蒲ヶ原朱実歌集『未知なるもの』

定価:2,530円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:160頁

ISBN978-4-86629-302-2

 

第一歌集。

 

いまだ見ぬものたち。

いまだに逢えぬものたち。

手探りで、素志のままに、おだやかに。

日常の向こう岸に何かが動く、何者かがささやく。

平成の三十年間を詠み継いできたかけがえのない歌物語。

 

 

<引用五首>

 

産み終へて抜け殻のわれ耳鳴りも秋の夜ふけの闇にゆだねて

 

道端の穴の底ひに幼子は見えざるものを見るにあらぬか

 

未知のもの想ふは楽し例ふれば生まれくる子の性の別など

 

惑星の如く湯舟に浮かぶ柚子自転しながら吾に近づく

 

息ひそめセージの葉陰に動かざる夏の蜥蜴の孤独思ひつ

 

 

 


森朝男著『続 古歌に尋ねよ』

定価:2,200円(税込)

判型:四六判並製カバー装

頁数:228頁

ISBN978-4-86629-318-9

前著『古歌に尋ねよ』を継承した、珠玉のエッセー。

 

日本社会と日本人の生は、今、並々でない転換期を迎えている。こういう時にこそ、大きく遠い歴史をふり返ることが必要だ。短く読みやすい古典<和歌>を窓として、我々の<今>を抱えつつ、歴史的世界の人間たちに問を発してみよう。

 

▶▶主な項目

 

第一章 炉心溶融紀の十年

炉心露出の後に

もっと大地の方へ など

 

第二章 王朝 日本文芸の故郷

歌語という技芸

和歌の情感の成立 など

 

第三章 今 熱く学べ 日本中世

良経秋色

鴫立つ沢 など

 

第四章 色好みのモラリティ

色好みと鼻

恋と禁忌 など

 

第五章 和歌の造型と生態

和歌と古代国家

風景の成立 など

 

第六章 訪ね歩き 古歌の里々

香薬師よ、いずこ

桜田へたづ鳴き渡る など

 

 

「炉心溶融期の十年」は、高度技術時代に生きる我々の危うさと伝統的心性との関係を考える。

「王朝 日本文芸の故郷」「今 熱く学べ 日本中世」では、我々の

感性の源流と、その大変革期である中世の様相を、転換期の今日的課題に引き付けて思索する。また「色好みのモラリティ」では、今日なお変わらぬ、日本人の情緒的・美的なモラル感覚の源を究明する。・・・

 

▶▶著者について

1940年生まれ。早稲田大学文学部および大学院文学研究科を卒業・終了。専攻は和歌文学・日本古代文学。博士(文学)。フェリス女学院大学名誉教授。

 

 


高野昌明歌集『まはからびんか』

定価:2,640円

判型:四六判並製カバー装

頁数:204頁

ISBN978-4-86629-313-4

 

第三歌集。

 

道のり遠く 

時こそ長けれーーー。

 

 

並々ならぬ歌への執心。古きに学び、定型のしらべを感受していく。

さらば、ともに、おおいなる祝福を送ろう。

前方から聴こえてくる、古典という木霊に。

 

 

 

『まはからびんか』より五首

 

ぬばたまの夜長を鳴けよ秋の虫さらば嫁来む汝れこそ知らね

 

スーパーに一人男のカート押す姿増したるこの十年余り

 

春の雨かすかに降るを傘に聞き花朝市の主を待ちゐつ

 

弁当の投げ捨てられし空箱はしばしばなれば人の形代

 

仰ぐべき梢に花の咲かずんばひかりなき根の思ひや果てむ

 

 


松森邦昭歌集『しゃれこうべの歌』

定価:2,350円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:146頁

ISBN978-4-86629-297-7

脳神経外科医師の第三歌集。

 

しゃれこうべ―――。

どこか異様で、

もの悲しく、

どこか陽気で、

笑っているように

見える。

定型という器も

言葉を剥がして

しまえば同じこと。

さて、歌の行く先は

この世か、あの世か、

それとも?

 

 

『しゃれこうべの歌』より五首

 

どくろの眼 深い奥には穴のあり花も見ていた星もみていた

 

地球史の四六億年今日も暮れ昨日みた月またのぼりきし

 

わが棺をつつむ火群の静かなり焼けゆく身柄を我が見つめる

 

我が意思のおよばぬ言葉「さような」一人つぶやくむなしきままに

 

春立つ日望月やわく野に照りて木の芽花の芽こころ急かせる

 

 


丸山順司歌集『鬼との宴』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:192頁

ISBN978-4-86629-301-1

こころの裡なる鬼どもが騒ぎ始める

悲哀とユーモアをたっぷりと孕みながら日常がどんどんと浄化されていく不思議

作者の世界と覗いているものはいかなる鬼か

 

 

 

『鬼との宴』5首

 

ぶらさがるものはぶらんこ揺れもせずしんとだらりとさがりて真昼

 

真実の口へ右手を差し入れて手紙落としぬ手は無事なりき

 

 

ベランダの椅子に座れば見ゆるもの空しか無くて空を見てゐる

 

動くのを忘れて眠る丸むしをそつとつついて転がしてやる

 

このままでよいかと問はれそのままでよいと答へぬ あんぱん一つ

 

 

 


松浦彩美歌集『タイムレター』

定価:2,750円(税込)

判型:A5判上製カバー装

頁数:236頁

ISBN978-4-86629-279-3

 

第一歌集!

 

定型の基本に従って素直に生活実感をいつわりなく詠い、正直に純粋に真直ぐに詠み続けた作者が着々と詠み残した努力の結果が、そのまま本集に集約されていることに改めて眼を見張った。

御供平佶 序より

 

 

 

春の朝鏡にむかひ眉をひく胎動あれば手を止めて待つ

 

真夜中を打つ春のあめ雨音の向かうに荒るる湘南の海

 

初めての子離れの儀を助産師のためらひのなく臍の緒を切る

 

跳び縄と娘の顔交互にのぞく窓炬燵より見る正月二日

 

冷蔵の缶のビールの心地して子を待つ冬のグラウンドの夜

 

 


熊谷富雄歌集『曲り家』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:234頁

ISBN978-4-86629-274-8

 

第一歌集!

