吉野のぶ子『くぢらぐも』

庭樹木の季の移ろひ告げたくて紅き椿を遺影に供ふる

わが名もて親族、知人へ賀状書く所帯主とふ余生を生きて

ひとすぢの涼風わたりてわが膝の歌集めくれり昼のまどろみ

時折は遠回りして愛でたりし合歓の古木は今日伐られたり

如月に逝きたる夫ゆえ花どきの京にて納骨なさむと思う

 

亡夫君追慕のこころを連綿と継ぐなかに

ふるさとの自然をみつめ

そこに生きる人間の営みに

健やかなまなざしを放つ

 

そして古寺を巡り

旅の思いを 投影しながら

ひと日ひと日の歩みを重ねる

 

おみなひとりの生を

遊行の高みへと 運ぶ

久泉迪雄

 

A5版上製カバー装 2835円•税込