うぐいすの声の聞こえてふりむけばテレビの中の六月の森
遠雷のやがてとどろに近づきて光る投網を幾たびも打つ
しぐれ来て高野の山のほのぐらき女人堂よりタクシーを呼ぶ
ひたひたと日の傾けばこの街に補聴器店のまたひとつ増ゆ
縁側に新聞読むと妻に告げあとは静かな梅雨の水底
昭和十二年「霞町七番地」に生を受けた一つの命が、戦争を挟んで生きて来た、人生の記録としての短歌。対象を決して突き放すことなく、優しく肯定的に見守る温もりが、この歌集の最大の魅力だろう。谷岡亜紀•解説より
四六判上製カバー装 2500円•税別