上村典子歌集「天花」

文具屋の縦罫横罫あゐいろに秋のノートの無音は韻く

ひととわれ持たざる太郎まろまろと月の太郎は泛きあがりくる

乗り継ぎに走りくだりしおごほりの一番ホームもう用はなし

親切にあづきをのせてわかちゐし二歳は父と天花(てんげ)の庭に

雛の日の土曜ひながくあたたかしゆふかげと聴くジョアン・ジルベルト

 

光と影とのこまやかな明滅。それがこの世に在るもののすべてを照らし出す。たとえば、こらえきれない生の苦しみ、疼き、そして希い。

いま、歌という透明な灯を天の深みにともす!

 

四六版上製カバー装 2500円・税別