萩原桂子『灯の文字』

 

運動場に満ち照る()の文字瞰てをれば夢ゆめ過疎の町と思はず

 

 

 

作歌に、評論に、さらに絵本の読み聞かせに、宮崎県高鍋町で意欲的に活動する荻原桂子さんの充実の第二歌集である。「灯の文字」の歌は「高鍋城灯籠祭り」に関わる作であるが、荻原さんにとっては五句三十一音の短歌の言葉こそが、自らの心を明るく照らす「灯の文字」ではあるまいか。この一冊はそう読者に思わせる。                          伊藤一彦

 

四六判上製カバー装 2500円(税抜)

 

萩岡良博歌集『周老王』

 

雪の森に雪けむり立つきらきらと時間はときに見ゆることあり

 

もみづる日をみなご生まるたまきはるくらきうつつのあかりとなれよ

 

しづくして虹消えはてし宇陀の野の伝承ひとつ緑青を噴く

 

譫妄の父泣き語る戦ひの空をほととぎす啼きてわたれり

 

いくたびも問ふ森に問ふいくたびも霧に洗はれもみぢするため

 

母は沼おぼろおぼろと深みゆきてぬきさしならぬまでにいとほし 

 

 

たしかに聴こえる。

大和宇陀の野や山から、ひそかに伝わってくる古代歌謡のひびき。

古代のまぼろしが時として日常の中に紛れ込みながら、骨太い詩魂を形成した。

 

いったい、家族とは何か、同胞とは何か、世界とは何か。

 

 

A5版上製カバー装 2500円・税別


藤元靖子歌集『はらはら零る』

白い花を探して歩く 今朝はすぐ見つかるものをさがして歩く

棒切れで自分の周りに円を描く くるっと一まわり元へ戻れた

悲しみは色なく音なくわたくしを流線形にのこしおく風

夕かげに木の葉一枚かえすように帰されたなら紛れればよい

忽ちというにはあらず十日月の傾きながら西へ巡る間

 

自然にさりげなく寄り添い、

その深い懐にそっと抱かれる。

淡々として、平明に、自在に。

 

そんなふうに歌を詠む

言葉は木の葉、しらべは風


畑彩子歌集『虫の神様』

あかときに蜩鳴けり ふるさとは大き緑の虫篭なれば

海沿いの墓地へとつづく坂道を大潮坂と祖父のみ呼びき

山手線乗って降りればあとかたもなく新宿は消え果にけり

青空を三日見ないと死ぬという息子よ今日はくもりのち晴れ

「はる」という詩の音読を繰り返す次男の声が食卓照らす

 

文字通りの知力、胆力に長けた著者の久しぶりの第三歌集。Ⅰ部は出産や育児が主題だが、対象への距離を保って客観的な軽快感がある。Ⅱ部、Ⅲ部では虫のような小さな生命へのつよい思い入れをみせ、また身近な人々との交歓を通して自ずと自覚されてゆく生の時間との葛藤もあって、文学を志した日の青春性の回復がはかられてゆく。

かつても生半可な苦悩などはいわなかっつた著者の、ひとつの転機をはらむ頼もしい歌集といえよう。

馬場あき子・帯文より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


服部崇歌集『ドードー鳥の骨』

サンマルタン運河は夏のきらめきを注ぎて白き船を持ち上ぐ

笛吹きが笛吹かずしてふふふふとわらひをさそふパリの祭日

二年目のパリの夜なれば驚かず青き火を噴くエッフェル塔よ

 

 パリ同時多発テロの時期を含む3年間の官僚としてのパリ生活の中から生まれた340首。定住というには短く、旅行にしては長い3年という時間ならではの貪欲な取材がスリリングである。描かれた風景の輪郭はあくまでもクリアであり、表現された事物の動きが徹してシャープなのは、パリ独特の乾いた空気を味方につけた作者の手腕であろう。

                        佐佐木幸綱

 

 

左岸より右岸にわたり右岸より左岸にもどるビルアケム橋

シテ島にあたまのあかい鸚鵡ゐて君との日々を吾に語らしむ

ふちなしの眼鏡に顔を挿げ替へて硝子のパリのパサージュに入る

行きつけのカフェの給仕と初めての握手を交はすテロの翌朝

フランスの最後の晩餐友とゐて何度もなんども灯りの消える

 

