松岡秀明歌集『病室のマトリョーシカ』

ホスピスへの入院希望を書く紙に誰の意志かを(ただ)す欄あり

それぞれの(せい)へひとみな帰りゆく追悼試合終はり日暮れて

わが横でメス動かせる相棒は裁縫上手な大阪女

嬰児(みどりご)の碧の眼濡れてあれば海原の始めここにありと見ゆ

森といふ器に母は寝転びて父なるわれは子を空に抱く

踊り手でありし男の病室にオディロン・ルドンの花咲きほこる

マトリョーシカ分かちてつひに現はるるうろをもたないさき人形

 

この歌集の著者は、精神科医であり、ホスピスの医師でもある。医師という仕事は、人間の死を、死んでゆく人によりそうようにしてごく近くで見る機会もあれば、鳥の視点のように広い大きな視野で冷静にながめうる機会もある。この歌集には多くの人間の死がうたわれていて、読者は、死を、当然のことながら生についても、独特の遠近法でうたわれた歌にであうことができる。          佐佐木幸綱

 

A5版上製カバー装 2600円・税別

 

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コメント: 1
  • #1

    仙山子 (木曜日, 23 3月 2017 13:04)

    言葉が物陰から顕れる美しい化け物のようで、怖いけれど目が離せない。心がグラグラしました。
    短歌が小説のようで、でも小説より短い分、こちらの想像をかきたてます。病院だから、ではなく、どこにでも物語はあるのだ、と感じました。
    初めて短歌で泣きました。愛して諳んじる一句があり、そのたび泣きます。どうしてこの言葉で泣けるのか、を自分なりに探求しています。
    出会いって素晴らしい。この本に出会えて嬉しい。ありがとうございました。