纏いたる里山に昔ありけり竈の煙

ひと処ひたくれないに匂い顕つ田の畦過ぎてまた曼珠沙華

 時雨きて樹樹のもみじの深みたる篠脇山荘屋根の葺き替え

もののふの風雅つらつら敷島の道を照らして古今伝授は

舞うほどに花さんさんと山里に歌の心の配らるる宵

ちり敷ける桜絨毯ふみ急ぐ昼餉ま近き穀雨の道を

聳え立つ<(かみ)(かえり)(すぎ)>ゆさゆさと七百年の静かなる呼吸

 

 

雪の里山にしずかに立ちのぼる昔の煙。こちらの田の畦に、あちらの田の畦に、かがやくように群れ咲く曼珠沙華。岐阜県の郡上大和は、東常縁の古今伝授の里として文化的な面で知られているが、長良川沿いの自然豊かな地でもある。そんな郡上大和の文化と自然を、渡辺千恵さんが、ぞんぶんに自在にうたいあげた一冊である。佐佐木幸綱

 

四六版上製カバー装 2600円・税別

 


澤村孝夫歌集『山峡』

昔から山の中野代名詞と言われた僻地の自然を友とし、

過酷な洗礼を受けつつ楢山に落葉を攫い、稲や麦や蕎麦を作り、秋の田に十段もの高い稲架を組み、牛を飼い、杉や桧の枝打ちをし、猪と共存する生活の中から生まれた厳しくも美しい歌集。

 

蜩のひとつ啼きしが忽ちにひろがりゆきて峡明けんとす

弧を描き鳶は舞いいん声のみに足りて山深く桧枝打つ

山始めの神事を見んと従ききたる幼一様に顔を正せり
十段の稲架いつまでを結い得るや太き組み木を解きつつ思う

朝々をきりり締めゆく亡き妻の縫い置きくれし細き山帯

 

A5版上製カバー装 2600円・税別

 


若松喜子歌集『砂嘴のソクラテス』

空翔けるテレビドラマの歌うたい子は大股に角を曲がって

忌のあした天がけるごと霧ながれ歌のことばとならず消えたり

青鷺が静止画像のごとたてり砂嘴のソクラテスとひそかに名付く

水草の根に潜りたる目高たちわが水播けば水の輪にくる

波除け石ひとつひとつに刻まるる名前のありて入江囲める

 

 

ひたむきに歌と真向かう。

歌がひそかに息づき始める。こんなにも豊かで、変化してゆく日常世界。

 

「短歌を創ることは、生きることはを、自分自身に問うこと」という先師・香川進の言葉を反芻しつつ、あるがままの自らの感性に歌を寄り添わせて詠み続ける。

 

四六版上製カバー装 2600円・税別

加藤走歌集『風よ、ここに』

塩のごと微かな音に風立ちてこの構内に押し寄せるもの

 

風は立ち上がるように存在感を形成し、構内に押し寄せて来るのだ。第二、第三の波も次に控えている。鋭い感性は必要条件に過ぎず、完成でとらえたものを抽象的な思弁へと昇華させた歌だ。

小塩卓哉・解説より

 

風の字が部屋の隅にて風になる娘が書きし半紙ひとひら

灼熱の舗道の上を飛蝗が歩む何かきつと麻痺してゐる

 

陽がさあつと枯葉の径に差し入りてかの日がわれを攫つてゆきぬ

目が合ふと鴉の方から目を逸らすかなしきものがむくむくと兆す

水切りの撥ねあと引きて消えてゆく石を湖底はしづかに受け取る

 

四六版上製カバー装 2600円・税別

 

 


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伊良部喜代子歌集『夏至南風』

 

