山内嘉江『ガラスのはこ』

 

眠られず独り苛立つはくめいのあさがほは今ひらきつつあるか

腹這ひてSFよみゐる少年の羽ばたかむばかり大き耳たぶ

北風のくぐもりうなる如月のはげしきものぞ春来ることも

昨日来たる山鳩ならむひつそりと雪降る枝に胸をそらして

下葉枯れつつ花穂かかぐる藤袴むかしの秋にまた邂はめやも

 

『ガラスのはこ』の歌稿を手渡されて、翌朝に入院し、病室の床頭台に広げて目を通しながら、私は不思議の感に打たれた。そこに並んでいたのは、このひとが平生、見せない種類の歌が多かったからである。人間の頭はどういうつくり(・・・)になっているのだろう、私はその時、二十年前の揚羽蝶の紫を思い出したのである。               

光田和伸・跋より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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山本登志枝歌集『水の音する』

翡翠はぬるめる水に零しゆく色といふものはなやかなものを

吹く風はさびしかれども幾つかづつ寄りあひながら柚子みのりゆく

書きながら見知らぬ人に書くごとく水に書きゐるごとく思へり

青き空そよげる若葉したたれる水の音するそれだけなれど

かなかなの声をきかむとだれもみな風見るやうな遠きまなざし

 

水の音が聴こえる。そっと耳を澄ます。

なつかしいその響き、高鳴る鼓動。

太初に言葉があったように、

私の未生以前に歌が息づいていた。

こころを潤し、流れる水のように歌を詠む!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

 

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吉野節子歌集『加良怒』

西行、明恵、登志夫と書きし白紙(しらかみ)を寒満月に差し出だすなり

春寒き磯の口開け、海に入る(をみな)それぞれ化粧(けはひ)してをり

(もも)(なが)に海の(おもて)に寝ねてをり漂ひをればゆふぐれてゆく

人はなぜ舟出するのか、濃き淡き青海原のまひるの平ら

みづうみのけさの水面想ふときわれは微笑みうかべてをらむ

 

まぼろしを見る。まぼろしと向き合う。

日常の隙間を、時として古代を、

自らの歌のしらべの中にそっと喚び込む。

特異な時間意識の深層には産土の地、土佐。

はるか、輝く黒潮のかなたに歌が届く!

 

四六版情勢カバー装 2500円・税別

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米山高仁歌集『会津好日』

五十路越えほのかに慕ふは背高く象牙の肌の妻似のをとめ
ひむがしのオリオン座流星群厚くまなこを閉ぢて心眼に見む
世の中は諸行無常と語れども生れしからには死ぬまで生きむ
如月の夕日に雪野は紅く燃えひととき麗し滅びゆく美は
バスを待ち寒さこらへて茂吉読むけふ開戦日その日の歌を

磐梯、飯豊の名峰の伏流水が生み出す米と酒を日々味わう。
会津の医家として人々との語らいから歌を紡ぎ出し、麗しい夫人との旅を楽しむ。
これを「好日」と言わずして何と言うべきか。 雁部貞夫・帯文より

四六版上製カバー装 2600円・税別

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吉本万登賀歌集『ひだまり』

修正液乾ききるまで待てなくてデコボコだらけのわれの人生

そを聞きに行く啄木と旅をする「次は終点。高知、高知です。」

二十二で二十七人子を持った気におそわれる二〇〇〇年春

「赤ちゃんに卵巣嚢腫が見られます。」告知とともに知った性別

マンマとはご飯なのかママなのか確かなものはわれを呼ぶこえ

アウトドア教えてくれし夫からの贈り物かも今夜の月は


高知育ちの吉本万登賀さんを若い時から知っている。何ごとにも積極的で、第一歌集『青春スクランブル』も学生時代に出版した。はきはきとして快活で行動力にあふれた土佐の女性を「はちきん」というが、見事な現代の「はちきん」だ。本人は「デコボコだらけの人生」と自分のことを歌っている。そりゃ人生ひたぶるに生きるだけ「デコボコ」は生まれる。その「デコボコ」を乗りこえる彼女の『ひだまり』の明るさは読む者の心を温かくしてくれる。

