山内嘉江『ガラスのはこ』

 

眠られず独り苛立つはくめいのあさがほは今ひらきつつあるか

腹這ひてSFよみゐる少年の羽ばたかむばかり大き耳たぶ

北風のくぐもりうなる如月のはげしきものぞ春来ることも

昨日来たる山鳩ならむひつそりと雪降る枝に胸をそらして

下葉枯れつつ花穂かかぐる藤袴むかしの秋にまた邂はめやも

 

『ガラスのはこ』の歌稿を手渡されて、翌朝に入院し、病室の床頭台に広げて目を通しながら、私は不思議の感に打たれた。そこに並んでいたのは、このひとが平生、見せない種類の歌が多かったからである。人間の頭はどういうつくり(・・・)になっているのだろう、私はその時、二十年前の揚羽蝶の紫を思い出したのである。               

光田和伸・跋より

 

四六版上製カバー装 2500円・税別