南風(はえ)に吹かれ女身籠るそのむかし風の父待つ美(うま)し児いたり

戦わず勝たず敗れず生き来しを責むるが如き今日の夕映え
しらしらと明るき冥府あるというわが生れし島の真砂に
何もかも押し流しゆく大津波 かりそめの世の真実のこと
死者は青き海底(むゆう)に行くとぞ海底を抜けまた人の世に生まれ来るとぞ
産土は沖縄、移り住んだみちのく仙台。今なお残る戦争の傷跡、そして震災の悲惨。もはや私の中から何かが抜け出してしまったのか。
自らの魂の在り処を探し取り戻すために。
歌の霊異を信じながら歌う。
四六版上製カバー装 2500円・税別

野田恵美子歌集『風のあしあと』

潮騒のごとき囀りつばくろの葦の塒に吸はれて止みぬ

離れ住む母の買物携帯に訊きつつ選ぶ秋のブラウス

潮風に吹き寄せらるる花のごとかもめ群れゐる知多の渚に

胸底の埋め火かもとシクラメン夕べの窓に緋の色震ふ

氷の色の蒼空映る湖にかそかなさざ波水鳥の影

安らかに笑む母の面苦行より解き放されし尼僧のごとく

 

鳥に関わる知識と情愛が実に深く、鳥をモチーフにした作品が主流になっています。繊細でナイーブな歌は作者の人柄と相通じるものがあり、純粋な思いが伝わってきます。(青木陽子・帯文)

 

A5版上製カバー装丁 2600円税別


五十嵐順子『奇跡の木』

奇跡の木(Survivor Tree)と呼ばれ一本の梨の木残る 証言者として

 

グラウンド・ゼロの復旧作業中に瓦礫の中から発見されたこの梨の木は、当初深刻なダメージを受けていたということですが、手厚い手当をされてよみがえり、大きく枝葉を伸ばしていました。人生の困難に直面したとき、この梨の木の幹の手触りを思い出し、支えとしたいという思いもあります。

                  〈あとがきより〉

 

みどりごのしゃっくり見んと若き父母その親たちが取り囲みいつ

うす青くパレスチナ暫定自治区見ゆただ静かなる対岸として

畑から冬瓜を抱いてくるときにこっそり夫は笑っていたか

子に負われ捨てられにくることもよし黄葉の峠越えつつ思う

くりかえす「あなたは私の雨」という手紙のことば幾度も胸に

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 


前川多美江歌集『水よ輝け』

朝空の光あつめて直立す原爆落下中心地の碑

花をくぐり竹山広に会いに来ぬつくづく死者は声あらぬ人

七十年後のこの生徒らを思いみる献水桶の水よ輝け

観覧車あけゆく空にゴンドラの鋼の滴吊りさげており

お母さんと呼ばれていたら一回り大きな傘を持ったであろう

 

これまでの三冊の歌集を通して、反戦・反核の思ひ、そして早世した子への鎮魂の思ひは前川多美江さんの短歌の底を流れるものとしてあつた。そのことは今度の歌集においても変わらない。一生をかけて詠み続けるテーマを自らに課すことの大切さをこの歌集は教えてくれる。(馬場昭徳・帯文)

 

A5版上製カバー装 2600円・税別


麻生千鶴子歌集『白い道』

絵の題は「水のほとり」と記したりいつか住みたし水のほとりに
船の荷を解けばかさりと音のして旅順の丘に摘みし吾亦紅
葉桜の影濃くなれる曲がり角かの日の花は白く咲きいし
駅までは行かずはづれの踏切に人を送りき初夏のこと
零したる水を掬ひしおろかさもなべてさむ八十四歳
確認しておきたいのは、麻生さんの作品の基本的なトーンが常に前向きな姿勢にあるといふことだ。これは何も麻生さんがらくらくと人生を過ごしてこられたからではない。当然、様々な困難を抱へながら生きてこられたはずである。
しかし詩に対するときの選択として、明るい面から切り取りたいといふ姿勢がこれらの作品を作らせてきたのである。改めて、その姿勢の尊さを思つてゐるところである。
馬場昭徳(解説より)
四六版上製カバー装 2500円・税別

 

 