四六版上製函入 2500円・税別


藤岡眞佐子歌集『思愁期』

思春期は遙かにすぎて今思愁期老いには老いの反抗期あり

霧にうかぶ清しき桜の内らより身を投げ入れよと声の聞こえる

赦されて無限を昇りゆけるもの鳩のむくろの胸厚かりき

在るという痛みに耐えるものたちよ人間も樹も洞をもつもの

がっちゃんとこの日常に鍵かけて森に向かって歩みいだせり 

 

いったい、人はどこから来て、どこへ往こうとしているのか。そんな問いかけが、つねに歌の根底に横たわっている。春の逃げ水のむこうの彼岸を想像したり、桜の中から声が聴こえてきたり、鰭をもって大海原を泳ぎ、側溝を流れる木の葉に載せてと懇願する。こうした虚の空間へと入っていくことのできる無心さこそが、藤岡さんの歌の魅力である。

喜多弘樹・解説にかえてより

 

2500円・税別

  


平松里枝歌集『ぶどうの花』

清明の庭を色どる紅しだれ母も見ませよ満開の花

ほろほろと柿の花ちる細き道むかしも今も畑へとつづく

流れゆく桃の花びら目に追いて一人たのしみ花摘むしばし

雪晴れの美和神社(みわ)の杜見ゆああ今日は上野久雄の誕生日なり

朝まだき畑に見ゆるは幻か 弟が葡萄棚(たな)の雪を払いいる

咲きさかるぶどうの花粉吸うごとし近く引きよせ房づくりする

 

葡萄の花が匂う。葡萄棚を風が吹きすぎていく。

長年、ともに葡萄や桃を育ててきた弟への挽歌。そして、先師・上野久雄への追慕。

甘い果実のたわわな実りとともに、清明な歌のしらべも豊かに熟成していく。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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福原美江歌集『夕雨の盆』

 

 

久びさに歩き詣でる人麻呂神社父をおくりしのちの初春

白緑のいただき見する高千穂峰(たかちほ)の鳥すむ森のふところに入る

新入生迎へむ机にひらがなの名札貼りをりまつすぐまつすぐ

鹿野遊(かなすび)(いし)河内(かはち)小も閉校す()しき名前の消えゆく平成

濃き淡きあまたの地層かさね来し老いの人生(ひとよ)をうたに教はる

ひともとの極楽鳥花ふるへをり夜半のテレビの銃のひびきに

六十句選び遺句集『花菖蒲』編みて供ふる(ゆふ)(さめ)の盆

 

 

福原美江さんは歴史豊かで思い出深い故郷の石見にしばしば帰っている。抑制のきいた清々しい文体の故郷の歌が『夕雨の盆』のまず印象である。そして、前歌集『雁皮紙』に続く十年間の彼女の宮崎での生活がいかに充実し多忙であったかを証す一冊でもある。大学教授を辞したあとのボランティア活動、最愛の家族の看取り。『夕雨の盆』という優しく寂しいような書名に著者の祈りがある。

伊藤一彦

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浜谷久子『風笛』

ひとひらは南天の葉にひとひらはおさなの頭に春のあわゆき

らっきょうの匂いゆらゆら立ち昇るはつなつの蜂の傾いてとぶ

一寸の虫を見つけて聞いてみるこの長雨はいつ止むのかと

くさ原を舐めるがに飛ぶつばくろはこの地の誰より風を知る民

幾駅を歩いただろう京の街かたわらを大きく川は流れる

 

風がやむ。しばらくの沈黙。

若葉をひるがえし颯爽と風が吹き抜けていく。

そんな繰り返しの日常、そして風景と時間のゆらぎ。

自然の豊かなリズムに身をゆだねながら、

清澄な風笛のように、やわらかな歌のしらべが湧く。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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東野典子歌集『春蘭咲きて』

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『保坂耕人全歌集』

行く道の真向うにして甲斐駒の孤絶の白をわがものとする 

  『風塵抄』

誰が何と言はうと俺の一日は俺のものにて甲斐駒縹色   

『われの甲斐駒』

放念のかなたに浮かぶ雲ひとつ 甲斐に生まれて甲斐に死ぬべき 

岫』

 

甲斐に生れ育ち、昭和七年より「心の花」に入会し、佐佐木信綱・治綱・由幾に師事。九十五年の生涯の大半を短歌に賭けた保坂耕人。自然への洞察、厳しい自己への批評精神に徹した。


A5版上製カバー装 5000円・税別

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菅野初枝 本保きよ歌集『立葵の咲く日々』

洩れ出でて地上を照らす灯し火の一つだになき夜空の深さ

告ぐる日もなくて消えゆくおもひかと白くのこれる月に淋しむ

霜よけにかけしむしろも陽反りゆく今年はじめて咲く花の上

菅野初枝

 