 

大企業を退職後に短歌を始めた作者に現役時代の

厳しい仕事の作品はないが、その後の10年の

生活の中から生まれた作品は自由で楽しい。

ふるさとを思い、父母、兄へ寄せる作者の心は温かい。

詠む人を和ませる善意の歌集である。

 

----------------------------------------------------------------中根誠

 

『曲り家』より5首

 

茅葺きの母屋と馬屋の曲り家よ浮きでる木目の柱を撫でる

 

五年経ち出版社よりわが作文採用と聞く『あたらしいこくご』

 

朝ドラの「おかえりモネ」のペダル踏む登米の町の武家屋敷通り

 

わが自転車(チャリ)は老体となり錆び付けどたらふく食えと空気入れを圧(お)す

 

主将の属す双葉翔陽高校の校歌作詞の兄はほほ笑む

 

 

 


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柾木遙一郎歌集『炭化結晶』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判並製カバー装

頁数:198頁

ISBN978-4-86629-275-5

第一歌集!

 

失われ、変わってしまった自らの「少年」を著者は探そうとしているのだろう。だがそれを直接追い求めたら、結果的にはそれを失うこととなってしまう。だから他者の中の「少年」を追う。そしてそれは常に、その時その時の具体的な少年の顔で現れる。

 ―森本平  「解説」より

 

 

 

 

『炭化結晶』より五首

 

空っぽな人間だから真っ白なページばかりの本になりたい

 

少年を轢いた列車のブレーキが人間らしき言葉を放つ

 

窓際で頬杖をつき、群れずとも生きられそうな君を見ていた

 

死んでゆく少年たちの微笑みを透かして淡く夏の銀河は

 

六月の無風の午後の曇り空、季節はこんな日に死んでいく

 


三友さよ子歌集『ことの葉にのせ』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:198頁

ISBN978-4-86629-272-4

 

第二歌集!

 

雪が来る ―。

言葉の恩寵を告げに来るように。

いのちが始まり、そして尽きるまでのつましい時間。

身めぐりの風景に寄り添い、そしてかぎりなく愛でる。

詩歌のまことをそっと小脇にかかえながら・・・。

 

 

 

『ことの葉にのせ』より五首

 

秘めごとのひとつ真綿に包みつつ箪笥の中へ金花虫蔵ふ

 

冴えざえと望の光に照らされて凍て空あふぐ雪の達磨は

 

 

朝の風わたる木陰に目をつむり夏の言の葉湧きくるを待つ

 

孤独なる蛙(かはづ)が岩間に鳴きつぎて春深き夜を語り尽くせり

 

森の香が少し欲しくて鉛筆の十数本を次々削る

 

 

 

 

 


二方久文歌集『みめいしす』

定価:2,200円(税込)

判型:A5判並製

頁数:152頁

ISBN978-4-86629-261-8

第二歌集!

 

ひらかれた言葉から拓かれる世界。

かるい言葉のなかに打ち込められたひとつひとつの物語。

その物語をわたしたちはいくつ立ち上げることができるだろうか。

「みめいしす」リテラシーの力である。

 

 

『みめいしす』より5首

 

この庭にシャボンの玉はうつくしくうまれ来ぬ子をくるくる映す

 

死の朝はあわきひかりか みちびかれモノレールという器に乗りぬ

 

威勢よく神輿が夜をかきまわすわたしひとりをのけものにして

 

いちじくのかおりにむせぶ 君はただいずれたれかの妻となるべく

 

表面をバターナイフでうっすらとけずるくらいのはなしでいいから

 


武藤義哉歌集『春の幾何学』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:202頁

ISBN978-4-86629-265-6

第一歌集。

 

合唱の声が次第にまとまって誰の声でもな声となる

 

それぞれに満月ひとつ詰められて販売される花札の箱

 

海中(わたなか)の世界で飛び魚が語り伝える風の体験

 

不思議な歌集だと思う。

この歌集では、しばしば現代短歌の主役をつとめる<われ><現在><人間>が主役ではなく、脇役をつとめたり、全く出てこなかったりする。

だからだろう、私たち読者は、どこに連れて行かれるか分からない楽しみと冒険とほんの少しの不安を味わうことになる。

ーー佐佐木幸綱・帯文

 

 

 

『春の幾何学』より五首

 

どこから来てどこへ行くかと駅員に根源的なことを聞かれる

 

光線が斜めにさして垂直に生命(いのち)たちゆく春の幾何学

 

たんぽぽの綿毛預かり青空はまたたんぽぽの配置を変える

 

さざなみにしばし休んでもらうため今朝湖は氷を張った

 

少しずつ薔薇色帯びてゆく宇宙 天文学者の晩酌進む

 

 


南輝子歌集『神戸バンビジャンキー』

定価:2,200円

判型:A5判変型並製カバー装

頁数:234頁

ISBN978-4-86629-255-7

これがジャズ!

これが青春!

 

ピュアに輝く

 

1960年代、ファンキー、クール、ソウルフル

米軍兵站慰安基地神戸港、日米安保の呪縛、

ヴェトナム戦争、激動する状況下

ジャズ喫茶神戸バンビの青春群像

ビート・ジェネレーションの末裔が熱く問いかける

 

君は、いまを、時代を、世界を、生きているかい?

 

 

 

『神戸バンビジャンキー』より5首

 

セルリアンブルーに眠れ ひと夜ぢゆう青をむさぼる青に埋もれて

 

セルリアンブルーの夢見のあとはるかわが魂が還つてこない

 

肉体へちよくせつ迫る夏の雷ロングホットサマーをひきつれてくる

 

オリオンの夜をうろつく狼のえりまき巻いて野生尖らせ

 

変はる変はる時代は変はるよディラン唄ふ変へやう時代扉こぢあけ(エポックノック)

 

 

 


山本枝里子歌集『無人駅』

定価:2,750円(税込)

判型:四六判上製カバー装

頁数:196頁

ISBN978-4-86629-213-7

 

汗ばめる首に冷感スカーフを巻いて佇む晴れ女なり

高速バスを待つてゐるまの解放感 雲の図鑑を鞄に入れる

かへる胸なければひとりきて立たむ無人駅こをわれにふさはし

 

海と山の美しい徳島の自然を背景に、社会を、身の回りの日常を、そして何より自分自身を、まっすぐに見、まっすぐに感じ、自在に思い、自在にうたう<われ>の歌集である。旅の歌が多く見られるのは、広く生き、多くを体験したいとのぞむ<われ>の歌集でもあることを示しているだろう。  佐佐木幸綱ー帯文ー

 

 

 

 

深呼吸してゐるやうに降る雨の音に目ざめて鳥の目をせり

 

たかく高く枝張る欅にふれてをりすきとほりゆく悲しみ一つ

 

色づいた順にしづかに離れゆき落ちてゆかない葉ののこる街

 

身の内に深き森あるいちにんの泉をくみにゆきたしわれは

 

白くきれいな指だつたひとその指に描かれ花となりゆきし絵具

 


川本千栄歌集『森へ行った日』

定価:2,500円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:196ページ

ISBN 978-4-86629-222-9

第30回ながらみ書房出版賞受賞!!

