木島泉歌集『虫たちの宴』

猫の子を猫っ可愛がりしておれば命とはこんなに暖かいもの
危ないよ早くお行きと待っている山鳥親子が車道横切る
水に浮く月をごちやごちや掻き混まぜて水黽たちの響宴続く
耳奥の蝸牛が老いて聞き取れぬ言葉車窓の風さらいゆく
花びらのひとつひとつに書けるなら百万べんも寂しい寂しい
猫語にて何か訴うる孕み猫雨ほそぼそとしぶく夕暮れ
血より濃いこの赤が好き 一輪の椿咲くまで机に置きて


狐が走る羚羊が飛ぶ。梟が鳴く亀が歩く。蛍がひかる大きなトチカンジョが好物の栗の木を食う。そんな自然ゆたかな郡上大和で、猫語や子猫語を自在に聞き分けながら歌を詠む。歌の源郷に連れてゆかれたような、豊かな気持ちそして懐かしい思いを味合わせてくれる歌集である。                

佐佐木幸綱
四六判上製カバー装 2500円•税別