森田小夜子歌集『硝子の廻廊』

観覧車ゆるりと巡り思い出のかけらをひとつずつ汲みあげる

来年の桜をともに見ることを密かに願う密かに憂う

風つよき岬に立てば船出待つ帆船となる真白きドレス

丘の上に幸あるごとく丘のつく名の新しき町また生まる

新緑の樹々重なれる箱根山まなこ閉じてもみどりひろがる

てのひらに新しき家の鍵を載すひとりの船出の幽かな重み



抜群のユーモアのセンスで都会の寓話をうたいあげてきた作者が、夫の死と正面から向かいあうことによって、季節によって表情を変える自然の奥行き、人生の深い味わいをうたいはじめた。歌としての陰影を深めた第二歌集である。

佐佐木幸綱•帯文より


四六版上製カバー装 2500円•税込