平松里枝歌集『ぶどうの花』

清明の庭を色どる紅しだれ母も見ませよ満開の花

ほろほろと柿の花ちる細き道むかしも今も畑へとつづく

流れゆく桃の花びら目に追いて一人たのしみ花摘むしばし

雪晴れの美和神社(みわ)の杜見ゆああ今日は上野久雄の誕生日なり

朝まだき畑に見ゆるは幻か 弟が葡萄棚(たな)の雪を払いいる

咲きさかるぶどうの花粉吸うごとし近く引きよせ房づくりする

 

葡萄の花が匂う。葡萄棚を風が吹きすぎていく。

長年、ともに葡萄や桃を育ててきた弟への挽歌。そして、先師・上野久雄への追慕。

甘い果実のたわわな実りとともに、清明な歌のしらべも豊かに熟成していく。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別