松平修文歌集『トゥオネラ』

窓外は暮れ、青炎のごと燃ゆる薔薇幾つ風に揺れてくづれて
誰も信じるな、何も信じるな 冬森で茸をさがす老婆のやうに
樹や草の役多き劇 少年も少女も人間の役やりたがる
日暮らし雨は男待つ日の陰雨(ながあめ)で、尿雨(ゆまりあめ)は男見限る日の俄雨(にわかあめ)
夜空の果ての果ての天体(ほし)より来しといふ少女の陰(ほと)は草の香ぞする
歌集『水村』が、雁書館から刊行されたのは一九七九年九月。
『水村』に寄せる冨士田元彦社主の期待は並大抵ではなかった。
一升瓶をしつらえ冨士田さんを待たせながら、
解説を書き上げた夜のことなどが懐かしく思い出される。
・・・・・とまれ、第五歌集『トゥオネラ』四百八十五首掉尾を前に、「窓外は暮れ、」の一首が燃えながら立つ。(福島泰樹・栞より)
四六版上製カバー装 2600円・税別

 


篠田和香子歌集『雪の記憶』

その中に苦悶を溜めてゐるごとき鈍き音させ今し雪落つ

なまはげの面を付けたる瞬間に若者ふつと大きくなりぬ

目を伏せる花嫁の切手に消印は触るるごとくに押されてゐたり

江戸切子の青きグラスにさをさをと注げば酒の自づから冷ゆ

しなやかな腰に継ぎ足す竿竹の大きく撓ひて夜が明るし

 

秋田県大曲に生まれ育った篠田和香子さんに雪の歌が多いのは当然であろう。本書のタイトルも「雪の記憶」である。

雪の夜に生まれしゆゑの記憶ならむ遥かに聴こゆ雪の降る音

歌われているように雪の夜に生まれ、そのことを自分の原体験として大切にしている。

伊藤一彦・跋より

 

四六版上製カバー装 2600円・税別


宮本清歌集『いとちゃんの息子』

風 寒し。エレベーターの工場の実験棟はただひとつ立つ

 

寒風に曝され「ただひとつ立つ」実験棟は作者自身なのだ。

自身の孤の姿をそこに重ねているのだと。

人が人として生きることの孤独、寂寥、苦さが本集のベースにある。

平林静代・跋より

 

「おれの場所」の文字残されぬ。今しがた中学生のいた橋の下に

八日目を生き抜く者もありぬべし。病院帰りに聞く 蝉しぐれ

利根川を快速電車がわたるとき、鴉の群れも共に渡りぬ

「いとちゃんの息子」と呼ばれ、「いとちゃんの息子」であったとつくづく思う

国と国の争いの種 またひとつ、芽生えて揺らぐ。島国日本

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


岩尾淳子歌集『岸』

校舎から小さく見える朝の海からっぽの男の子たち、おはよう
ほんのりと火星の寄せてくる夕べちりめんじゃこをサラダに降らす
あんまり思い出したくないんだ戦争は、血を噴きそうな先生の喉
とけそうな中洲の緑にこの世しか知るはずもない水どりの群れ
絡みつく猫を日暮れに押しのけて立ちたるままに冷酒をそそぐ


握りしめれば手のひらから消えてしまう三十一音。
短い歌が遠い鈴の音のようにこころに響く。
歌を詠む人がいて、その歌を読む人がいる。
そこに伝わるほのかな温もり。
歌集を編みながらそんなことを思った。(あとがきより)
四六版上製カバー装 2500円・税別

御供平佶全四歌集

収録歌集

『河岸段丘』『車站』『冬の稲妻』『神流川』

戦後四十年を日本に存在して昭和とともに消え去った「鉄道公安」を、私が経験した後半の二十年を区切の既刊歌集四冊の作品全体を見直して、ひとまとめにしたものがこの一冊である。

 

『車站』

 ぴりぴりとわが青ざむる顔をすぎ彼の視線は鞄に坐る  
 バッグ割る指の見えし瞬間の充実の感替ふる何がある

 超越を心に重く年の過ぐ美学のくだり超えよわがうた

 

