田中律子歌集『森羅』

定価:2500円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:202頁

ISBN978-4-86629-233-5

 

第三歌集!

 

田中律子の魅力は、歯に衣着せず、単刀直入に切り込んでくるところにあると、勝手に思ってきた。それは歌にもよくあらわれている。啖呵を切るといった短く鋭いフレーズが魅力の歌集でもあり、芯の強い女性を思わせる。しかし、

 

口かたく閉ぢたる貝が熱き湯に怺へつづけてゐる二、三分

 

と詠われる貝もまた、作者その人なのであろう。これほど人物像がくっきりと見える歌集も珍しく、またこれほど一人の存在そのものが心底寂しいと思わせる歌集も珍しいだろう。(永田和宏 帯文)

 

 

 

「なるほど」を二度言はれたら商談は成立しない ニューヨーク9時

 

深すぎる筥(はこ)だつたのだわたしには爪先だつて空ばかり見て

 

小径から裏道をぬけ白木蓮(はくれん)のあふれる路地に母みうしなふ

 

春生まれの私は春を病みながら すんすん芽吹くなづな、かたばみ

 

行きなさい 父のこゑするさたうきび畑をうねる風の洞(ほら)から

 

狗尾草(エノコロ)の穂絮がわれについてくる さみしいくらいがちやうどいい日だ