 

第四歌集。

 

風景が流れていく。

流れていく日常が堰き止める言葉。

いつしか分け入っていくことだろう。

記憶の向こう側からやって来る森へ。

形象の森へ、ひそかに。

 

 

 

満開のまだ一片も散らぬ花 生きている人は去って行く人

 

気の抜けた青いソーダの薄闇に時間失くして眠っていたか

 

ただ一度咳き込み死にし父ゆへにわれに介護の日々は来たらず

 

みごもらぬまま落ちている赤い蘂ぬれたアスファルトにむすうに

 

毎日の誰のためでも無い時間出勤する前花に水遣る

 

 


松森邦昭歌集『脳の海』

定価:2,500円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:162頁

ISBN978-4-86629-216-8

 

第二歌集!

 

季節のめぐりとともに在る。

旅とともに心の揺らぎが在る。

自らを語らず、老いを語らず、日常を嘆かずに。

脳外科医であるこの歌人の眼差しは

深い慈愛そのものだ。

 

 

 

転べども慈姑(くわい)の角(つの)には力あり寄るなさわるな一人でたつと

 

夏至の宵遊女すらりと立つごとくあやめは白き化粧うかして

 

皮下注射つまみし皮膚の伝え来るだるさ辛さや心の叫び

 

地球儀に絹のハンカチかけしごと海原おおう秋のたか雲

 

光あび春寒沼に亀ありて首ながながと花ながめおり

 

 


椎野久枝歌集『街川の四季』

定価:2,300円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:144頁

ISBN978-4-86629-208-3

街川の四季いち早く滔々と水の流れて夏の日反す

 

 

著者の住む地域を流れる街川は、信長が弟の信勝と戦った古戦場の名残の名塚取手、庚申塚が川辺にある。その街川の四季折々の情景に癒され励まされ、大切な心のオアシスとなっている。更に短歌のモチーフになり第二歌集になった。帯文(青木陽子)

 

 

 

 

淀みなく流るる川の音乱し鳶忙しく舞ふ影長し

 

年頭に夫の書きたる予定表死の翳りなど微塵のあらず

 

前向きの残生是とし声にして誓へば闇の開ける思ひ

 

若き等の声新鮮に受け容れて共にピザ食む異の空間に

 

易々と語れぬ事情幾つ経て劇団はやも二十年迎ふ

 

 


松谷東一郎歌集『平成カプリッチオ』

版型:A5判上製カバー装

頁数:206頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-184-0

 

 

第四歌集!

 

本音を歌える歌人は案外と少ない。

人間が面白くなければ歌も面白くない。

そんな作者ならではのフモールがキラリと光る。

心のうちなる自分を見事に抜き取り、正直に表現しきった。

かつて、この世に生きて、歌を詠んだ人間がいたことを証明する

圧巻の世界!

 

 

 

全身の水入れ替えて夏木立だんだん影を透明にする

 

高倉健逝きて日本男子のいなくなり体躯のなかの海鳴りやまず

 

湯豆腐はすこし崩れて生きてゐる人も生真面目すぎないのがいい

 

こつこつとわたしを呼びぬ葬儀の日柩のなかの亡骸われが

 

黒髪の白くなるまで妻のこゑ聞きたく思ふわが髪なくも

 

 


仲西正子歌集『まほら浦添』

判型:四六判上製カバー装

頁数:220頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-179-6

師・桃原邑子の志を継ぐというよりもっと自然に

沖縄での暮らしに根ざした詠わずにはいられないものが

仲西さんに沖縄や家族をうたわせている。

それは、意外なほどのスケールで、

世界や歴史を俯瞰させる力をもっている。

そのことを私は尊いと思う。

 

帯文ー久我田鶴子

 

 

 

 

                  たま

樹によれば樹、地に臥せば地の命なり 弾はずれて来て我を生みし母

 

ブラジルへ渡れず父はこの島で甘蔗の穂花の煌めきを見て

 

戦さ世に生まれし命も記名され平和の礎かなしき記録

              しーしうがん

十五夜におびき出されし男等が獅子御願の円陣をくむ

                      

産土を踏みし小さき黄の靴を手のひらに置き光に出だす

 

 


秋葉四郎著『茂吉からの手紙』

判型:四六判並製カバー装

頁数:208頁

定価:2,400円(税別)

ISBN978-4-86629-173-4

 

手紙は私信である。本来は世に出るものではない。

だが、直情であり、赤裸々であるがゆえに作歌の本質が覗く。

心のありよう、文学に対峙する真の姿勢が

巨大な火焔となって、メラメラと創造の虚空へ立ち昇る。

茂吉の厖大な手紙の量がそれだ。

斎藤茂吉記念館館長が熱く紐解く、茂吉という歌人の素顔。

 

<八人への手紙>

永井ふさ子への作歌助言

青年・哀草果への直言

才媛・杉浦翠子への場合

助力者・山口茂吉への親書

熱き血の歌人・原阿佐緒への便り

若き編集者・門人・佐藤佐太郎への書簡

最後の女流門人・河野多麻への手紙

次男宗吉・北杜夫への父の書状

 

 


三平忠宏歌集『館山』

判型:四六判並製カバー装

頁数:170頁

定価:2,000円(税別)

ISBN978-4-86629-170-3

 

房総の館山生れ。ひとたびは故郷を出て、

職を終えて帰郷。

海山のまばゆい陽光。一揆もあった。

終戦間際の緊迫感も体験した。

歌を詠むことで手繰り寄せられる

忘却の時間は、かなしみの形象だ。

安房びとの心は、敬虔な伝承者のように

歴史と社会と風景に向き合う。

 

