岡一輻歌集『狂詩曲-rhapsody-』

花手折り供へむ仏もあらずけり 身裡に餓鬼を養ひいるに

多宝塔にのぼりしままの鼠なり 揺れに怖づつつ逃げるのならず

大型の業務用の冷蔵庫 かなしきものや値段の五円

八熱のうらに八寒地獄ある 後の世しらずわれら踊りき

痩せ猫を紙の嚢に入れ閉ぢる 泯びの唄と海に棄てたり

腹中にたゆたふ菩薩ひきあげり 切り刻みたり溜池に棄つ

 

遠い日の時間〈全共闘騒動の時代〉に若きらが漂流していた。地獄極楽を行き来し血糊が付いた時間のなかで変質し石化。そんなものに囚われ、ひたに吁鳴き続けてきた男が、今その暮らしの断片を掬いあげ短歌と映した。作品に見える著者の自己打擲、粘着質な文体は強烈で衝撃的だ。その質感は戦後青春のひとつの淡い模様であり、それへの遅れた〈三下半〉だろう。また豊穣の今生にあって人が忘れようとしている深層からの声文だとも云える。  帯文より

 

 

四六版並製カバー装 1000円・税別