中澤百合子歌集『青き麦なり』

この朝を始発電車の音を聞く醒めずに逝きし母のその刻

幼子の黄の傘二つ通り過ぎまた静かなり朝の坂道

海辺より道は始まる 糸杉の並木の果ての白き教会

少年は青き麦なり すんすんと母を越えたり喉仏見ゆ

父を恋う一日なりけり秋は石蕗の黄花ぬらして止まず

 

新築の家の二世帯用表札、幼子の黄の傘、少女らの他愛のないおしゃべり、閉鎖されたピアノ教室等々、どこの街にもある住民の日常生活のひとこまであろうが、中澤さんの観察に掛かると、それらが俄かに生き生きとした生命観を帯びてくる。 三井修•跋より

 

四六判上製カバー装丁 2500円•税別