渡邉千恵歌集『神帰月』

 

白妙の雪纏いたる里山に昔ありけり竈の煙

ひと処ひたくれないに匂い顕つ田の畦過ぎてまた曼珠沙華

 時雨きて樹樹のもみじの深みたる篠脇山荘屋根の葺き替え

もののふの風雅つらつら敷島の道を照らして古今伝授は

舞うほどに花さんさんと山里に歌の心の配らるる宵

ちり敷ける桜絨毯ふみ急ぐ昼餉ま近き穀雨の道を

聳え立つ<(かみ)(かえり)(すぎ)>ゆさゆさと七百年の静かなる呼吸

 

 

雪の里山にしずかに立ちのぼる昔の煙。こちらの田の畦に、あちらの田の畦に、かがやくように群れ咲く曼珠沙華。岐阜県の郡上大和は、東常縁の古今伝授の里として文化的な面で知られているが、長良川沿いの自然豊かな地でもある。そんな郡上大和の文化と自然を、渡辺千恵さんが、ぞんぶんに自在にうたいあげた一冊である。佐佐木幸綱

 

四六版上製カバー装 2600円・税別