3000円・税別

 


藤岡眞佐子歌集『思愁期』

思春期は遙かにすぎて今思愁期老いには老いの反抗期あり

霧にうかぶ清しき桜の内らより身を投げ入れよと声の聞こえる

赦されて無限を昇りゆけるもの鳩のむくろの胸厚かりき

在るという痛みに耐えるものたちよ人間も樹も洞をもつもの

がっちゃんとこの日常に鍵かけて森に向かって歩みいだせり 

 

いったい、人はどこから来て、どこへ往こうとしているのか。そんな問いかけが、つねに歌の根底に横たわっている。春の逃げ水のむこうの彼岸を想像したり、桜の中から声が聴こえてきたり、鰭をもって大海原を泳ぎ、側溝を流れる木の葉に載せてと懇願する。こうした虚の空間へと入っていくことのできる無心さこそが、藤岡さんの歌の魅力である。

喜多弘樹・解説にかえてより

 

2500円・税別

  


青き実のピラカンサ

小鳥屋のことりの声が聞きたくてプラットフォームの端つこに立つ
半桶(はんぎり)の飯に合はせ酢かけゆけば待ちゐし団扇三つがあふぐ
「高砂」の掛け軸が好きなをさなごは先づ指さしぬ翁の方を
スポイトに与ふるは水、やはらかき水、犬は五滴のみづを飲みたり
どうしてもザリガニ釣れぬ子がひとり煮干しの下に重りを結はふ
裂き織りに義母のもんぺを織り込みぬ朱色の布もときには入れて

日常のささやかな情景のなかに、過ぎ去った記憶のなかに掬いだす、あたたかな詩情ー。

人びとや自然と交感するやわらかな心が紡いだ歌は、誰もが抱えているかなしみをゆっくりと癒し、やがて未来への架橋となるだろう。
四六版上製カバー装 2500円・税別

田村広志著『岩田正の歌』

「文学は手作り」という岩田正の一貫した思想と生き方、そして歌ー。

あまたのカロンと歌集をひもとき、ともに歩んで来た長い道のりを顧みながら、その味わい深い歌の世界に分け入ってゆく。

 

 

私にとってこの本は立ち直るための大切な一冊である。

歌に関わり始めたときから先生と呼んできた。その岩田正のことをボチボチと書き継いだのがこの一冊である。

これは私自身のために私に書いた本なのである。書き継ぐことによって、私自身が療養の鬱陶しさから幾分立ち直れたのだった。   あとがきより

 

 

四六版並製カバー装 2500円・税別


加藤和子歌集『朝のメール』

黄に圧され黄に放たれて歩みたりひと日曇れる黄葉渓谷

石の家に降りゆく雪の淋しさを思えり朝のメールを閉ざす

イギリスの老女のようにカーテンの間からまた庭を見ている

昔むかし蝉の鳴かない年があり並木は暗渠に変わっていった

怒ったり淋しがったり日常の続きの中に人は亡きかも

 

先師・高安国世の歌ごころを受け止め、身めぐりの風物や人物をつつましく歌い継ぐ。平明なしらべにたしかな言葉の年輪を重ね、いよいよ作歌世界は地味と深まりを見せ始める。

 

四六版上製カバー装 2400円・税別


南輝子歌集『War is over 百首』

悲しみをかなしみつづける父がゐる南十字星の心臓のあたり

「もしやもしや」

 

夜ひらくササン朝ペルシアの古星図は露にしめりて吸ひついてくる

「南十字星」

 

青空をめまひするまで仰ぎゐてこころ躓く青あをすぎる

「青空」

二黒土星(きのえ)(さる)歳昭和十九年われ月下に生れき月びかりさせて

「塚本邦雄の青春」

 

ムルソーの太陽はとつくにない 闇は濾過しても闇ゆすつても闇

PUNK ROCKER

 