 

明治より首都防衛の要塞を築きゐしとぞ東京湾の口

 

ひとつづつ枇杷に袋を被するは百年前の安房にて始めぬ

 

雲間より抜けし冬陽は大島に溶接アークを浴びせるごとし

 

燃え尽きし柴燈の燠を丸太にて叩きならせり火渡りの道

 

海に臨み空気の澄める館山は結核患者の療養地なりき

 

 


丸山順司歌集『チィと鳴きたり』

判型:四六判上製カバー装

頁数:170頁

定価:2,500円(税別)

ISBN978-4-86629-168-0

 

 

ものを見るとは自らのこころを見ること。

そんなつぶやきが風景の向こうから聴こえる。

悠々として自在。日常が詩となる瞬間に、

歌人はいくつものまぼろしに遭遇し言葉を吐き続ける。

 

第一歌集。

 

 

 

 

かなしきは夢に来る母 痛む膝おして夜道を帰りゆきたり

 

蜘蛛の巣にかかれる蟬のもがきつつ飛び去りしときチィと鳴きたり

 

つぶやきのごとくさざなみ光りをり夜の漁港に人影もなく

 

言ふなればちりめんじやこの一匹の気概といつたものかも知れぬ

 

午睡より醒めて抹茶を啜りをり曇れる空に虹見るごとし

 


村田光江歌集『記憶の風景』

定価:2500円(税別)

判型:四六判上製カバー装

頁数:240頁

ISBN978-4-86629-155-0

作品はみな現実を直視し説得力がある。

歌集には忘れ得ぬ記憶のさまざまが濃密に刻記され、語り継ぐべき風景や人との関係や少女期に体験した戦争の苦しみ等が確実に残されている。影山美智子「跋」より

 

 

 モ デ ラ ―

模型製作者を名のるわが子は異星人屋根裏に棲み日暮れまで寝る

 

息子三人兵に征かせし母の肩玉音に哭きてふるえやまざり

 

少年のごとき声して征きし兄野太き声となりて帰還せし

            なりわい

いだかれて撮らるることが生業のコアラ無表情にわれを見返す

 

梅並木は桜並木に負けず美し力みなぎる枝天をつく

 

 


衛藤弘代歌集『窓辺の時間』

定価:2200円(税抜)

判型:四六判並製カバー装

頁数:162頁

ISBN978-4-86629157-4

父が逝き、母が逝き、たいせつな友人たちを失った歳月。

そして、最愛の夫の昇天。子どものいない衛藤弘代さんにとって過酷な日々の連続であった。うたうことによってかろうじて自らを支えていた魂の記録の第三歌集。―恒成美代子 帯文

 

浅野川女なる川その川辺歩み行きしか泉鏡花は

 

夏の力残す西日に射抜かれて茶房セピアの窓辺の時間

 

野沢菜の花咲く畑を漕ぐように歩きてゆきけり夫よ夫よ

 

木曽奈良井鳥居峠の栃の実を並ぶる窓辺に秋の日は澄む

 

思い出づるみな青春につながるをなかんずく金沢の雪の片町

 

 

 


いずみ司歌集『もう一杯のスープ』

判型:四六判上製カバー装

頁数:188頁 

定価:2500円(税別)

ISBN978-4-86629-148-2

短歌の世界へ出立した十八歳の少年は、すでに対象を見据える確かな目と、それを支える柔らかな感情の働きとを兼ね備えていた。

第一歌集『いちょう樹』上梓以来五十余年、ひたすら詠み継いできた日常生活の哀歓が、奥行きのある作品となって、ここにある。

                    野地安伯 帯文

 

 

蟻地獄の底へ底へと滑りつつひたすら探る上向きの岩

 

怖ず怖ずともう一杯のスープ乞うなじむ間もなき職場の昼餉

 

根府川の駅を過ぐれば静かなる夏の光に海広がれり

 

午後の陽を顔いっぱいに受けながら妻か買物下げて上り来

 

乳足りて笑まう赤子は囲まれぬ母とその母そのまた母に

 

 

 

 


山口明子歌集『みちのくの空』

判型:四六判上製カバー装

頁数:200頁

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-138-3

 

 

 

『みちのくの空』より5首

 

岩手山は白を激しき色としてみちのくの空占めてかがよふ

 

野生化せし浪江の牛ら飼ひ主を待つごと待たぬごとくさまよふ

 

をりをりに我にさからふ少年の面の確かさ速さ鋭さ

 

月一輪凍湖一輪響き合ひましづかに鳴る冬の音楽

 

スポットライト当てる君にも隙間より夕べのほそき光来てをり

 

 

 


谺 佳久歌集『夢幻歌伝』

判型:A5判変型上製カバー装

頁数:166頁

定価:2300円(税別

ISBN 978-4-86629-137-6

 

第一印象は、やはり処女歌集の「全力投球」「啄木調」が貫かれているということだ。

狂気の「赤」、赤貧の「赤」。

その「赤」の世界から、どん底から再び這い上がって、次のステップを踏み出そうとしている。

 

村田道夫「解説」より

 

 

 

『夢幻歌伝』より3首

 

たまらなく君に逢いたきこの夕べ激しき色のネクタイ結ぶ

 

月曜の朝はキキキキ泣く子なり センセイがやだ! ピーマンがやだ!