伊藤一彦


 

四六版上製カバー装 2700円・税別

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服部幹子 松井香保里 円子聿 山岡紀代子合同歌集『ゆづり葉』

服部幹子『花びら餅』

 花びら餅に新春祝う母と吾かく睦み来し幾歳月を

 一夜明け清しき正月雪積みて初穂飾りに雀の群るる

 

松井香保里歌集『胡蝶の夢』

 岐阜蝶は寒葵の葉を食み育つしぶきその花葉陰にひそと

 奥美濃の明るき山路に巡り遇ふ春の女神の岐阜蝶の羽化

 

円子聿歌集『ひびき』

 角ひとつ曲がる街路の花水木春めく風にやさしさを添ふ

 うす曇る春の霞に花水木幾つ街路を紅に染む

 

 

山岡紀代子歌集『みすずかる』

 木遣歌社に木霊し樅の木の依代と立つ八ケ岳背に

 拝殿の四方を囲める御柱寒の蒼空に凛とし立てり

 

 

A5版上製カバー装丁 2500円•税別

 

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吉田淳美歌集『水の影』

花びらがそれぞれ灯りを返すので夜の桜はこんなに白い
フライパンに玉子の白身伸びていき遠いどこかの半島になる
こんなにも天と大地は繋がりたいと思っていたのか降り止まぬ雨
ふるさとのことを聞かせてと言ったあと女は山ごと男を抱く
この先に家があるはずと辿りゆく真夏の道のやがて消えゆく
夕暮れの半ば開いてる交番に入っていくのは秋風ばかり

まぼろしを視る。いやそれが現実なのかも知れない。こころの裡に見え隠れする風景も、年とともに変幻自在の相を濃くしていく。歌が冴える。心がたかぶる。
四六判上製カバー装 2500円•税別

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吉田久美子歌集『月の浦』

仲秋の空を渡れる満月に話しかけたくて黙してゐたり

肩書きの無き真つ新な名刺もて月の浦区の住人となる

時刻版の落せる夏の濃き影にわたくし消してバスを待ちをり

唐突にありがたうねの美しきこゑの響き来夕さりつ方

ほぐしつつさすりつつわが掌は母の背中に甘えてゐたり

天山に積もりし雪を仰ぐごと腰低くして母を仰ぐも



吉田久美子さんの住む、福岡県大野城市の「月の浦」はまことに美しい地名である。その月の浦で家族を愛し、自然を賞でる吉田さんの歌は、謐かで、温かく、奥深い。彼女自身が地上をうららかに照らす月のように思われる。伊藤一彦

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

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昭和9年生れ歌人叢書4『まほろばいづこ 戦中•戦後の狭間を生きて』

こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。

戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。

そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より

 

軍歌からラブソングへ         朝井恭子  

少年のころ              綾部剛   

灯火管制               綾部光芳

鶏の声                板橋登美

ニイタカヤマノボレ          江頭洋子

戦の後に               大芝貫

語り部                河村郁子

昭和二十年八月十五日         國府田婦志子

戦中•戦後の国民学校生         島田暉

空                  椙山良作

確かなるもの             竹内和世

村人                 中村キネ

太平洋戦争ー戦中•戦後         花田恒久

氷頭                 林宏匡

記憶たぐりて             東野典子

少年の日の断想            日野正美

宝の命                平山良明

空に海に               藤井治

戦中戦後               三浦てるよ

椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博

夏白昼夢               山野吾郎

生きた時代              結城文

ひまの実               四元仰

 
並製冊子版 2000円•税別
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山田豊一著『弱兵物語』

Ⅰ部 弱兵参戦の記

 弱兵の悲哀

 南支戦線異状あり

 マラリアに冒され死と直面す

 ああ帰還、自由の身

 