私も、両親が戦争体験を抱えた世代である。おりにつけ聞かされた逸話から、著者や私自身がこの世に生まれた事の希有さを思い知る。平和を相続していくことも、幾多の困難を克服せねばならないのか?そのことに対する感慨を、南輝子は100の歌にして問いかけている。 塚本靑史・帯文より

 

 四六版上製カバー装 2500円・税別


大谷ゆかり歌集『ホライズン』

夜なべする君へうどんの満月が傾かぬようゆっくり運ぶ

鉛筆と定規の似合う雨の朝ななめななめに線生まれくる

目の奥にムラサキウニの鳴くような偏頭痛せり今日は満月

父母の言葉もこもこ着せられて蓑虫となる実家の茶の間

つるつるとしたもの多き世の中に桃は貴重な手ざわりをもつ

百を越すCAD起ち上がり自販機の開発室が息づきはじむ

 

ことさらドラマチックに作られているわけではないのだが、それぞれの歌の中にドラマがある。心安らぐ温かなドラマだ。登場人物が歌の中でイキイキと動いている点も、いい。

(藤島秀憲 帯より)

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


鈴木直子歌集『流れる雲』

どっこいしょと立ち上がる私よいしょと腰かける夫老いづく二人

 

晴れの日も雨の日も風の日も、いつも傍にいて共に歌を作り、病む日はその全てを支え合う。安らかならざる老いを肯い、〈どっこいしょ〉〈よいしょ〉と声を揃える、この究極の愛の姿は、『流れる雲』に溢れる愛と祈りそのものである。

佐藤孝子・序より

 

 

かなしきほどに小さき衣の干されけり一つの命()れしこの家

姑のしがらみより抜けねばと紅うすく引きて(あした)の庭を清むる

古稀過ぎて着けたる義肢は重くして幼のごとき歩みになりぬ

桃の花ふくらみくれば恋しさのつのる故郷はここよりも北

風花とうやさしき名を持つ老人の憩えるそのにわれも安らう

 

A5版上製カバー装 2600円・税別


鈴木和雄歌集『婆娑羅一代』

京の雅でも陸奥(みちのく)の素朴でも無い坂東の鄙びた歌を詠む心定まる

グループホームの往診で義歯を預かり直してまた届ける朝と昼の間に

生老病死の四文字に振り回される人生もとどのつまりは骨壺ひとつ

送り盆を済ませてホッとする夕べ 八月十五日は人生の原点

一番幸せだったのは戦争のなかった幼年時代と老々介護の今

何よりもこの一巻には作者の雄々しい人生哲学という心棒が貫かれています。どの一首にもユーモアと俳諧味に支えられた未来志向の生活術とクールな自己批判のまなざしがいきいきと光り輝いています。

黒田杏子・序より

A5版上製カバー装 2700円・税別


糸川雅子著『詩歌の淵源 「明星」の時代』

近代短歌の淵源としての「明星」は、その創刊が明治三十三年と聞くと、確かに遥かに遠い過去のことに感じられてしまうかもしれないが、振り返ってみると、それは、思いのほか近くに、地続きに広がっている世界なのである。

そして、その豊穣さから、現代の詩歌が多くの恵みを受け、多くの果実を実らせてきたことを思わせるのである。

 

「はじめに」より

四六版並製カバー装 2500円・税別


梅地和子歌集『小窓を見つめる』

孤独感をはるかに超える冷酷な宇宙に生きる動悸苦しも

身体が冷えてふるえる夜におもう春の彼岸にたたずむ一人

微光さえ雲ににじみて消えてゆく鴉一羽の横切る時間

死がそこに扉をあけて待つを見ん真夏の夕べ心臓()れる

よき歌を生みたきこころ湧ききたりすべて金色の五月の夕べ

 

人は誰でも、たとえ玄冬の時節にある人でも、心はときめく。何故か。「歌」は、遊びは、宇宙の息吹、宇宙のリズム、生と死との溶け合いのなかで息づくものであるからだ。「文台」を大切にして、さらに、珠玉の作品を残すことを祈る。良い出会いに報いるためにも。

飯岡秀夫・序より

 

