田土才恵歌集『風のことづて』

人から人へ、親から子へ、孫へ

風がささやきかけるように

伝えたい思いがある、伝えたい歌がある。

 

そっと耳をすませば言葉はいのちあふれる涌井の

ようだ。

 

 

なにがなし時計いくつもならべいていずこにあらんわれのみの時

湯たんぽに湯の音とぷとぷ階上る今日の終わりの足音立てて

もの書けばたちまちペンを貸せといい意志見せはじむ一歳の春

ケアハウスの窓ひそやかに開けられて春愁ひとつ今とき放つ

風となり水とはなりてめぐりつついのちのほむら若葉縫いゆく

 

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

国吉茂子歌集『あやめもわかぬ』

夕暮れてあやめもわかぬ感情のこんなさびしさ夫長く病む

眼つむれば理想郷(ニライ)の風の頰を撫づ海に抱かれ母に抱かれ

思ひ出はユングフラウの氷河にも小鳥ゐしこと君がゐしこと

戦争も生中継さるる世となりてあぐらをかいて死と向き合へり

墓前にて行ふ御清明(ウシーミー)明るくて島の桜は疾うに葉ざくら

 

断念のかたちとは、

心からの祈りのかたち。

まぶしい南国の太陽、

マンゴーの木をのぼる樹液。

沖縄ニライの風が歌を呼ぶ。

海が歌う、島も歌う、もろともに!

 

現代女性歌人叢書⑮  2500円・税別   

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寒野紗也歌集『雲に臥す』

岩の上に姿を晒し飛び跳ねる若鮎のまま水に戻らず

野をめぐり雲に起き臥す「花月」舞う姑在りし日の夏能舞台

神棚の水替え供花の茎を切る務めねば消ゆきのうのすべて

ひとりずつ春の野原に発たせては降り出す雨に顔をむけたり

筆描きの古代絵地図の遥ばろと海と陸とは移ろいにけり

 

かがり火が揺れる。

光に照らし出される白足袋の白。

なつかしい人々への思いを抱きながら、

幽冥界の境へと歩み出て

たおやかに歌を舞う!

 

現代女性歌人叢書 2500円・税別   

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高崎淳子歌集『難波津』

ゲーテ登り茂吉も登りまだらゆきリギの裏山眺めて過ぎる

生は死をそそりムリーニ渓谷にレモン輝き海は誘ふも

国語教師三十六年に魯迅ありヘッセもありて友のごとしも

夏木原松陰の詩にまむかへばさつきつつじがほのかに残る

難波津に百舌鳥の耳原尋ねたり松は緑のときはなる花

 

教師生活を終えた横浜への惜別。

文豪、画工に出会う海外への旅。

研ぎ澄まされた知性と感性の閃き。

 

咲くやこの花――

そう口ずさみつつ人を、歴史を、

風景を、そして世界を凝視する。

 

四六版上製カバー装 二五〇〇円・税別

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田土才惠歌集『風のことづて』

なにがなし時計いくつもならべいていずこにあらんわれのみの時

湯たんぽに湯の音とぷとぷ階上る今日の終わりの足音立てて

もの書けばたちまちペンを貸せといい意志見せはじむ一歳の春

ケアハウスの窓ひそやかに開けられて春愁ひとつ今とき放つ

風となり水とはなりてめぐりつついのちのほむら若葉縫いゆく

 

人から人へ、親から子へ、孫へ

風がささやきかけるように

伝えたい思いがある、伝えたい歌がある。

 

 

そっと耳をすませば

言葉はいのちあふれる湧井のようだ。

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恒成美代子『秋光記』

せくぐまりおぼつかなくも生きてゐる母とパンジー風にふるへて

そのやうにしか生きられぬ秋の虫 鳴くだけ鳴いて静かになつた

むつのはな耀ひ母を車椅子に乗せて詣づるうぶすな神に

背伸びして秋の光に手を伸ばすけふのわたしを(ねぎら)ふやうに

 大三角見しことメールに発信し、しんじつ遠し息子はとほい

 

悲しむために生まれたのではない。

目に映る風景はいつもやさしい。

筑紫博多、筑後八女、そこに暮らす人々。

透明な秋の光の中、すべてが穏やかにそよぐ。

 

 四六版上製カバー装 2500円・税別

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石川浩子『坂の彩』

星凍る空垂直に降りてきてサッカーゴールさえざえとあり

若きらは初夏の大気を切り裂いて一、二、三、四坂登りくる

キッチンは春のみずうみ かの世から父来てゆらり釣糸垂れる

独り身は寂しくあるか花水木坂の上にも坂の下にも

 

眠る前のバニラアイスの一匙を口に溶かせり 天上は雪

 

坂――風景の坂、心象の坂、人間の坂。

その向こう側は誰も知らない空間。

たとえばそれが希望のみえる明るさであってもいい。

現実と虚構とのせめぎ合いが迫真のうた世界を鮮やかに彩る!   

