石井喜久子『更紗石』

銀嶺の赤城は雄々しさながらに関八州をべるごとくに

冬に月の魂しづめとぞ筆もてば墨の香しるく匂ひつつ立つ

亡びしは滅びの色の草もみぢ更地のままに秋立ちにけり

()の孫はけふははたちの祝膳かこめばほのぼの溢れくるもの

子らは去りふたりの老いにゆるゆると時は流れて小寒となる

 

過ぎ去っていった歳月のなかで、陰翳をもってよみがえる旅の記憶、亡き人々の顔、そして山河草木。目を閉じて、深く静かにこころをめぐらせれば、かれらは歌のすがたとなって現れてくる。