Ⅱ部 近代志向から軍国主義へ 戦前日本の体験記

 戦前の近代化志向とその挫折

 近代への覚醒と希求

 戦争の予兆 戦前日本の集約

 

Ⅲ部 戦後の日本 敗戦がもたらしたもの

 戦後の混乱とアメリカ化

 近代化の中での伝統行事

 農業近代化の挫折

 思想的活力の喪失

 伝統の凋落と再生

 わが死生観のゆくえ

四六版並製カバー装 1260円•税込

 

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北村芙沙子•中川禮子•結城文訳 ウィリアムIエリオット監修『茂吉のプリズム』

『赤光』Shakkō  Red Light

 

かがまりて見つつかなしもしみじみと水湧き()居れば砂うごくかな

crouching 

I observe the sand moving

as the water

springs up

feeling its sadness deeply

 

kagamarite

mitsutsu kanashi mo

shimijimi to

mizu waki ore ba

suna ugoku kana

 

 

死にしづむ火山のうへにわが母の乳汁(ちしる)の色のみづ見ゆるかな

in a volcano,

quiet as death,

I can see the water­

its color,

my mother’s breast

 

shi ni shizumu

kazan no ue ni

waga haha no

chishiru no iro no

mizu miyuru kana

 

四六判並製カバー装 2000円•税別

電子書籍版…1000円

 

title "Prism of Mokichi"

written by Mokichi Saito

translated by Kitamura FusaKo & Yuki Aya & Reiko Nakagawa & William Elliott

 

Mokichi Saito is the most famous tanka poet in Japan. 

He was born at 100 years ago, and he made the foundation of Japanese  modern tanka poetry. 

 

We have translated into English his first poem book.

 

2160yen

e-book…¥1000

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横田敏子歌『この地に生きる』

福島に生れて暮らして六十余年ここがふる里この地に生きる

雪の歌いくつを詠めば来る春か雛を納むる今日も降り継ぐ

車椅子に夫を乗せて公園の今年の桜に会いに行きたり

 

病気の夫を抱えつつ勤めを全うした後に遭遇した¨あの日¨。

それ以来、原発の歌以外をうたうことができなくなったという。

この地ー福島県郡山市ーに生きる著者の、抑えがたい声がここにある。  久我田鶴子

 

A5版上製カバー装 2730円•税込

 

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山口明子歌集『さくらあやふく』

■完売御礼!

第二十一回ながらみ書房出版賞受賞!

 

授業中反応せぬ子がわが言ひし本借りに来る つくし芽を出す

稲妻に身を裂かれゆく木の痛み和らせむとして背に爪を立つ

五百人の園児の揃ふ運動会すぐに見つかる踊らぬ我が子

雲脱ぎし岩手山ふとあらはれて夏を待つ蒼あさぞらに満つ

みちのくに太き脈なす北上の川を良夜のひかりがあらふ

北を指す針セシウムに狂ふ春さくらあやふく光りつつ咲く

 

ショッキングな出来事とその現実に向き合う作者の真摯な姿勢は、現代短歌の世界が忘れかけている、全身全力でうたうことの意味を広く問いかけるにちがいない。

佐佐木幸綱•跋より

四六判上製カバー装 2625円•税込

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吉野のぶ子『くぢらぐも』

庭樹木の季の移ろひ告げたくて紅き椿を遺影に供ふる

わが名もて親族、知人へ賀状書く所帯主とふ余生を生きて

ひとすぢの涼風わたりてわが膝の歌集めくれり昼のまどろみ

時折は遠回りして愛でたりし合歓の古木は今日伐られたり

如月に逝きたる夫ゆえ花どきの京にて納骨なさむと思う

 

