加賀谷実歌集『海の揺籃』

黒々と濡れて競り待つしじみ貝幼きものが手を結びいる

ゆるやかに死後硬直に移りゆく白鱚を青き光が包む

鮟鱇の口中深く絶命の軽鴨汝は何を違えし

月照らす男鹿の断崖手を当てて眼閉ずれば侏羅の海鳴

 

大鱈、間八、白鱚、鮟鱇、鮪、鰤。

港に水揚げされた魚が歌われている。どの歌にも競り場のプロならではの確かな眼と心が働いている。

そして、プロは魚に対すしてかくも愛情を抱いているのだなぁと改めて教えられる。 伊藤一彦•跋文より

 

A5版上製カバー装丁 2,835円•税込

関秀子歌集『落葉樹林』

冬の土素手にて掘れば思わざる程の羞しきぬくもりのあり

すれ違う前登志夫の車危うしと見送りしわれぞ急坂の道

 

落葉の山々。さびしくはない。空虚でもない。

その光景は豊穣にして豪奢な作者のこころの原風景なのだから。

雪•月•はなという三章立てで成る一巻。

ぐんぐんと美の異界へと分け入っていく意欲的な作家世界!

 

46版上製カバー装 2,625円•税込

 

岡本尚真歌集『残照の空』

うみ山のあはひほのかに霞ひき家並ぬむるふるさとの昼

からりからり朴の枯葉のすべる音聞きつつ独酌の酒あたたむる

 

 

残照の空。茜色をはらんだまばゆい光のゆらぎ。

その空を泪ぐましいばかりに仰ぐ作者がいる。

はや八十路を歩む老いの姿。

されど、この命。生かされてあればこそ、

歌もろともに森羅万象なべて輝け!

 

A5版上製カバー装 2730円•税込

 

中島彰代歌集『塩をもすこし』

大和野の陽につつまれて待ちをればちやんちやん祭りの列近づきぬ

我が内に母は生きいて厨辺に問へば応へて塩をもすこし

 

家族中心に中島彰代さんはいる。温かな湯気を立てながら、夫や子や孫たちを抱きしめる。

そこが、古都奈良であっても東京であっても、ニューヨークやヨハネスブルグであっても変わらない。

久我田鶴子跋文より

 

46版上製カバー装 2,520円•税込

 

 

井村亘歌集『星は和みて』

顔のなき白衣の群れに囲まれて無影灯下の執刀はじまる

井の底ひひかり溜めをりおとうとの駈けてまろびしとほき日のまま

春の野のほのかに紅きほとけのざ摘みて帰らな子の坐りゐむ

底紅の宗旦木槿はや咲けばひと日ひと日を虔しみて生きむ

 

『星は和みて』は著者の住む大和の河合町星和台に基づく。

この地で詠んだなかでとりわけ生老病死に伴う歌に感動を覚える。

畢竟、短歌は晩歌と相聞歌につきるかも知れない。ー前川佐重郎「序」よりー

 

A5判上製カバー装 2800円•税込

斎藤美江子歌集『銀の笛』

ひそ夜ひそかに銀の笛吹く少女子にさざめきを止む星も夜風も

はつ夏の緑まぶしきその奥にひと筋魚の涙を見たり

時経ればかなしみはとほく去りゆきて時は優しく人を起たしむ

 

出会いはよろこびとともにかなしみも孕む。

そう、世界をさまよう純なるたましいの悲傷の声。

先師 島田修二の詩ごころを歌い継いでゆく作者のまなざしはかぎりなく透明にしてもの憂い。

 

 

A5版上製 2730円税込

 

中西敏子歌集『天のみづおと』

飛魚は空とぶ形に売られをり夕暮れどきの小さき市場

この春のいのち終へたる花びらを川はやさしく彼岸へ送る

惹かれたる薩摩切子の藍色はたとへば死後に見る空の色

 

