鈴木香代子歌集『あやめ星雲』

肉体をもたぬいのちは涼しからんあやめ星雲もはるけき人も

 

 

いのちに触れる。

今ここにあるいのち、

森羅万象を流れ行くいのちを歌う。

他界のまなざしをもって、

日常の生の起伏を見つめる時、

あたらしい鼓動が歌に宿り始める。

 

病廊をゆくいもうとは角曲がりふいに消えたりわれはおののく

祈るほかなけれど指は組まざりき此岸に一本の綱手繰るため

木もれ日の道はしばらく続きおり次の悲へゆく序奏のように

 

自閉症アスペとアガペ似ておりぬ独りの愛は独りにかえる

ゆるらかに水抱くコップ一生かけわれら不可逆の水運ぶなり