亡夫君追慕のこころを連綿と継ぐなかに

ふるさとの自然をみつめ

そこに生きる人間の営みに

健やかなまなざしを放つ

 

そして古寺を巡り

旅の思いを 投影しながら

ひと日ひと日の歩みを重ねる

 

おみなひとりの生を

遊行の高みへと 運ぶ

久泉迪雄

 

A5版上製カバー装 2835円•税込

 

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山岸洋子歌集『旅はまぼろし』

あめ風に洗はれしさはやかな里山を一人占めする夕べは秋に

冴え冴えと雪のおちれば山寺のかはらに白くうかぶ夕あかね

機窓には雪の日高の見えてきて息の住むまちはもうすぐそこに

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

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柳原晶著『中城ふみ子論-受難の美と相克』

中城ふみ子についての本格的な評論集が初めて刊行された。

本著をもって中城ふみ子研究の大方が出揃ったとも言えよう。山本司序文より

 

四六版上製 2700円税込

 

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柳原白蓮歌集『踏絵』(復刻版)

吾は知る強き百千の恋ゆえに百千の敵は嬉しきものと

踏絵もてためさるる日の来しごとも歌反古いだき立てる火の前
天地の一大事なりわが胸の秘密の扉誰か開きね

誰か似る鳴けようたへとあやさるる緋房の籠の美しき鳥
ともすれば死ぬことなどを言ひ給ふ恋もつ人のねたましきかな
年経ては吾も名もなき墓とならむ筑紫のはての松の木のかげに

 

『踏絵』は柳原白蓮が最初に出した歌集で、若き白蓮の告白的短歌の結晶といわれ、大正4年3月に竹柏会より出版されました。

「白蓮は藤原の女なり。」で始まる序章は佐佐木信綱、装丁は竹下夢二によるものです。

このたび初版本を復刻いたしました。

 

四六判上製カバー装 1800円•税別

 

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結城文英訳 竹山広歌集『とこしへの川』


血だるまとなりて
縋りつく看護婦を曳きずり走る暗き廊下を

along the dark corridor

I run dragging a nurse

who clings to me-

her blood

all over

 

炎見る友に眼鏡をかしをりてぼうぼうと燃え明かるのみ

lending my glasses

to my friend watching

the flames

I just see the darkness

lit up by burning fires

 

はじめに竹山広氏に快く原爆短歌の英訳を許可していただいたことを心より感謝します。三千首ほどもある氏の短歌のなかから、もっとも生々しい原爆体験の歌が含まれている第一歌集『とこしへの川』から百首をすべて抽出することになるまで、長い時間がかかりました。結城文

四六版並製 定価2000円•税別

電子書籍版…1000円

 

Title Tokosie-no-kawa (Everlasting River) 

written by Hiroshi Takeyama

translated by Aya Yuki

 

 

Hiroshi Takeyama is the famous tanka poemer in Japan.

He was bombed the atomic bomb in Hiroshima. 

And he made Tanka-poem of bomb experience. 

 

We have translated into English his first poem book.

 

 

2160yen

e-book…¥1000

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矢部雅之歌集『友達ニ出会フノハ良イ事』

名を呼べばふりむく躯呼ばるるとふことそのものの歓びに満ち

答えなど要らぬ問ひなど問ひかけて答へむとする君を見ており

見るままに来て■る冬ぞ カブールの井戸辺に凝る暁の水

記憶の底にまぎれゆくべきこの冬を大袈裟に抱き合ひて別れき

人生の半ばのと或る朝のアフガンの青空高く消えてゆく雲

 

報道カメラマンの詠む現場!!

「友達ニ出会フノハ良イ事」はアフガニスタン攻撃の取材でアフガニスタンに行ったおりの作品である。自分で撮ったカラー写真と組み合わせた独自の校正で、歌集としては未開拓の分野に踏み込んだものである。

佐佐木幸綱•跋より

 

四六版並製 3000円•税別

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