 

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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浜谷久子『風笛』

ひとひらは南天の葉にひとひらはおさなの頭に春のあわゆき

らっきょうの匂いゆらゆら立ち昇るはつなつの蜂の傾いてとぶ

一寸の虫を見つけて聞いてみるこの長雨はいつ止むのかと

くさ原を舐めるがに飛ぶつばくろはこの地の誰より風を知る民

幾駅を歩いただろう京の街かたわらを大きく川は流れる

 

風がやむ。しばらくの沈黙。

若葉をひるがえし颯爽と風が吹き抜けていく。

そんな繰り返しの日常、そして風景と時間のゆらぎ。

自然の豊かなリズムに身をゆだねながら、

清澄な風笛のように、やわらかな歌のしらべが湧く。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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山本登志枝歌集『水の音する』

翡翠はぬるめる水に零しゆく色といふものはなやかなものを

吹く風はさびしかれども幾つかづつ寄りあひながら柚子みのりゆく

書きながら見知らぬ人に書くごとく水に書きゐるごとく思へり

青き空そよげる若葉したたれる水の音するそれだけなれど

かなかなの声をきかむとだれもみな風見るやうな遠きまなざし

 

水の音が聴こえる。そっと耳を澄ます。

なつかしいその響き、高鳴る鼓動。

太初に言葉があったように、

私の未生以前に歌が息づいていた。

こころを潤し、流れる水のように歌を詠む!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

 

 

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吉野節子歌集『加良怒』

西行、明恵、登志夫と書きし白紙(しらかみ)を寒満月に差し出だすなり

春寒き磯の口開け、海に入る(をみな)それぞれ化粧(けはひ)してをり

(もも)(なが)に海の(おもて)に寝ねてをり漂ひをればゆふぐれてゆく

人はなぜ舟出するのか、濃き淡き青海原のまひるの平ら

みづうみのけさの水面想ふときわれは微笑みうかべてをらむ

 

まぼろしを見る。まぼろしと向き合う。

日常の隙間を、時として古代を、

自らの歌のしらべの中にそっと喚び込む。

特異な時間意識の深層には産土の地、土佐。

はるか、輝く黒潮のかなたに歌が届く!

 

四六版情勢カバー装 2500円・税別

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寺尾登志子歌集『奥津磐座』

 

変哲のあらぬ五月の空ひろく原発一基も動いてをらぬ

アウシュヴィッツ後に抒情詩を書く野蛮ふと短歌こそ抒情詩なるを

も少しを君のかたへに見る海のなにも応へぬ波音を聞く

山頂はしるく注連立て深々と天に交はる奥津(おきつ)磐座(いはくら)

極東を極楽とわが読み違へ黒霞()る日本かここは

 

日常の些事を詠おうと社会の悲惨を直視しようと、あるいはドイツへ旅し、家族に思いを向けようとも。齢を重ねるにつれ、作者本来の清新にして鋭い批評性が、あたかも聖なる神の依代のように、この短詩型に強く籠る。

 

詠い継ぐことで垣間見せるもうひとつの精神世界の原色の明滅!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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小川佳世子『ゆきふる』

▪︎第34回ながらみ書房出版賞受賞!

 

ゆきふるという名前持つ男の子わたしの奥のお座敷にいる

なかぞらはいずこですかとぜひ聞いてくださいそこにわたしはいます

カザフスタン生まれの米国人夫妻庭を非常にゆっくり歩く

はらわたをいくど断ちてもまだなにか切れないものはそのままにして

お葉書の数行の字の「大きさ」の中に棲みたく思ってしまう

 

ゆきふる・・・・その名前を私が呼べば、

永遠にきよらかな生を私に歌えとこたえる。

ただ一つ確実なことは、

今なお私も歌の天空を飛翔し続けているという事実。

世界はあまりにもまぶしすぎるから。

 

 

現代女性歌人叢書④ 2500円・税別

 

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桂保子歌集『天空の地図』

遠花火を部屋の灯消して眺めゐる肩に凭れてしばらく泣きぬ

いづこかに天への梯子(はしご)を匿しおく納屋のあるらむ 星ひとつ飛ぶ

千五百(ちいほ)の秋の過ぎた気がする大窓を磨き椅子よりわが身下ろせば

触れたしと差しだす指に黒揚羽ふはり止まりて詩稿のごとし

天空にかきつばた咲く水苑のあらむ(ふた)(あゐ)色のゆふぞら

 

 

 

この世には素直に受け入れがたいものがある。

たとえばよき伴侶との永久(とわ)の別れ。

天空に風が舞い、夜は星々がまたたく、無辺の闇の彼方へ。

万感をこめて歌を詠み継ぐ、それは愛おしいものへの極上の供物!

 

現代女性歌人叢書③ 2500円・税別

 

 

 

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佐藤恵子歌集『山麓の家』

氷雨降りいよよ冷え込む列島の四国最中のここに暮らすも

あかままの花の咲く道 遠き日のをさなきわたしが蹲る道

かうかうと今宵満月 母となる阿修羅の叫び 生まれむとする

名月に惚れてしまひしこほろぎか髭を担ぎてひと夜なきける

けぶり立つ山ふところに夢のごとさくら咲かせて山あひの村

 

平凡な日常を輝かせる歌がある。いのちの喜びを素直に祝福する歌がある。透徹した観察眼と、やわらかな批評力を裡にこもらせて。

 

あるがままの生を、四国の山懐に響かせる温かな歌のしらべ!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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上村典子歌集「天花」

文具屋の縦罫横罫あゐいろに秋のノートの無音は韻く

ひととわれ持たざる太郎まろまろと月の太郎は泛きあがりくる

乗り継ぎに走りくだりしおごほりの一番ホームもう用はなし

親切にあづきをのせてわかちゐし二歳は父と天花(てんげ)の庭に

雛の日の土曜ひながくあたたかしゆふかげと聴くジョアン・ジルベルト

 

光と影とのこまやかな明滅。それがこの世に在るもののすべてを照らし出す。たとえば、こらえきれない生の苦しみ、疼き、そして希い。

いま、歌という透明な灯を天の深みにともす!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

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