
定価:2,750円(税込)
判型:四六判上製カバー装
頁数:202頁
ISBN978-4-86629-376-9
第六歌集
右眼0.01という視力だけを頼りに世界と対峙し続けてきた作者である。
しかも「文字を喪ふそれだけを怖れてゐるわれにいつかその日は確実にくる」と作者に言わしめるように、さらに悪くなることはあっても良くなることの期待できない状態である。歌集名『視野が飛ぶ』に込められた作者の思いは深い。
しかし、白杖を自らの「目」として、作者は世界に積極的に関わっていく。
「あきらめず、めげず、気負はず、怯まず」と打ち消しの「ず」がわれを励ます
山梔子(くちなし)の実はまだあをきゆふぐれよわれに「これから」とふ時間あり
打ち消しの「ず」がこれほどの肯定的な力を持っている例を私は他に知らない。「視野が飛ぶ」不安のなかで、なお「これから」という時間に己の未来を託そうとする作者の歌は、私たちを励ますだけでなく、私たち一人ひとりが歌を持つことの喜びを再確認させてもくれるのである。 <帯文 永田和宏>
<引用五首>
「視野が飛ぶ」すなはち見えなくなることをいまは忘れて買ふサインペン
この指は触れて「見る」指われの蒔く種より芽吹く花のいろいろ
指先に触れて確認するための凸凹はないタッチパネルに
目を閉ぢてをれば狂気のごとき闇 ひらりと文字が虹色に飛ぶ
見えてゐたころのわたしが見たモネの睡蓮いまも記憶に咲けり