四六版並製カバー装 1200円・税別


西村慶子歌集『むさしあぶみ』

しろじろと遠き桜のつらなりを眺めをりしにはやもみどりに

おのれひとりの時もつ夫かしづかなる目を向けてゐる盆踊りの輪

うすべにの小花が茎を巻きのぼるもぢづりかなし芝にはなやぐ

あてもなきあゆみたのしみ里山にあくがれてゐる童女さながら

時をかけ聴かうと耳に手を添へて悲しきかたちのわれとなりゐつ

 

過ぎ去っていった歳月のなかで、陰翳をもってよみがえる、夫の、友の声、そして草花。目を閉じて、深く静かにこころをめぐらせれば、かれらは歌のすがたとなって現れてくる。

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森みずえ歌集『水辺のこゑ』

娘を乗せて電車曲がりてゆきしあと駅のさくらのしんと匂へる

生まれたる水辺のほかをまだ知らず水とりのひな母に従きゆく

ひしめきて稚魚のぼりくる朝の潟はなのやうなる海月も混じる

雪やなぎ白たわわなるその下に二人子睦みゐたる日のあり

森の上にひとたび浮いてゆつくりと水に降りゆくしらさぎの脚 

 

鳥の声、虫の声、風に揺れる木々の声。

みんな純真な嬰児(みどりご)のように思えてくる日。

誰かがどこからか私にそっとささやきかけてくる。

 

もう、急がずに衒わずに

歌を詠めばいいのだよ。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

  

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松岡秀明歌集『病室のマトリョーシカ』

ホスピスへの入院希望を書く紙に誰の意志かを(ただ)す欄あり

それぞれの(せい)へひとみな帰りゆく追悼試合終はり日暮れて

わが横でメス動かせる相棒は裁縫上手な大阪女

嬰児(みどりご)の碧の眼濡れてあれば海原の始めここにありと見ゆ

森といふ器に母は寝転びて父なるわれは子を空に抱く

踊り手でありし男の病室にオディロン・ルドンの花咲きほこる

マトリョーシカ分かちてつひに現はるるうろをもたないさき人形

 

この歌集の著者は、精神科医であり、ホスピスの医師でもある。医師という仕事は、人間の死を、死んでゆく人によりそうようにしてごく近くで見る機会もあれば、鳥の視点のように広い大きな視野で冷静にながめうる機会もある。この歌集には多くの人間の死がうたわれていて、読者は、死を、当然のことながら生についても、独特の遠近法でうたわれた歌にであうことができる。          佐佐木幸綱

 

A5版上製カバー装 2600円・税別

 

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国吉茂子歌集『あやめもわかぬ』

夕暮れてあやめもわかぬ感情のこんなさびしさ夫長く病む

眼つむれば理想郷(ニライ)の風の頰を撫づ海に抱かれ母に抱かれ

思ひ出はユングフラウの氷河にも小鳥ゐしこと君がゐしこと

戦争も生中継さるる世となりてあぐらをかいて死と向き合へり

墓前にて行ふ御清明(ウシーミー)明るくて島の桜は疾うに葉ざくら

 

断念のかたちとは、

心からの祈りのかたち。

まぶしい南国の太陽、

マンゴーの木をのぼる樹液。

沖縄ニライの風が歌を呼ぶ。

海が歌う、島も歌う、もろともに!

 

現代女性歌人叢書⑮  2500円・税別   

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寒野紗也歌集『雲に臥す』

岩の上に姿を晒し飛び跳ねる若鮎のまま水に戻らず

野をめぐり雲に起き臥す「花月」舞う姑在りし日の夏能舞台

神棚の水替え供花の茎を切る務めねば消ゆきのうのすべて

ひとりずつ春の野原に発たせては降り出す雨に顔をむけたり

筆描きの古代絵地図の遥ばろと海と陸とは移ろいにけり

 

かがり火が揺れる。

光に照らし出される白足袋の白。

なつかしい人々への思いを抱きながら、

幽冥界の境へと歩み出て

たおやかに歌を舞う!

