渡辺幸一歌集『イギリス』

風の中の樹にならむとす異邦にてしなやかさこそ力であれば

詩人的分析家たらむと気負ひつつロンドン金融街(シティ)にありし歳月

春来れば北の異国に楚々と咲く桜の白き花を愛しむ

なつかしき人がわが名を呼ぶやうな優しき色の夕焼けに遇ふ

風のごとわれは逝きたし幾首かの詠み人知らずの歌を残して

 

ロンドンの金融街(シティ)。世界の経済・金融を動かす巨大な力と権謀術策の渦巻く世界の拠点。異邦人としてそこで働き、子と家族とを守り続けた。苦悩、嘆き、孤独、鬱、すべてが母国語日本、そして歌という定型へとひそかに収斂されていく。

歌はこころの望郷、歌はいのちの指針、一陣の生死を分かつ風。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込