〈ラ・セーヌ〉の濃きコーヒーよ わが裡に風荒れしまま秋深みゆく

板切れに父は〈七人無事〉と書き立ち退き先も焼け炭で書く

うから四人奪う戦と知らざりき十二月八日 今朝の空澄む

本保きよ

 

姉妹の二人歌集である。長い長い歳月と歴史を温めて世に出ることになったことをまず喜び、お祝いしたい。

中沢玉恵

 

四六版上製カバー装 2500円•税込

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花美月歌集『かはうその賦』

ありつたけの服を並べて初デートに華やぐ吾子に獺祭はある

大穴牟遅ノ神宿らせて振り上ぐるクラブヘッドに光集まる

かみかぜの伊勢と丹波を重に詰めおほつごもりの主婦を終へたり

星の字のつく病院ゆ夫戻る宇宙飛行士(アストロノート)のやうな顔して

清らかな初メール来る「うくひすなきましたそちらはとうですかはは」

はつなつのバンジージャンプ鷹の羽の家紋の血筋をもつてわが飛ぶ

 

「平凡」の中から「何を」歌うか、「どう」歌うか、についての彼女のたゆまぬ努力が非凡の作品を生み出している。

花見月という「かはうそ」が並べた味のある獲物あれこれを、読者が手にとって楽しんでくれることを、これまでの愛読者のひとりとして心から願う。

(伊藤一彦・跋より)

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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間ルリ歌集『それから それから』

十年の時間は過ぎぬサンフランシスコに紙飛行機かふわりと着地

別れれば独りで歩む背を見つつ母はひたぶると思いくるるか

オレンジのグラジオラスは君のようなぎ倒されてる台風ののち

歩む道は息子とわたしに違いあり秒針どどどと傾き進む

石を投げ石が消えゆくところまで歩いてみよう それから それから

 

辛く重い過去を秘め持ちながらこの歌集の風景はけっして暗いものではない。日本とアメリカを往復しながら、日本語と英語を往復しながら、明るく軽やかに短歌のつばさをはばたかせている。作者にとってこの古い日本の詩の形式は、こころのスケッチのためのこの上なく親密で、なくてはならないツールなのだ。

 

小池光 帯文より

四六判上製カバー装 2500円•税別

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服部幹子 松井香保里 円子聿 山岡紀代子合同歌集『ゆづり葉』

服部幹子『花びら餅』

 花びら餅に新春祝う母と吾かく睦み来し幾歳月を

 一夜明け清しき正月雪積みて初穂飾りに雀の群るる

 

松井香保里歌集『胡蝶の夢』

 岐阜蝶は寒葵の葉を食み育つしぶきその花葉陰にひそと

 奥美濃の明るき山路に巡り遇ふ春の女神の岐阜蝶の羽化

 

円子聿歌集『ひびき』

 角ひとつ曲がる街路の花水木春めく風にやさしさを添ふ

 うす曇る春の霞に花水木幾つ街路を紅に染む

 

 

山岡紀代子歌集『みすずかる』

 木遣歌社に木霊し樅の木の依代と立つ八ケ岳背に

 拝殿の四方を囲める御柱寒の蒼空に凛とし立てり

 

 

A5版上製カバー装丁 2500円•税別

 

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原田治子歌集『異種』

冬野菜つぎつぎ黄色の花咲かす畑にひとり異種として居り

ひと穴に五粒の種を埋めゆくいずれ四粒は間引かれゆくに

先長き介護の途中リュックひとつ切符一枚のひとりの旅よ

原発と風車を同時に見渡せる岬に立ちて南風受く

「赤福」を提げて戻れば夫笑う伊勢へ行ったのか次は出雲か

 

めぐりの広野を見わたし、周囲の力を借りながら挑んだ野菜作り。自然のゆるぎやまぬ生命力に一個の異形としての存在を実感した。(晋樹隆彦•跋より)

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

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福留佐久子歌集『青き鉢花』

十代に夢あきらめし八十路のひと通信講座で絵画始める

髪型の似合ふを褒むればおすましで媼は答ふ「皆もこげんよ」

下半身と上半身を別々の境地ならしめ雨の露天風呂

歩幅の差あれど気分の差はなきか散策の歩調けふは夫と合ふ

青色はこころ癒すと誰か言ふ意図せず増えし青き鉢花

 

絵画を習い始めようする八十歳の老人や、記憶を喪失してでも、その声で「私」を認識してくれている媼、散髪をしてもらって若返った姿を褒めると「昔もこげんよ」と、地元言葉で返す媼等々、それらに寄せる作者の視線は暖かい。

