中川佐和子歌集『春の野に鏡を置けば』

春の野に鏡を置けば古き代の馬の脚など映りておらん

沈折の扇子の風のようなひと電話に細き声を残せり

独り居の母に日本は計画の停電の闇割り振ってくる

 

やわらかな詩ごころが呼び込む、鋭い定型の明滅する世界。

たとえば、横浜のとある街角で、どこかの美術館で、文学資料館で、

あるいは老母の家の庭で出会えそうな気がする歌だ。

まったき個性の横溢。写実の修練を積み重ねながら、いま新たに洗練された美意識が激しく胎動する。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込