中西敏子さんの歌に良質の透明感があるのは、その人生を誠実に懸命に生きてきた証が伝わってくるからである。

歌から現れてくるのは、どこか悠然としたところがあり、作品にも意志の強い自立した女性像がある。

山名康郎 跋より

四六版上製 2625円税込

 

柳原晶著『中城ふみ子論-受難の美と相克』

中城ふみ子についての本格的な評論集が初めて刊行された。

本著をもって中城ふみ子研究の大方が出揃ったとも言えよう。山本司序文より

 

四六版上製 2700円税込

 

大和田孝子歌集『空の釣り人』

人みなの去りしのちの釣人は夕映えの空に糸を垂れをり

鳶舞へば腕を広げわれも舞ふ山の上(へ)の雲夕焼けるまで

佐久の空にどつかと坐る浅間領よ火を噴かず我が一世過ぎゆく

にんげんの終の姿のかなしければ屋上にでて寒の星仰ぐ

 

編集者として評論集『山河慟哭』を世に送り出し、歌弟子として歌誌『ヤママユ』とともに歩んできた三十数年。

先師•前登志夫の言葉ー「歌を生きる」。

それは、夕映えの空に向かって釣糸を垂らすことかも知れない。

四六版上製•2625円税込

紺谷志一歌集『妻の文箱』

わが娘とは惚けてわからぬ妻の掌に新任の名刺を握らせている

妻の死が真近と予告されたけど介護用ゴム手袋三箱買ひ足す

亡き妻の紅の文箱にしまひあり義兄の名が載る戦死公報

 

北原白秋の「多磨」から出発した著者は、戦前戦後の長きにわたって一貫して白秋の系譜を歩み続けてきた。戦争詠、そして最愛の妻に寄せる作品には情感がこめられ、人間愛にあふれる。(林田恒浩帯文より)

46版上製カバー装 2520円•税込

 

 

宇留野むつみ歌集『父のマント』

満州の広野と思う今朝の夢父のマントにもぐりていたり

たぐりゆく記憶の底につねにある父のぬくき掌母のさびしさ

満州国の崩れゆきし日ひまわりが照明弾なる光に浮きぬ

子を負いてひとかたまりの影となり雪夜を歩みし記憶がかえる

 

大きな父の「マント」。

愛情深い父母の姿。

満州国の終わりの日のひまわり。

幼い心にくっきりと刻まれた愛と戦争の記憶がうたわれている。米川千嘉子(帯文より)

 

46版上製カバー装 2625円•税込

 

栗原佐智子歌集『反映の画廊』

コッペパン一つ齧りてフランスの美に憧憬れしわれもジョナサン

平成の危うき空に旅立てる『ロストターン』よ 我らも共に

他者とわれ短き一世の反映を小さき画廊にかかぐるわが短歌

 

A5版上製 2835円•税込

 

河野文子歌集『花の杖』

  この土地に梅柿植えて年々を梅柿たずね笑い合いたり

  老いるとは敗北ならず青空の下の歩行を友よ試みん

  ほろほろと画心湧けりすかし百合ささ百合描きて寂しさを消す

四六版並製カバー装 1700円•税込

 

太田裕万歌集『おじさんINインドネシア そしてそれから』

  一年は掛かったようだ あの国の言葉で寝言いわなくなるに

  ジャカルタはここより暑いでしょうねと大方が聞く軽く否定す

  冬薔薇きいろくひとつ空に伸ぶおやじの歳を三つおいこす

  四六版並製カバー装 2000円•税込

 

永冶智恵子歌集『日だまりに添う』

永冶さんは東京農大成人学校以来もう二十年近く、熱心に世田谷の短歌サークルに通って来られている。

その永冶さんが金婚式を機に、初めての歌集を出された。

定年を迎えし夫とはや十年小春日和の日だまりに添う

『日だまりに添う』は、人生の小春日和にやさしくまどろむ夫婦愛の歌集である。谷岡亜紀(帯文より)

 

四六版並製カバー装 1500円•税込