浜田康敬•跋文より

 

四六判上製カバー装 2300円•税別

 

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堀越照代歌集『健やかであれ』

青空はひたすら青きゆゑかなし母は言ひたり死の前の日に

父の無き子に生まれたる我が父はわれら姉妹の父で在りたり

をさな児の目線に添ひて屈み込む児もかがみこみ水仙を見る

うつむかず空を見上げよ冬すみれ母の愛せしむらさきの花

今日咲かう今日こそ咲かう冬薔薇は陽のぬくもりを全身に受く

お粥食み歩きて笑ひ時に泣く小さき命よ 健やかであれ

 

堀越照代さんは「この五年の間に、母が旅立ち、後を追うように父が逝き」とあとがきにに書いている。この歌集は両親の魂に対する供養の一冊に思える。よき両親に育てられたことの感謝が他の人びとへの愛情になっていることを読者は本書を読みながら感じるであろう。 伊藤一彦

 

四六判上製カバー装 2500円•税抜

 

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昭和9年生れ歌人叢書4『まほろばいづこ 戦中•戦後の狭間を生きて』

こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。

戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。

そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より

 

軍歌からラブソングへ         朝井恭子  

少年のころ              綾部剛   

灯火管制               綾部光芳

鶏の声                板橋登美

ニイタカヤマノボレ          江頭洋子

戦の後に               大芝貫

語り部                河村郁子

昭和二十年八月十五日         國府田婦志子

戦中•戦後の国民学校生         島田暉

空                  椙山良作

確かなるもの             竹内和世

村人                 中村キネ

太平洋戦争ー戦中•戦後         花田恒久

氷頭                 林宏匡

記憶たぐりて             東野典子

少年の日の断想            日野正美

宝の命                平山良明

空に海に               藤井治

戦中戦後               三浦てるよ

椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博

夏白昼夢               山野吾郎

生きた時代              結城文

ひまの実               四元仰

 
並製冊子版 2000円•税別
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廣庭由利子歌集『黒耶悉茗』

西窓に滴る夕日倦みながら梅雨にふとれる鱧を湯引きす

『恋しらに』

色草のひかり濾したるひそかごと解けて結べる風の草占

『惑ひ』

ゆふべよりややふくらみし半月をのころぐさでこそぐりませう

のころぐさ』

乳色の漿にしよごれ無花果は髪を解きたるサロメを呼びぬ

『楕円の月』

わがものにならぬをのこを恋ふるやう〆張鶴を人肌で飲む

『寒の椿』

 

私は彼女のような才能がまだ無名のまま隠れていたことに、一種の驚きと希望を感じている。

日本の歌壇も捨てたものではない。(塚本青史•跋文より)

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

 

 

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藤森あゆ美歌集『言葉咲かせて花になる』

心がぼやけてなにも見えない私のどこかはんぶん出血

やっと確認できた小さな心拍 子宮はそれを愛おしむ

抱っこする私と同じ体温になりながら寝つく幼いからだ

子にひっぱられてしゃがんでみるとその高さにだけ暖かな日ざし

真っ赤なポストに一通投函 私は変わるきっと変わる

 

思いが第一にあって、徐々にリズムを整えていきおおよそ三十字前後の形にしていく

口語自由律短歌はたしかな詩形であり、藤森あゆ美はその中で自在に泳いでいく女性である。  光本恵子•解説より

 

 

四六版並製 1800円•税抜

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福永由香子歌集『しずごころなく』

彩淡く時計草咲く諸々の過去など問わぬと言う円けさに

華やがぬ身を運びゆく夢見月黄砂にまみれ花粉にまみれ

ひりひりと渇く心を温めくる小鳥は小鳥の言葉重ねて

貝殻骨何故か淋しい夕暮れはモカとミルクと少しの砂糖

人間(ひと)去りし汚染区域の里桜しずごころなく花零しいん

 

優雅に水面をすべる水鳥が水面下では脚を動かし続け、穏やかな流れに見える川も、その川底では絶えず浸食を繰り返しているように、人間もまた、日々心を戦がせながら営みを続けているのかも知れません。そのような思いも込めて表題と致しました。「あとがき」より

 

四六判上製カバー装 2300円•税別

 

 

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本阿弥秀雄歌集『傘と鳥と』

ぬばたまの夜がゆつくり降りてきてふはと被さる牡丹の花に

犬筑波•犬死•犬目と見下げられ立つ瀬もなしと夢に犬言ふ

いつよりか倒れてゐたる自転車が西日の中に年寄りて見ゆ

深鳥は鳥まかせなり枯藪の中ウィスキーそつと注ぎ合ふ

差す傘は斜めに傘のなき人は体斜めに夕立を行く

 

身辺日常のありふれた事象の中に一瞬キラリと輝くものがある。できるだけ平明な言葉を選び、すべての定型のしらべへと軽やかに衒いなく託す。滋味と深みの粋。

 

万象のひかりをさりげなく射止める感性の冴え!