 

現代女性歌人叢書 2500円・税別   

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松村正直著『樺太を訪れた歌人たち』

 

「なぜ、樺太か」という問いに対する明確な答えはまだ見つからない。しかし、サハリンを訪れてみて一つだけ感じたことがある。

それは「鎮魂」ということだ。鎮魂と言っても亡くなった方々への追悼という意味だけではない。戦前の樺太に暮らし、樺太という土地に様々な夢を描いた人々の思いは、敗戦によって断ち切られてしまった。

それらを何らかの形で受け止めて、鎮めることが必要なのではないかと感じたのである。(あとがきより)

 

【目次より】

北見志保子とオタスの社

松村英一と国境線

北原白秋・吉植庄亮と海豹島

橋本徳壽と冬の樺太

生田花世と木材パルプ

石槫千亦と帝国水難救済会

出口王仁三郎と山火事

土岐善麿と樺太文化

下村海南と恵須取

斎藤茂吉と養狐場

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

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菅原恵子歌集『生』

つくばいのめぐりに笹の風()れて空蝉の眼にも映るささのかぜ

大根を抜きたる穴に雪積もりやがて真白き雪原生まる

針山に待ち針錆びぬ母逝きて時の流れの速さかなしむ

雉のこえ鋭く鳴ける山里に仮りの世を生く少し先まで

はつあきの水と水との触れ合いのかかる幽かな思いを忘る

 

みちのくに棲み、鳥や花や空や雪と交感する日々。

そして・一一の大震災。

激しいこころの揺らぎ、葛藤、失意。だが・・・・・・

畢竟、歌を詠み続けるとは自らの生の証!

 

現代女性歌人叢書⑭  2500円・税別   

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赤木芳枝歌集『シドニーの空』

大陸の虹をくぐりて飛行機は母国の空へ去りゆくらしも

葉の色に同化せし虫ちらほらと朝光に見るキャベツの畑

豪州へエアメール給ひし師の文は歌に始まり歌に終はりき

三日月がふくらみ月になるといふ孫と豆腐を買ひに行く道

ここまでの水位も何ぞ生き生きと里芋の葉の緑がそよぐ

 

睡蓮の巻き葉くるくるあやつるは鮒か泥鰌か傘置きて見る

 

 

日本から遠く離れた大陸での日常を詠むことから始まり、日本に戻ってからも長くその国を想いつづけていることに深い味わいがあるといっていい。

晋樹隆彦・跋より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別 

 

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川守田ヱン歌集『冬木のオブジェ』

戦ふは人に向かふにあらずして挑むごと雪を力込め搔く

吾の巡り和子勝雄の名の多し戦火くぐりし父母らの願ひ

天を射し辛夷のつぼみ鎮魂のらふそくの灯をともし静けき

自らは光り得ぬ月冴え冴えと光りて十夜法要近し

風雪の四日つづきて茜さす夕べオブジェとなりたる冬木

 

基地の街三沢での独居の日々。

雪に閉じ込められた視界の向こうから

みちのくの春を呼び寄せるように歌を詠む。

「終戦戦後のこと」と題した手記が歌と響き合う。

それは南部びとの強靭でしなやかな意志の輝きだ。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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平松里枝歌集『ぶどうの花』

清明の庭を色どる紅しだれ母も見ませよ満開の花

ほろほろと柿の花ちる細き道むかしも今も畑へとつづく

流れゆく桃の花びら目に追いて一人たのしみ花摘むしばし

雪晴れの美和神社(みわ)の杜見ゆああ今日は上野久雄の誕生日なり

朝まだき畑に見ゆるは幻か 弟が葡萄棚(たな)の雪を払いいる

咲きさかるぶどうの花粉吸うごとし近く引きよせ房づくりする

 

葡萄の花が匂う。葡萄棚を風が吹きすぎていく。

長年、ともに葡萄や桃を育ててきた弟への挽歌。そして、先師・上野久雄への追慕。