吉田淳美歌集『水の影』

花びらがそれぞれ灯りを返すので夜の桜はこんなに白い
フライパンに玉子の白身伸びていき遠いどこかの半島になる
こんなにも天と大地は繋がりたいと思っていたのか降り止まぬ雨
ふるさとのことを聞かせてと言ったあと女は山ごと男を抱く
この先に家があるはずと辿りゆく真夏の道のやがて消えゆく
夕暮れの半ば開いてる交番に入っていくのは秋風ばかり

まぼろしを視る。いやそれが現実なのかも知れない。こころの裡に見え隠れする風景も、年とともに変幻自在の相を濃くしていく。歌が冴える。心がたかぶる。
四六判上製カバー装 2500円•税別