四六判上製カバー装 2700円•税込

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羽場喜彌歌集『心象風景以後』

散りしける桜もみぢの黄をふめばまことかそけき音立つるかな

かたはらに眠れる妻はまどかなる菩薩の貌せり汗に覚むれば

性愛のことなどふとも思ひたり晩夏光ゆらぐ道あゆみ来て

いささかの湿り帯たるはなびらを救ひのごとく掌に受けて

好きなもの少量あればそれでよし生の証しもお酒のことも

 

歌誌「心象」創刊•発行人。会社経営者として半世紀近くの苦悩多き日々。齢九十を越えてなお、人生の現役たり続けたうたびとを支えたものは何だったのか。酒を愛し、妻を愛し、歌をこよなく愛した。余燼尽きるまで、なお•••

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

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橋田昌晴歌集『聴診器』

四十年使い込みたる聴診器胸の内聴く吾が耳となる

震えつつ歌一字ずつ生まれくるパーキンソン病の君の指先

老いを診るひと日の暮れて仰ぎ見る幾万光年の秋の夜の星

白桃に触るるごとくに診療す新入生は四十五名

 

「聴診器」は、橋田氏にとっては「聴心器」でもある。

医師と患者、その家族との間には、遠慮のない会話が交わされているように思われる。

本書全体に漂う、そこはかとない優しさ、明るさは基調である。

野地安伯•序より

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藤間操歌集『文箱』

たたずまひ佳き白梅は遠目にも其処のみみぞれ避けて降りをり

たばこ買ひに行くが如くにふらり消えし夫を送りて十三年経たり

もののふの哀れ見て来し大公孫風冷たく未だ芽ぶかず

地震ありて沈黙長き振り子時計なじかは知らじ時告げはじむ

 

対象に一定の距離をおき、観察を楽しみ、

作歌も楽しんでいる。

特徴の一つである序詞や比喩も上手い作者で、その技術をどれくらい駆使しているのかを知るのも本書の魅力と思う。

鶴岡美代子

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

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橋本忠歌集『白き嶺』

■平成25年度日本歌人クラブ北陸ブロック優良歌集

 

城山の雪きらめけば空を截る鳥も光のつぶてとならむ

冬の田は鋤き返されてさびさびと夕べを繊き雨降りつづく

門のごとに家族の数だけ雪だるま飾るとぞいふこの峡の村

人の世の小事過ぎゆく日々なれや梅はなうづぎの花時も過ぐ

むら消えの雪野の果てに白山のやまなみ光る春のことぶれ

 

加賀平野の阿弥陀島町は戸数十二の小さな集落。

ここが著者の生まれ育ったふるさとだ。

このふるさとの学校で、少年少女の育成に力を尽くした著者。

十年前からは野の人、書斎の人だ。

白山は著者のふるさとの山田。里山の奥につづく白山。優しい姿のこの山は晩秋から初夏まで雪をかずく。

かつては「越白嶺」とよばれ、篤い信仰をあつめた霊山だ。

このふるさとで著者は七十歳を迎えた。古希ならぬ己輝。白き嶺のかがやくふるさとで、歌の人なる己を輝かす。(橋本喜典)

 

A5版上製カバー装 2835円•税込

 

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服部由美歌集『たくぶすま』

水縹の空にただよひ梢たかく辛夷は咲けり疎水堤に

センサーに音頭湿度を管理されベコニア咲けりわが歌ほろぶべし

しらじらと楊絮まひまふ白き道遠よりきたり馬は炎を吐く

麕がきて身をこすり寄る夢さめて清拭されいつ青きタオルに

 

『たくぶすま』は生死を分ける自己に遭遇したあとに編まれた歌集。

情緒に溺れることのない鋭敏な感情で香気ある抒情を掬いとるとともに、農業を取り巻く状況のもつ危うさを農業者としてとらえ、いかりをこめて大胆に詠っている。(仲宗角)

 

 

A5版上製カバー装 3000円•税込

 

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