宮本清歌集『いとちゃんの息子』

風 寒し。エレベーターの工場の実験棟はただひとつ立つ

 

寒風に曝され「ただひとつ立つ」実験棟は作者自身なのだ。

自身の孤の姿をそこに重ねているのだと。

人が人として生きることの孤独、寂寥、苦さが本集のベースにある。

平林静代・跋より

 

「おれの場所」の文字残されぬ。今しがた中学生のいた橋の下に

八日目を生き抜く者もありぬべし。病院帰りに聞く 蝉しぐれ

利根川を快速電車がわたるとき、鴉の群れも共に渡りぬ

「いとちゃんの息子」と呼ばれ、「いとちゃんの息子」であったとつくづく思う

国と国の争いの種 またひとつ、芽生えて揺らぐ。島国日本

 

四六版上製カバー装 2500円・税別