 

曼殊沙華燃ゆる野広し気がつけば失職の身を染められていた

 

 

 

 

 

 


鈴木通子歌集『モノクローム』

 

 『モノクローム』より5首

 

障害ある児は別れし父親を出張中といまだに言うも

 

障害ある二児持ちたりと語るとき人おどろきて我を見給う

 

子を残し去りし夫よなれもまた母と別れし少年時代

 

語らいはつきることなし障害者の友と障害者の母なる我と

 

夕映えの華やぎもちて急ぎゆくかけがえのなきひとときのため

 

家族を置いて去って行った父親を、出張中と告げる児を視つめている母親の心情は察して余りあろう。

その優しさが、作者をして鬱の病を持たせてしまった一因であることを思うと、誠にせつない。

 

 

判型:四六判上製カバー装

頁数:188頁数

定価:2500円(税別)

ISBN 978-4-86629-094-2

 

 

 

 

前川多美江歌集『水よ輝け』

朝空の光あつめて直立す原爆落下中心地の碑

花をくぐり竹山広に会いに来ぬつくづく死者は声あらぬ人

七十年後のこの生徒らを思いみる献水桶の水よ輝け

観覧車あけゆく空にゴンドラの鋼の滴吊りさげており

お母さんと呼ばれていたら一回り大きな傘を持ったであろう

 

これまでの三冊の歌集を通して、反戦・反核の思ひ、そして早世した子への鎮魂の思ひは前川多美江さんの短歌の底を流れるものとしてあつた。そのことは今度の歌集においても変わらない。一生をかけて詠み続けるテーマを自らに課すことの大切さをこの歌集は教えてくれる。(馬場昭徳・帯文)

 

A5版上製カバー装 2600円・税別


松平修文歌集『トゥオネラ』

窓外は暮れ、青炎のごと燃ゆる薔薇幾つ風に揺れてくづれて
誰も信じるな、何も信じるな 冬森で茸をさがす老婆のやうに
樹や草の役多き劇 少年も少女も人間の役やりたがる
日暮らし雨は男待つ日の陰雨(ながあめ)で、尿雨(ゆまりあめ)は男見限る日の俄雨(にわかあめ)
夜空の果ての果ての天体(ほし)より来しといふ少女の陰(ほと)は草の香ぞする
歌集『水村』が、雁書館から刊行されたのは一九七九年九月。
『水村』に寄せる冨士田元彦社主の期待は並大抵ではなかった。
一升瓶をしつらえ冨士田さんを待たせながら、
解説を書き上げた夜のことなどが懐かしく思い出される。
・・・・・とまれ、第五歌集『トゥオネラ』四百八十五首掉尾を前に、「窓外は暮れ、」の一首が燃えながら立つ。(福島泰樹・栞より)
四六版上製カバー装 2600円・税別

 


宮本清歌集『いとちゃんの息子』

風 寒し。エレベーターの工場の実験棟はただひとつ立つ

 

寒風に曝され「ただひとつ立つ」実験棟は作者自身なのだ。

自身の孤の姿をそこに重ねているのだと。

人が人として生きることの孤独、寂寥、苦さが本集のベースにある。

平林静代・跋より

 

「おれの場所」の文字残されぬ。今しがた中学生のいた橋の下に

八日目を生き抜く者もありぬべし。病院帰りに聞く 蝉しぐれ

利根川を快速電車がわたるとき、鴉の群れも共に渡りぬ

「いとちゃんの息子」と呼ばれ、「いとちゃんの息子」であったとつくづく思う

国と国の争いの種 またひとつ、芽生えて揺らぐ。島国日本

 

四六版上製カバー装 2500円・税別


御供平佶全四歌集

収録歌集

『河岸段丘』『車站』『冬の稲妻』『神流川』

戦後四十年を日本に存在して昭和とともに消え去った「鉄道公安」を、私が経験した後半の二十年を区切の既刊歌集四冊の作品全体を見直して、ひとまとめにしたものがこの一冊である。

 

『車站』

 ぴりぴりとわが青ざむる顔をすぎ彼の視線は鞄に坐る  
 バッグ割る指の見えし瞬間の充実の感替ふる何がある

 超越を心に重く年の過ぐ美学のくだり超えよわがうた

 

3000円・税別

 


南輝子歌集『War is over 百首』

悲しみをかなしみつづける父がゐる南十字星の心臓のあたり

「もしやもしや」

 

夜ひらくササン朝ペルシアの古星図は露にしめりて吸ひついてくる

「南十字星」

 

青空をめまひするまで仰ぎゐてこころ躓く青あをすぎる

「青空」

二黒土星(きのえ)(さる)歳昭和十九年われ月下に生れき月びかりさせて

「塚本邦雄の青春」

 

ムルソーの太陽はとつくにない 闇は濾過しても闇ゆすつても闇

PUNK ROCKER

 

私も、両親が戦争体験を抱えた世代である。おりにつけ聞かされた逸話から、著者や私自身がこの世に生まれた事の希有さを思い知る。平和を相続していくことも、幾多の困難を克服せねばならないのか?そのことに対する感慨を、南輝子は100の歌にして問いかけている。 塚本靑史・帯文より

 

 四六版上製カバー装 2500円・税別


森みずえ歌集『水辺のこゑ』

娘を乗せて電車曲がりてゆきしあと駅のさくらのしんと匂へる

生まれたる水辺のほかをまだ知らず水とりのひな母に従きゆく

ひしめきて稚魚のぼりくる朝の潟はなのやうなる海月も混じる

雪やなぎ白たわわなるその下に二人子睦みゐたる日のあり

森の上にひとたび浮いてゆつくりと水に降りゆくしらさぎの脚 

 

鳥の声、虫の声、風に揺れる木々の声。

みんな純真な嬰児(みどりご)のように思えてくる日。

誰かがどこからか私にそっとささやきかけてくる。

 

もう、急がずに衒わずに

歌を詠めばいいのだよ。

 

四六版上製カバー装 2500円・税別

  

松岡秀明歌集『病室のマトリョーシカ』

ホスピスへの入院希望を書く紙に誰の意志かを(ただ)す欄あり

それぞれの(せい)へひとみな帰りゆく追悼試合終はり日暮れて

わが横でメス動かせる相棒は裁縫上手な大阪女

嬰児(みどりご)の碧の眼濡れてあれば海原の始めここにありと見ゆ

森といふ器に母は寝転びて父なるわれは子を空に抱く

踊り手でありし男の病室にオディロン・ルドンの花咲きほこる

マトリョーシカ分かちてつひに現はるるうろをもたないさき人形

 

この歌集の著者は、精神科医であり、ホスピスの医師でもある。医師という仕事は、人間の死を、死んでゆく人によりそうようにしてごく近くで見る機会もあれば、鳥の視点のように広い大きな視野で冷静にながめうる機会もある。この歌集には多くの人間の死がうたわれていて、読者は、死を、当然のことながら生についても、独特の遠近法でうたわれた歌にであうことができる。          佐佐木幸綱

 

A5版上製カバー装 2600円・税別

 

三井修『汽水域』

 

 

 

 

 

バーボンの水割りふふめば北溟を一人ボートに()く心地する

 

屋上に見下ろす地には試歩の人それに付き添う人のしずけし

 

抒情詩(リリック)叙事詩(エピック)鋭く交差するアラビアなりしか 若く旅しき

 

一瞬といえども我はしかと見つ翔びゆく蜂の垂れいる肢を

 

 

浅き瀬を腹擦りながら上りゆく魚らは今日を婚姻の色

 

 

 

やわらかな言葉、おだやかなしらべ。

 

社会や生活の現実を真摯に見つめ、身めぐりの自然に心寄せながら、

 

この定型の過剰を削ぎつつ詠う。

 

いまだ見ぬ美の高みへ、そしてたましいの深みへと向かう孤高の翼!

