とぶゆゑにこの世のさかひ踏みはづすことなく花をついばむ小鳥
産道を通るちからをおもひつつ母なる川のほとりをあゆむ
四国とは詩国すなはち志国なり誰もだれも死国といふな
夜更けまで手を握りをり離したらあの世へいつてしまひさうな父
父なし子になつたわたしの背さする大きてのひら欲しい今夜は
きららかに春のひかりを照りかへし内部の渦をみせぬ海峡
徳島県を故郷として住む著者は、四国は「詩国」であるという誇りと愛情をもっている。また一方で海峡をこえた遠い世界への憧れを抱いている点では「志国」の人と言える。そんな彼女が鳴門海峡の渦潮を自らの内面の葛藤が創り出したものと思っても少しも不思議ではないだろう。第一歌集から八年、彼女の渦潮は時に優しく、時に激しく、ますます豊かな輝きを見せている。
四六判上製カバー装 2625円•税込