尾崎朗子歌集「タイガーリリー」

恫喝のやうに降る雨帰らねばならぬ一つ家まだわれにあり

ていねいに窓の結露を拭ひたれば硝子もわたしもすこし温もる

純情を暴走させることもなくタイガーリリーは胸に人恋ふ

アキアカネひとつ群れより零れ落ちわが中空に光(かげ)を曳きゆく

反論はしないけれども会議前トイレに眉根をよせる練習

 

尾崎朗子さんの作歌への情熱はすばらしいが、その炎の色は涼しい。さわやかな少女のような憧れと、社会的正義感とが同居しているところに持ち味がある、うたう対象に正面から向きあうまじめさが、明るく弾んだ抒情を生んでいるが、それが時にユーモアともなる。仕事をもつ女性らしいスピーディーな運びで結語をきめる正直さは天性のものだ。

馬場あき子

 

四六版上製カバー装 2400円・税別