 

  

A5版上製カバー装 2800円・税別

三輪良子『木綿の時間』

 

子を三人(みたり)生みて育てし歳月はたとへば木綿のやうなる時間

要介護5の<5>は鍵のやうな文字 春のとびらをこじ開けてくる

向きあひて(いん)(げん)のすぢ母とひく つういつういと日のあるうちに

虹のまた向かうに虹の立つ夕べ過ぎし人らの影を照らせり

崇福寺 正覚寺下 思案橋 サ行の(おん)の響きあふ町

 

家族をテーマにした一冊と言っていい。三人の子を育てた時間を「木綿のやうなる時間」と歌っている。木綿といえば、肌ざわりがよく、じょうぶ。通気性がよく涼しい、また厚手にすれば温かい。三輪さんはきっと「木綿のやうな」母親だったのだろう。

 

伊藤一彦・跋より

道浦母都子歌集「無援の抒情」(新装版)

明日あると信じて来たる屋上に旗となるまで立ちつくすべし

ガス弾の匂い残れる黒髪を洗い梳かして君に逢いゆく

君のこと想いて過ぎし独房のひと日をわれの青春とする


70年代、全共闘世代をひたむきに疾走し、純粋な生の輝きを高らかに詠った。時代を超えて今なお愛唱され、あらたな感動をもたらし続ける伝説の歌集がここに蘇る!

 

四六版上製カバー装 1852円・税別

町田勝男歌集『憧憬譜』

いただきをひとり占めして胸はだけ峠の山風身に沁みにけり
日苔のる栽松院のいしぶみにまかり撫づれば碑面ぬくとし
妻とあゆむ林のみちに金蘭をいくつかぞへる朝のよろこび
一服の狭山新茶のすがしさに鮪跳ねてゐいる大間の湯呑み

氏の歌を読むと、いにしえを想う歌があるが、何かもう、「うぶすなの土地」という感じがしてくる。
名もない里山や川を愛し、折をみては散策している。
別に目的があるわけではなく、思うがまま歩き、自然のなかに躰をゆだねている。やはり氏は、自然と遊ばなければ本質は出ない。 

福田龍生・解説より

四六版上製カバー装 2500円・税別

丸山律子歌集『シャウカステン』

砂利を踏む軍靴乱るる音のごとし葉月の朝の心の鼓動は

背を丸め草引く母の姿なる庭石ありて青き苔生す

今日からは姉さま女房なるを告げ写真の夫と酌む誕生日

山里を墨絵に鎮めふり続く雨の信濃は冷えまさりゆく

湖わたる風温もりて穏やかに芽吹き柳をなびかせて吹く

 

丸山さんの歌の特色は、観察眼の鋭どさと冷静さ、そしてその表現のきめ細かさや明晰さにある。

内藤明・跋より

 

四六版上製カバー装2500円・税抜

森田小夜子歌集『硝子の廻廊』

観覧車ゆるりと巡り思い出のかけらをひとつずつ汲みあげる

来年の桜をともに見ることを密かに願う密かに憂う

風つよき岬に立てば船出待つ帆船となる真白きドレス

丘の上に幸あるごとく丘のつく名の新しき町また生まる

新緑の樹々重なれる箱根山まなこ閉じてもみどりひろがる

てのひらに新しき家の鍵を載すひとりの船出の幽かな重み



抜群のユーモアのセンスで都会の寓話をうたいあげてきた作者が、夫の死と正面から向かいあうことによって、季節によって表情を変える自然の奥行き、人生の深い味わいをうたいはじめた。歌としての陰影を深めた第二歌集である。

佐佐木幸綱•帯文より


四六版上製カバー装 2500円•税込

光本恵子エッセイ集『人生の伴侶』

「自分のルーツを探して旅することも、自己確認のために詩歌を作ることもあろう。「短歌は自分探しの旅」でもある。本来、作品の創作はひとりでやるべきものであろう。結社のバックボーンに支えられ安心して孤立することなく、独立と自立の精神で短歌創作に気持ちを傾けている。

(本文中「孤独と孤立」より)



この細き一筋の道をたどるよりほかなしーー

やわらかで自在なこころと強靭なたましい


「口語自由律短歌」の道を生涯貫き通した先師•宮崎信義の志を継ぐ著者の、信州諏訪の地から発信され続ける清新なエッセイ集!


四六版並製カバー装 2500円•税別

三澤吏佐子歌集『シャドーグレー』

今日は少し疲れてるのハロウィンのカボチャのように笑つてみせる

沈黙の時の間に逃げ込めばシャドーグレーに黄昏れてくる

温かき飲み物売れる自販機の身内のやうな親しさに佇つ

工事場の乾いた闇の点と線繋ぎ合はせてるバリケード

手袋のままで握手をするときの皮膚感覚に二月過ぎゆく

鉄色の夜を帰りきて掌に除菌のソープ泡立ててをり

 

神職の身にある三澤吏佐子が、長い沈黙を破って、『遺構』以後の世界をここに繰り広げる。混沌とした「今」を生きる者のひとりとして、揺れつつ軋みつつも世情を俯瞰するその目差しは鋭く、そして優しい。〈シャドーグレー〉は光が強ければ強いほど深く濃くなる影の色。それは現代社会を象徴しているのだ。詩心の深化が際立つ。

野男•時田則雄

四六判上製カバー装 1800円•税込

服部幹子 松井香保里 円子聿 山岡紀代子合同歌集『ゆづり葉』

服部幹子『花びら餅』

 花びら餅に新春祝う母と吾かく睦み来し幾歳月を

 一夜明け清しき正月雪積みて初穂飾りに雀の群るる

 

