岩井幸代歌集『アダムとイヴの手』


 

 夫逝きて家は四角のただの箱薄羽蜉蝣の持ち去る家庭

 

絡み合う君と我が四肢白亜紀の海に漂うひとすじの藻

 

教会の塔の先より明け始むドナウは黒き眠りのなかに

 

冬の夜のラフマニノフの「ヴォカリーズ」心に積もる雪の眩しさ

 

アルゼンチンタンゴ流れる古きカフェ仄暗き灯に沈むひととき

どうしようもなく悲しくて、悲しい思いを書いているうち短歌になったので、短歌を真剣に勉強しようと決めたのだそうです。まっすぐな人だと私は思いました。切ない感動を与える歌集です。  角宮悦子

 

四六版上製カバー装 2500円・税別