土屋彰歌集『父は叫べり』

雑音の多いラジオに耳を寄せてゐた父は叫べり「日本は負けた」

煤竹で水鉄砲をつくりくれし種夫さん艦と共に沈みき

富士湧水の源泉といふ崖下の岩間の清水を手に掬ひ呑む

休耕田にもの燃す煙は夕茜を背にして立てる富士をかくせり

恒例の野焼きの跡の黒々と富士南麓の春三月は

 

敗戦。戦中を生きてきた作者の内耳深くに父の叫びは刻まれたままだ。敗戦後、富士の裾野で家業の汗を流す。豊かな自然との共生の日々ながら、悲傷のしらべは深くこころに沈み入ってくる。

A5版上製カバー装 2600円•税別