松井香保里歌集『胡蝶の夢』

 岐阜蝶は寒葵の葉を食み育つしぶきその花葉陰にひそと

 奥美濃の明るき山路に巡り遇ふ春の女神の岐阜蝶の羽化

 

円子聿歌集『ひびき』

 角ひとつ曲がる街路の花水木春めく風にやさしさを添ふ

 うす曇る春の霞に花水木幾つ街路を紅に染む

 

 

山岡紀代子歌集『みすずかる』

 木遣歌社に木霊し樅の木の依代と立つ八ケ岳背に

 拝殿の四方を囲める御柱寒の蒼空に凛とし立てり

 

 

A5版上製カバー装丁 2500円•税別

 

村島典子歌集『地上には春の雨ふる』

にんげんは必ず死ぬと告げられて地球の出づる月の平原

入口は出口なるべし診察室の扉のなかは真つ青な空

青ぶだう紫ぶだう水晶のごときしづけさ死者のいきざし

この島をえらびて棲みしわれの子の胎にありにし日のごとき海

花ゆれて夕暮あましこのくにを愛するものら野をわたりゆく

 

苦しみ、悩み、かなしむほどに歌は異形の輝きを見せる。大和吉野、近江、沖縄•渡嘉敷の風土との邂逅を経て。前登志夫にもっとも近い詩的磁場で、今なおこの世に他界を見続けている。

四六判上製カバー装 2500円•税別

 

 

三島郁歌集『レクイエム』

六本木、いや六本松とわれら呼ぶ若く貧しき青春のヒル

集ひきて肩組み寮歌うたはむか「燦爛夢の」淡あはし夜は

わが干支の午はなにいろの夢を見る馬の目を借りのぞいてみたい

散歩好きのレノンの幻追ひたづぬセントラルパークも再びの夏

伝説の「子消し」の罪を償ふかなべてコケシは無心に祈る

 

〈桜狩短歌会〉に入会してからは、七十も半ばを過ぎていたせいか、多くのものを見ておこうと、あちらこちらに足を運んだ。その折々に目にしたものをなるべく自然体で詠もうと心掛けてきた。ただその底にはいつも鎮魂の想いがあった。『レクイエム』とした次第である。ーあとがきよりー

 

四六判上製カバー装 2300円•税別

昭和9年生れ歌人叢書4『まほろばいづこ 戦中•戦後の狭間を生きて』

こうした仲間をもてることは、私たちのこれからの生をより豊かに、温かくしてくれると思う。

戦後、奇跡のようにつづいた戦争のなかった時代にも、最近は変化が兆しはじめている。

そうした時点において、本会の意義は一層重要さを増している。各自の戦中•戦後の体験記であり、戦争の無い世界への熱い祈念である本書が、会員のみならずひろく一般にも読まれ、後の世代の平和に貢献できるよう、心から願っている。結城文•序より

 

軍歌からラブソングへ         朝井恭子  

少年のころ              綾部剛   

灯火管制               綾部光芳

鶏の声                板橋登美

ニイタカヤマノボレ          江頭洋子

戦の後に               大芝貫

語り部                河村郁子

昭和二十年八月十五日         國府田婦志子

戦中•戦後の国民学校生         島田暉

空                  椙山良作

確かなるもの             竹内和世

村人                 中村キネ

太平洋戦争ー戦中•戦後         花田恒久

氷頭                 林宏匡

記憶たぐりて             東野典子

少年の日の断想            日野正美

宝の命                平山良明

空に海に               藤井治

戦中戦後               三浦てるよ

椎葉村にて国民学校初等科の過程を卒う 水落博

夏白昼夢               山野吾郎

生きた時代              結城文

ひまの実               四元仰

 
並製冊子版 2000円•税別

森上結子歌集『雪の花』

くろぐろと墨塗りたるを原点となしたるはずの教科書なりき

離郷して四十数年夫娘亡し思い出ただに詰まるこの町

何も見えないこの道だけどもう少し歩いてみよう 何が在るはず

ひさかたの天の浄めの雪の花そそげよそそげ父娘(こ)の墓に

受話器置き呆れたる目につけっ放しのテレビが映す東京のさくら

 

教科書に墨を塗った世代が生きづらい今の時代を渾身に生きようとする歌の数々が並んでいる。教師としてともに歩んだ亡き夫、障害者であった亡き娘を偲ぶ晩年の日々。透徹した目がとらえた日常は読む者の心に響く。  玉井清弘

 

四六判上製カバー装 2500円•税込

 

森屋めぐみ歌集『猫の耳』

部屋の隅に離れて眠る猫の耳ときどき我を確かめている

雷鳴にゾワリと全身逆立てて立ち上がりたり二匹の猫は

真昼間のゴールデン街毛繕いする猫以外動くものなし

端無くも幽明界を異にして父と真昼の雨を見ている

 

作者の猫の歌の特色は、猫をよく見て、よくよく観察していることである。猫好きの人は、猫の写真集だけではなく、猫のエッセイ、猫の短歌まで愛読すると聞く。この歌集は、猫好きの人たちに愛読されることになるだろう。

佐佐木幸綱•跋より

 

四六判上製カバー装 2500円•税別

南鏡子歌集『山雨』

ほうほうといのち浮き立つ春日(はるひ)なれ むらさきの鶴みづいろの鶴

ひんやりと萩の風くる夜明けがた月もうさぎももう消えて

誰も居ぬちちははの家山雨して梅のあを実に酸こごる頃

雨の日は車前草もひくく濡れてをりあをいいのちの雨のおほばこ

 

南さんの歌はすみずみまで充実して、満ちている。どこもとんがっていない、壊れていない。さびしいさびしいと訴える歌が目に立つが、その「さびしさ」こそ充実してつやがある。  光田和伸•跋より

 

46判上製カバー 2500円•税別

三田純子歌集『桃色の麒麟』

桃色の麒麟とう名のつつじ咲く近くに寄りてしみじみと見る

本郷は母の育ちし町なれば行きかう人の肩あたたかし

再びの逢いはつかの間ひとり乗る「ひかり」6号車がら空きのまま

母居れば開けたであろうロゼワイン開けることなく年越えゆけり

抽斗しにいまも残りし父からの旅の葉書の海の碧さよ

 

人がいずこへともなく行き交う。

風景が黙ったままで目の前を通り過ぎていく。

そんな日常の中に「一瞬の生を輝かせよう」

と説いた先師•山田震太郎の教え。

「聖体」として結晶していく歌の数々!

