道中を味わい触れし過ぐる世の田毎の月の鈍行列車
松平八代の廟にたたずみぬ戦国の世も蝉は鳴きしか
定年ののちUターンせしと知らせくるる携帯電話に蛙の声す
羽化しはじめた蝉のすがたを撮らんとし光さす間の静寂ながし
鈴木行雄さんの歌集の主題、詠う端緒となっているのは、予科練など作者の生きた時代であり、作者の体験に対峙している作品である。作品に込められたかなしみとくぐもった怒りは、生き残ったひとりとして、「死者を忘れるな」というメッセージでもあるだろう。(桜井登世子•跋より)
四六判上製カバー装 2500円•税込