 

四六判上製カバー装 2380円•税込

宮間ミエ子歌集『ふうかし』

「ふうかし」と呼ぶ古里の浅蜊汁貝殻音たつ母の思い出

難病の夫が殺せと荒む日の黙してわれは米を研ぎおり

取れそうで取れない高さもどかしく夕焼色の烏瓜ゆる

夫看取るための退職明日からの見えぬ不安は神にゆだねる

決めかねる事を思いて乗る電車中吊り広告ゆらりとゆれる

 

「ふうかし」という歌集名。浅蜊汁の味噌汁のことだという。木更津では戦前戦後、いくらでも浅蜊が獲れたとうかがった。語源はよく分からないという。…晋樹隆彦•跋より

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

 

町田勝男歌集『寂さびと一人旅』

しろがねのつらなるはるか向かうには女(め)の神の棲む雪の蔵王が

鋭角の冬の木立にしづみゆく大き日の輪のあかね 色をかへゆく

梓川はあをさもあをし雪解水の瀬おとすがしく時にうづまく自在

まなかひの秩父の山の蒼ければ、雪ふるきざし吹く風も凍む

湧きあがりながるる雲はたまたまに人のかたちとなりてくづるる

 

真実寂しく抱きつつ

なにを求めんと杣たどる

真実むなしきものならば

みちのくの山にきて

寂さびとものおもう

 

四六判上製カバー装 2730円•税込

前川多美江歌集『水のゆくさき』

港より立ちあがる街長崎の五月の空は海照りの光

八日生きし子も一族の紋のうち両手にかこむ壷にねむれる

睫毛まで千涸ぶ泥に固まりて砲を曳く馬立ちつくしおり

八月一日わが撃たれし空襲に崩れし町の写真を見たり

白濁の視界の端にみえてくるわが家の庭の夏葉の椿

 

生家跡 爆心地にむく石垣が石の鱗を落としはじめぬ

 

久しぶりに訪ねた生家跡の石垣。原爆の閃光を浴びたその石垣の表面が剥がれ落ちるのを、「石の鱗」とした比喩が巧みであるし、歳月を越えて被爆体験を作者にありありと蘇らせる。馬場昭徳(解説より)

 

 

A5判上製 2730円•税込

 

村山伀歌集『ふぶき鳴り』

卒業の子らが糸寄せ編みくれし赤きセーター妻に着て見す

うつつなくひばり見上ぐる生徒らの幾人ゆるし授業すすめる

走り込みジャンプ一番額(ぬか)で打つボールは瞬時に防御を破る

 

鴻の鳴き渡る雪の〈新潟〉。

風土に随い、瑞々しい魂のさやぎを

長期にわたりロジカルに、

ファンタスティックに彫琢した。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

 

三橋たまき歌集『玉響』

心の火かきたてかきたて生ききたりいまたまゆらのやすらぎのなか

満たされてあるものやよし春の宵ひとはやさしく言葉を紡ぐ

若き日を識るは楽しきさりながら若き日のみを知るは切なし

冬の樹々黙すのみなりにんげんはやさしきことばかたみにもてり

気まぐれな少し破調な人生も悪くはないさ虫の夜となる

 

作歌半世紀の軌跡は決しておだやかなものではなかった。

いま、ひととき、人生の安らぎの時間と場を得た。

しかし、歌は眠らない。

さらに深まり、いよいよ命の実相への問いかけが始まる。

 

四六判上製カバー装 2625円•税込

森内道夫歌集『馬を与へよ』

山脈のあなた夏雲湧くあなた少年の吾に馬を与えよ

浜風に二匹の蝶の天降りてきて日傘の妻を越えて消えたり

馬の来し跡あまたなる水の辺に夕迫り来る阿蘇の山風

 

森内さんの歌は、いつ、どこで、誰が、といった「5W1H」が省略されている。

そのために読み手は想像するしかない。

浅読みや深読みが可能な文体であり、それゆえに面白いとも言える。恒成美代子跋より

 

 

四六版並製カバー装 2000円•税込

 

森朝男著『古歌に尋ねよ』

=完売しました=(電子書籍化を検討中です、お問い合わせ下さい)

=第20回ながらみ書房出版賞受賞!=

 

和歌は、今日なお生産的な読み物でありうるか?

鬱蒼とした、その森へ

我々の現在をひき抱えつつ、呼びかける。

 

歌誌「心の花」十年間の連載をもとにした本書は、

古事記、万葉集から近代和歌に至るまで、古歌を広く猟し、

文芸的に、人生的に、自然観的に言問うた一冊である。

 

46版上製カバー装 2000円•税込

造酒廣秋歌集『秋花冬月』

夕つ日にすくはれてとぶ鳥のむれ時雨すぎたる空があかるし

くちづけのあつきひとときわが視野のけぶるがごとくあをあをとせり

秋ははや釣鐘人参咲きにけりふるさととよぶうすきくらがり

背びらきのさかなのやうに扁平になりて眠れるゆふぐれの父

たかむらをなぎゆく夜の秋の風ひとにかへせば手はあたたかし

薄紙につつんで桃をつめあはすやうに心を並べてみたい

 

歳月は人を孤独にする。

出会い、別れのくりかえし。

ひときわ人を恋しいと思う時、なつかしいと思う時

歌は密かに三界を語り始める!

 

四六版上製カバー装 三〇〇〇円•税込

 

森口和歌子歌集『潮騒』

陽に叩く炬燵蒲団よりぽろと落つ貼りつきし餡は母の好物

薔薇のとげに刺され指より吹き出づるこの鮮血はわたくしのもの

 

四六版上製カバー装 2,625円•税込

 

美帆シボ歌集『人を恋うロバ』

■在庫ございます■

 

フランス語と日本語で、原爆を、平和を、日本を、世界を考える。

美帆シボさんは、フランスに住み、フランス語圏に原爆の実相を伝える活動を展開している。

ヨーロッパと日本の人や風景を、知性的かつ清潔な抒情でうたいあげた待望の歌集である。

 

佐佐木幸綱・帯文より

 

四六判上製カバー装 税込2625円